FIAの会長選挙には、現職のモハメド・ビン・スライエムを含む4人が立候補。選挙は12月12日にウズベキスタンで行われる

【】ベルギーの女性インフルエンサーが、突如としてFIA会長選挙への出馬を表明。候補者は現職のビン・スライエムを含む4人に

10月2日

 ベルギーのソーシャルメディアインフルエンサーで、元モデルのビルジニー・フィリポが、FIAの会長選挙に立候補すると発表し、多くの人々を驚かせている。かつて美人コンテストに出場し、その後リアリティ番組にも出演した33歳のフィリポは、FIA会長選の4番目の候補として華麗に出馬した。

 シンガポールGPに先立ち、インスタグラムの投稿で軽やかに発表されたフィリポの出馬によって、すでに予測できないものになっていた同選挙は本格的な余興へと変貌した。

 トラックサイドでの自撮りと、レッドブルの司会者を務めた以外、レースに関する実績はまったくないこのベルギー人女性の試みは、大胆な権力闘争ではなく、単に2万人を超える彼女のフォロワーに向けた究極のコンテンツ配信なのではないかと考えずにはいられない。フィリポの発表は、まるでモチベーションを高めるポスターが現実になったかのようだ。

「私はFIAの会長に立候補しています」と、フィリポはファンに語った。

「『最初』になるのではなく、私が最後にならないようにするためです」

「モータースポーツは、大胆で多様性があり、団結したものである現実世界を反映すべきだと私は考えています。世界的なビジョンと深いルーツを持つ女性として、私は長い間閉ざされていた扉を開くためにここにいます」

「あらゆる声、あらゆる物語、あらゆる情熱を真に受け入れるFIAを構築しましょう。未来に向けたレースが、今始まるのです」

■現職のビン・スライエムを糾弾した元スチュワードら4人での争いに

 12月12日にウズベキスタンの首都タシケントで予定されているFIAの会長選挙は、性別による解雇やスプリントレースについての言い争いなどの論争を乗り越えてスポーツを導き、2期目を目指す現職のモハメド・ビン・スライエムと、アメリカ人のティム・メイヤーとの激しい戦いになりそうだった。

 第12戦イギリスGPでの出馬発表の際に、ビン・スライエムの統治を“独裁”と糾弾した元スチュワードのメイヤーは、グランプリの常連であり、代表者たちと親しくしている。その後、スイスのスポーツカードライバーであるローラ・ヴィラールが登場した。彼女はアゼルバイジャンGPの直前に、「新しいビジョン」と「ビッグチーム」を発表し、透明性と持続可能性を約束して、同選挙に出馬する最初の女性としての地位を確立した。

モハメド・ビン・スライエム
2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP FIAのモハメド・ビン・スライエム会長
ティム・メイヤー
ティム・メイヤーがFIA会長選挙への出馬を正式発表

 そして、ソーシャルメディアのスクロールを通じて舞台の左から登場したのがフィリポだ。ブリュッセル生まれのこのインフルエンサーは、かつて2012年のミス・ベルギー大会や、2017年のミス・インターナショナル大会に颯爽と登場し、モデルの仕事を活かしてメディアでの活躍を散発的に展開してきた。

 彼女はフランスのリアリティ番組『Secret Story』や、ベルギーの『The Traitors』に出演したほか、ジャーナリストやレッドブルの司会者としてモータースポーツにも手を出しているようで、ホスピタリティスイートにいるファンのような熱意を持って、インスタグラムでF1やWECのイベントを記録している。

 なお、彼女のNGO団体『DriveForHope』は、コンゴ民主共和国の孤児を支援している。もちろんそれは立派なことだが、それがカートの規則やラリーのホモロゲーションを管理する資格を彼女に与えることになるのだろうか?

■部外者か、変わり者か?

 このスポーツは、会長らが147の加盟クラブを納得させ、数十億ドル(約数千億円)規模のテレビ契約を交渉し、モナコのエリートから泥だらけのラリークルーに至るまであらゆる人々の要求を満たす必要がある。フィリポの売り込みは、まるで次のF1エンジン凍結論争に決着をつけるためにTikTokでのダンス対決を提案しているかのように感じられる。

 彼女の出馬は単に予想外のことというだけではなく、答えよりも多くの疑問を生み、首をかしげさせるものでもある。確かに、多様性は今日の流行語だ。このレースで2番目の女性として、フィリポはチェッカーフラッグを振るマーシャルよりも激しく包括性の旗を振っている。

 しかし、上院議長やスポーツとモビリティ担当副会長など、完全なリストを候補者が揃えなければならないこの選挙において、彼女のネットワークはフロントウイングのエンドプレートほどに薄く見える。コース外でのドラマがコース上のオーバーテイクに匹敵することが多いスポーツに、フィリポのエントリーはちょっとした不条理を加えている。代表者たちは、彼女の「より公平な」FIAのビジョンを受け入れるのだろうか、それともミラーに映るバックマーカーのように猛スピードで追い抜いてしまうのだろうか?

 今週末、シンガポールのライトが消えていくなかでひとつ明らかなことがある。それは、モータースポーツのトップの座を争うレースにおいて、フィリポは馬力はないにしても、純粋な大胆さで他を圧倒していることだ。逆に言えば、彼女はパドックの戦いにおけるハイヒールを履いた候補者として記憶されるかもしれない。



(Text : autosport web / Translation:AKARAG)