パドック裏話:夏休みはゴルフに夢中
F1ジャーナリストがお届けするF1の裏話。第16戦イタリアGP編です。
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F1ドライバーともなると、付き合う相手も私たち一般人とは違うものだ。それはサーキットにいるときだけではなく、夏休みに少しリラックスした時間を過ごそうとするときにも言える。
8月にチームが休業していた間には、ドライバーたちの大半がシーズン中にはあまりできないアクティビティの機会を求めて、思い思いの場所で休暇を楽しんだ。
だが、ドライバーたちに特に人気のあるアクティビティはやはりゴルフで、彼らはこの夏の間に多くのラウンドをこなした。ランド・ノリスなどは、休暇中にやりたいことを3つあげてほしいという質問に、「ゴルフとゴルフ、あとはゴルフ」と答えたほどだ。
もちろん、このスポーツに精を出したのはノリスだけではない。ただ、彼の元チームメイト、カルロス・サインツの場合は、リフレッシュするためのゴルフで心身ともに痛みを味わうことになった。
いまやスペインのスポーツ界でビッグネームのサインツは、同国のアスリート仲間から多大な敬意を払われている。そのおかげもあって、彼はスペインのもうひとりのスポーツ界のレジェンド、テニスのグランドスラム(世界の四大大会)で22勝をあげたラファエル・ナダルとゴルフをする機会を得た。
これはとても興味深い勝負になりそうだった。昨年現役を引退したとはいえ、プロテニスプレイヤーだったナダルは、長時間にわたって高いレベルのプレーを続けることにかけては豊富な経験があるからだ。
ただ、ふたりのエリートアスリートが競技の場で顔を合わせると、いつもの闘争本能をオフにして、共有する時間を純粋に楽しむというのは、彼らにとってひどく難しいことだったりする。そして、サインツも認めているように、彼とナダルもやはりそうなるのを避けられなかった。
しかも、そのパーティにはカルロス・サインツSrも加わっていた。したがって、このラウンドはF1界とテニス界のプライドを懸けた勝負であると同時に、サインツ家のなかで誰が一番かという争いでもあったのだ。
この3人はいずれも優れたゴルファーであり、競争は滑り出しから熾烈をきわめた。サインツによると、彼とナダルはそれぞれが専門とするスポーツや、特有のメンタリティなどについての話は一切しなかったという。とにかく相手に勝つことばかり考えて、ゴルフのプレーに集中していたからだ。
ラウンド序盤の段階で、サインツは良いショットを打とうとするあまり、力が入りすぎていたことに気づいたが、やがてそれが無視できない問題に発展した。ナダルを相手にいい勝負をしたいと意気込んでいた彼は、ボールを強く叩きすぎ、しかも時には地面も一緒に叩いていたために、手に痛みを感じるようになってきたのである。
ホールを重ねるにつれて、サインツはジレンマを抱えることになった。同じスペインのスーパースターとゴルフをする機会はめったにあるものではなく、最後まで一緒にラウンドして、満足の行くプレーをしたい気持ちは山々だった。しかし、そのままプレーを続けると、手の痛みがさらに悪化しかねなかった。
夏休み明けの最初のレースを一週間後に控えていたことから、サインツはこの勝負を途中で棄権する決断をした。いかに負けず嫌いといえども、さすがに「ゴルフに真剣になりすぎて手を痛めた」と、ウイリアムズの首脳陣に打ち明けるハメになるのは避けたかったのだ。
サインツ自身とチームにとって、これは分別のある良い判断だった。翌週にザントフォールトでシーズン後半戦が始まったとき、彼は身体的には何の問題もない状態でチームに合流し、この一件を笑い飛ばすことができた。もし少しでも悪影響が残っていれば、笑いごとではすまなかっただろう。
結局のところ、彼は勝負の続きを父親に任せることになった。だが、サインツSrも息子に輪をかけた負けず嫌いで、ナダルに決して楽な戦いはさせなかったという。
レーシングチームとドライバーとの契約書には、危険を伴うアクティビティを禁止する条項があるのが普通だが、これまでゴルフがそのひとつに数えられたことはなかった。ノリスが練習のしすぎで肋骨を痛めたときにも、プレーの回数を減らせとアドバイスされただけで、禁止はされていない。
サインツは今回の冷静な判断によって、ゴルフがF1ドライバーにとって危険なスポーツと見なされるのを防いだとも言える。しかし、こうしてゴルフに夢中になるドライバーが増えると、いずれはチームの考えも変わるかもしれない……。
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