小さなチームが戦うには“互いのプッシュ”が不可欠/坪井は海外でTPCへ【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第10回】
2025年シーズンで10年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。2025年シーズンも後半戦に入り、オランダ、イタリアの連戦をもってヨーロッパラウンドが終結した。ハースはオランダでダブル入賞、イタリアではエステバン・オコン、オリバー・ベアマンともにペナルティを受けるなど、チームにとっては浮き沈みのある連戦となった。
また、8月に静岡県の富士スピードウェイでハースからTPC(Testing of Previous Cars/旧型車を用いたテスト)に参加した坪井翔が、イギリスのシルバーストン・サーキットで再びTPCでF1を走らせることが明らかになった。走行経験のないサーキットで真の実力が見えるからこそ、小松代表もその走りを楽しみにしているということだ。今回のコラムではオランダGPとイタリアGPを振り返りつつ、海外でのTPCへの注目やTPCに参加したスタッフの声をお届けします。
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■2025年F1第15戦オランダGP
No.31 エステバン・オコン 予選18番手/決勝10位
No.87 オリバー・ベアマン 予選19番手/決勝6位
■2025年F1第16戦イタリアGP
No.31 エステバン・オコン 予選15番手/決勝15位
No.87 オリバー・ベアマン 予選11番手/決勝12位
夏休みが終わり、後半戦が始まりました。オランダ、イタリアでの連戦が終わりヨーロッパラウンドともこれでお別れとなりますが、その連戦を振り返っていこうと思います。
オランダGPは、クルマが速かったのにふたりとも予選Q1敗退でした。よくなかった点は、ふたりともタイヤの使い方をきちんと把握していなかったことです。Q1の最後のランになってようやくどうすれば機能させられるかを理解したようですが、それではフリー走行1回目から何をしていたのか、という話になってしまいます。目標を決めて取り組んで、その答えの8割くらいは金曜日の夜にはわかっていなければいけません。土曜日のフリー走行3回目で最終的な微調整をして、予選の前には9割以上の答えが出ていないといけないんです。
これはチーム全員に伝えたことで、うちのような小さなチームが戦うには、みんながみんなのことをプッシュしまくって、士気を高めていかなければチャンスはありません。クルマに乗るのはドライバーのふたりで、そのふたりしかクルマのことは感じられないのだから、もし彼らが納得できる解決策を得られなかったら、もっともっとエンジニアをプッシュして、納得するところまでプッシュするべきです。土曜日の夜にそう話し、日曜日の朝も同じ話をして、それでようやくレースではいいオペレーションができました。全員が最大限の力を発揮してダブル入賞という結果が出たと思います。
レースの結果が予選順位よりよかったというのは、もちろんそれはそれでポジティブなことですが、裏を返せば、予選で毎回ミスをしているということです。18番グリッドとピットレーンスタート(編注:ベアマンはパワーユニットのコンポーネントを交換したため、ピットレーンからスタート)になったので、選択肢はハードタイヤでのスタートしかありません。そうなると、他チームが2ストップ戦略で走るところを僕たちは1ストップで走るとか、あるいは僕たちだけに有利なタイミングでセーフティカー(SC)が出るとか、そういうことにならない限りポイントを獲れないんです。
こういう戦略はそれ以外に僕たちに選択の余地がないからやっているわけで、そういう状況に自分たちを置いてしまうこと自体がよくないです。だから金曜からきちんと明確な目的をもって取り組みましょう、ということです。VF-25のパフォーマンスなら、タイヤの使い方を理解して予選を走れば2台ともQ3に進めます。ダブル入賞というレース結果がよかったことは評価していますが、チームとしてどれだけチャンスを失っているかを理解しないといけないです。
レース後には、みんながすごくよくやってくれて非常にいいレースだったこと、コミュニケーションもよかったし、チーム一丸となって戦えるというのを示せたとチームには伝えました。ただ、チーム一丸となって戦うことができるとはいえ、そのパフォーマンスをレースで発揮するだけでは不十分なので、イタリアGPではFP1からそうできるようにすることを目標にしました。
そんなことがあって迎えたイタリアGPは、FP1、FP2とプログラムの立て方やコミュニケーションはうまくいきました。が、FP3でうまくいかず、正直過去10年で最悪レベルのセッションになったので、そこからもう一度みんなで話をして、予選ではいいオペレーションができました。オリーが100分の1秒差でQ3に進めなかったのは、うちがモンツァ仕様のリヤウイングを作っていなかったからで、オリー自身はよくやってくれました。
レースもほとんどはうまくいきましたけど、ふたりともペナルティを受けたのはよくなかったです。特にオリーの方(編注:カルロス・サインツとの接触を引き起こしたとして10秒のタイムペナルティ)は、ドライビングのガイドラインを読んでいれば、あの状況ではサインツに優先権があるというのが明白です。明らかにサインツの方が半シャシー以上前にいましたからね。オリーは「サインツが自分にスペースをくれなかった」と言っていましたが、サインツがあそこでオリーにスペースを与える必要はありません。
一方で、これは僕の個人的な意見ですが、エステバンのペナルティ(編注:ランス・ストロールをコース外に押し出したとして5秒のタイムペナルティ)は厳しい裁定だったと考えています。最終的にストロールがランオフエリアに飛び出したわけですが、ストロールはかなりブレーキングを遅らせて突っ込んできていましたし、彼もリスクを取っていました。エステバンが唐突に動いたということでもないですし、完璧にストロールを押し出したわけでもないので、僕としては厳しかったなと思います。
8月に富士スピードウェイでTPC(Testing of Previous Cars/旧型車を用いたテスト)を行いましたが、そこでF1を初めて走らせた坪井翔選手に、もう一度シルバーストン・サーキットでのTPCで走ってもらう予定です。TPC後のコラムにも書きましたが、厳しい言い方をすると、坪井選手は全日本スーパーフォーミュラ選手権のチャンピオンなのであれくらいの走りはできて当然だと僕は思っていて、真の実力というのは走行経験のないサーキットでF1に乗った時に見えてくるものです。低速コーナーも高速コーナーもあり、F1で使われているシルバーストンでどのようなパフォーマンスを発揮できるのかを楽しみにしています。
富士でのTPCについては、ヨーロッパでもかなり話題になりました。今までわざわざヨーロッパから遠い日本まで行ってテストをするチームはなかったですし、僕たちがそれをやったことについてとても驚かれましたね。トヨタとの提携を通して僕たちがどういうことをしたいのかというメッセージに関心を持ってもらえているという意味ではいいことです。
TPCに参加したテストチームのスタッフは、「トヨタの人たちとの仕事はとてもやりやすい」と言っていました。メカニック、マネジメント、エンジニア、それにイギリスでテストをオーガナイズしていた人もそうです。僕は何ごとも物事の始まりが重要だと思っていて、最初から(トヨタの会長である豊田)章男さんと僕の間にある「どういう思いで、どういうことをやりましょう」という考えが一致して明確だからこそ、どうして富士でTPCをするのか、この提携を通して何をしたいのかをみんながわかってくれているのでしょうね。それを共有できていると、仕事がやりやすくなって、今のポジティブな体制になっているのだと思っています。これからも、もっともっとこの提携で真に強く速いレースチームを作っていきたいと思います。時間はかかりますが、何かを創り上げていく・文化を創っていくというのはそういうことなんです。ですから腰を据えて、しっかりと自分たちが何をしなければいけないのかを見据えてやっていきたいです。