デビューシーズンに向けたキャデラックの取り組み/スペイン人ライターのF1コラム
ふたりのレギュラードライバーも決定し2026年に向け体制を整えていくキャデラックF1。スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアがキャデラックについて語る。
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キャデラックがバルテリ・ボッタスとセルジオ・ペレスの起用を発表した。それはパドックで何カ月もの間、F1の最新チームに関する公然の秘密となっていたラインアップではあったが、F1の最新チームに関してまだ残っていた最大の謎のひとつが解明された。わずか半年後にはキャデラック製マシンがサーキットを走る予定となっているため、2025年のすべての準備を整える時期が近づいてきている。
現在のF1には10チームが参戦している。2017年のマノーF1チームの消滅以降ずっとそうだった。したがって、すでに長い間準備を進め、来年から11番目のチームとなるキャデラックが、グレアム・ロードンをチーム代表に迎えるのは、おそらく適切なことだろう。2015年シーズン終了までヴァージンとマルシャのCEOを務めたロードンの最近の経験は、少なくともスタート直後はチームの前進に非常に重要なものとなるはずだ。
もちろん、キャデラックが他の既存のチームから引き抜いた著名なチームメンバーはロードンだけではない。その意味では、ベネトン、ルノー、ロータス、アルピーヌを経てきたチーム・エンストンは、完璧な人材育成の場となっている。最高技術責任者のパット・シモンズ、運営責任者のロブ・ホワイト、テクニカルディレクターのニック・チェスター、主要エアロダイナミシストにジョン・トムリンソン、そしてアドバイザーとして徳永直紀といった顔ぶれが揃えられたのだ。
チームのシャシーについてはあまり語られていないが、今年5月から風洞にスケールモデルが設置されていることはわかっている。うわさによれば、ダラーラがキャデラックと提携しており、両チームともフェラーリとのつながりがあることから、彼らはハースと一種の“姉妹”関係になるという。実際、少なくとも今のところフェラーリは、キャデラックにエンジンを供給する予定となっている。ザウバーが来年アウディとなるため、フェラーリには新たなカスタマーチームを加える枠がひとつ生じたのだ。
しかし、キャデラックの将来の計画はまったく異なっており、自社製パワーユニットのデビューは2029年を目標としている。キャデラックの親会社であるゼネラルモーターズは、すでに300人から350人の従業員を雇用できるエンジンファクトリー建設を発表しており、すべてが予定通りに進めば、2027初頭にオープンするはずだ。またゼネラルモーターズが、現在もアルピーヌが使用しているルノーのF1エンジンプログラムの知的財産権の購入を検討している可能性があるとも報じられている。だがそのときまでは、フェラーリのエンジンとギヤボックスが使用される。
F1に参加するどのチームにも、取り組む必要のある運営上および物流上の課題は数多くある。皮肉なことに、現在協力関係にあるトヨタとハースがそのよい例だ。この日本の有名自動車メーカーは、2002年にシリーズに参戦した。最初の挑戦に備えて丸一年を費やし、カスタムメイドのマシンでできるだけ多くのテストを完了した後のことだ。それから15年も経たないうちに、ハースは通常のプレシーズン走行以外のテストを一切行わないまま、2016年にデビューを強いられた。
言い換えれば、F1でレースをする予定であれば、全員が準備万端であることを確認するために、少なくとも技術面でどのような準備をするか考えることが得策だ。F1のような極めて専門化された世界では、チーム内にこれまでF1で仕事をしたことのない人材が多数いることはまず考えられないが、チームとして働く経験をできるだけ多く積むのはよいことだ。その意味では、キャデラックは新しいチームとして最善を尽くしていると同時に、非常に興味深い別の計画も立てているようだ。
まず、キャデラックはすでにシルバーストンにあるF1に重点を置いた拠点で活動しており、マーカス・エリクソンがチームの一種のテストドライバーとして、実際の2025年のグランプリと並行して行われるバーチャルレースウイークに参加している。これにより、2026年にレースが始まったときに、物事が可能な限りスムーズに進むようにするための内部プロセスを構築するという点で、チームは現実と直結する経験が得られるような方法で作業ができるようになる。
準備を強化できるもうひとつの選択肢は、新車が完成する前の2025年後半か2026年初頭に、他チームの古いマシンを走らせてテストを行うことだ。マシンを提供する第一候補は、キャデラックとの技術的な提携が確認されているフェラーリになるだろうが、チームとダラーラの提携の噂を考慮すると、2023年シーズンのハースVF-23を使用することも可能かもしれない。
キャデラックのデビューシーズンに向けた取り組みに関する最新のビッグニュースは、最初のドライバーラインアップであり、バルテリ・ボッタスとセルジオ・ペレスがこの仕事に選ばれたということだ。一部の人々は、これを退屈な選択だと考えている。コルトン・ハータを含む将来有望な若手アメリカ人ドライバー候補のような、大胆な選択肢を選んでいないというのだ。しかし、なぜそのような選択となったのか理解するのに、それほど時間はかからない。経験は確かに重要だが、明らかなこと以外にも重要なことがある。
結局のところ、ボッタスとペレスの両者はトップチームに所属し、コンストラクターズ選手権を争い、勝ち取るということを知っている。また、彼らには中団チームでの経験もあるが、それはキャデラックがこのスポーツに参入する際に期待されるレベルと一致している。実際、彼らがすべてのライバルチームから後れをとってシーズンを終えたとしてもまったく驚くことではないが、これはチームをできるだけ早く、そしてできるだけうまく構築することを目的としたタイプの選択だ。「『なぜ?』と思うかもしれない。それには、キャデラックのドライバー選択には重要な秘密があると言おう。
ボッタスとペレスは、現在所属しているメルセデスとレッドブルでの知識を活かして北米のチームに加わる。彼らは、2009年から2023年までF1ですべてのタイトルを獲得したチームの内部事情を熟知している。技術面と運用面双方についてのこうした情報はすべて、比喩的に、そして文字通りに、キャデラックがスピードを上げるのに役立つだろう。そして、まだ始まったばかりのチームにとって、これは次の大物ドライバーを起用するよりもはるかに重要だ。なぜなら、適切な組織がなければ、世界最高のドライバーでもよい結果を出すことはできないからだ。
現在のドライバーたちが、サーキットで最高の結果を出すのに必要な資質を備えているかどうかは、時が経てばわかるだろう。しかし、チームを編成するためには、未来を見るよりも過去を振り返ることのほうが重要だ。