「あなたにとってレッドブル初優勝だ。おめでとう」新体制での勝利をフェルスタッペンが祝福【F1第16戦無線レビュー(2)】
2025年F1第16戦イタリアGP。首位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)を追いかけるマクラーレン勢は、ピットストップ時にミスがあり、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリの順位が入れ替わってしまったが、幸いチームオーダーによりすぐに順位は戻された。一方首位を走るフェルスタッペンは、レースエンジニアの言葉通りレースに集中し、ローレン・メキース代表が率いる新体制で初優勝を飾った。イタリアGP後半を無線とともに振り返る。
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レース中盤の23周目。エネルギー回生の不具合に見舞われ、15番手まで順位を落としていたフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)を、さらに深刻なトラブルが襲った。
アロンソ:サスペンショントラブルだ。
クリス・クローニン:戻って来られるか?
アロンソ:ああ、なんとか。信じられないよ。
クローニン:残念だ。ついていなかったな。
アロンソ:今日は何ポイント失ったんだ? 4か、6か?
クローニン:おそらく6ポイントだ。
アスカリの高速シケインで、縁石に激しく乗ってサスペンションが壊れた可能性がある。決勝レースは8番手スタートだったが、アストンマーティンとアロンソは7位入賞は可能だと踏んでいたようだ。
トラブルの起きる数周前、アロンソは7番手のガブリエル・ボルトレート(キック・ザウバー)に激しく迫っていた。
ヨルン・ベッカー(→ボルトレート):アロンソが「ペースを上げろ」と指示されている
しかしまもなくアロンソは戦線離脱。ボルトレートも早めのピットインで大きく後退したが、そこから着実に順位を上げ、最終的に8位入賞を果たした。
3番手を走るオスカー・ピアストリ(マクラーレン)に、新たな指示が飛んだ。
26周目
トム・スタラード:プランA+15で行けそうか。
ピアストリ:行けると思う。
プランAは1回ストップ作戦。スタートタイヤのミディアムの交換タイミングを、15周遅らせる戦略だ。ピアストリが実際にピットインしたのは、レース終盤の45周目だった。
対照的に7番手のアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)はタイヤの劣化に手こずり、ターン1で止まりきれず直進していった。
ピーター・ボニントン(→アントネッリ):キミ、BB(ブレーキバランス)に気をつけろ。特にターン1と4だ。
フラットスポットを作ったアントネッリは、直後にピットに向かった。
29周目
ウィル・ジョゼフ:このまま延ばして、ソフトで行くのはどうだ。
ランド・ノリス:いいと思う。
ピアストリ同様、ノリスも終盤まで引っ張る作戦に出た。やはりマクラーレンの2台は、タイヤマネージメントが強力な武器だ。
30周目。17番手の角田裕毅(レッドブル)はターン1でリアム・ローソン(レーシングブルズ)をいったん抜いたものの、第2シケインで追いつかれ、ブレーキングで接触してしまう。
角田:何やってるんだ!
リチャード・ウッド:(タイヤ)プレッシャーは大丈夫だ。
ローソン:押し出された。
この攻防自体はお咎めなしとなったが、角田は車体にダメージを負い、レースペースはさらに悪化した。
33周目。シャルル・ルクレール(フェラーリ)がピットインし、4番手から6番手に後退した。この決断に、ルクレールは納得がいかない。
ルクレール:後ろの心配がないんだったら、どうして今ピットインしたんだ?
ブライアン・ボッツィ:後で話し合おう。
上位3人と同じ1分22秒台で周回していたルクレールにすれば、このタイミングのピットインは早すぎたという思いなのだろう。一方フェラーリ陣営は、早めにピットインしてペースを上げていたジョージ・ラッセル(メルセデス)を警戒しての措置だったと思われる。最終的にルクレールはラッセルの3秒前で4位入賞。これが最善の戦略だったようだ。
ウィル・ジョゼフ:ソフトを履くのはどう思う?
ノリス:前のクルマの逆をやろう。
37周目にピットインした首位フェルスタッペンは、ハードを装着。ノリスは46周目にソフトに履き替えた。
ハミルトン:ピット作業、素晴らしかった。行き過ぎてしまって申し訳ない。
38周目のピットインで、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)はわずかに停止位置を行き過ぎた。しかしピットクルーはほとんどタイムロスせず、わずか2.1秒でハミルトンを送り出した。
40周目のターン4で、カルロス・サインツ(ウイリアムズ)とオリバー・ベアマン(ハース)が接触。2台ともなんとかコース復帰した。
ガエタン・イエゴ:プレッシャーは問題ない。
サインツ:左側をチェックしてくれ。
イエゴ:今のところ、大丈夫だ。ベアマンがブレーキを遅らせすぎたね。
ロナン・オヘア:オリー、大丈夫か?
ベアマン:まるで僕がいないみたいに、ターンインしてきた。
オヘア:落ち着いて、レースを続けろ。まだチャンスはある。
43周目、アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)が9番手アントネッリに迫っていた。
ジェームズ・アーウィン:近いが、まだ少し距離がある。
アルボン:冗談だろう。ここで行く。ここしかないよ。
第1シケイン立ち上がりでアントネッリの背後につけたアルボンは、第2シケインのブレーキングで抜き去っていった。
44周目
ジョゼフ:ランド、ここでボックスしてソフトに交換だ。
ノリス:僕が先なのか? それとももう1台が先?
ジョゼフ:もう1台が先だ。逆の順番で行く。ステイアウトしろ。
ノリス:アンダーカットされないといいけど。そうじゃなければ、僕が先だ。
ジョゼフ:アンダーカットはない。
45周目、まずピアストリがソフトに交換。1秒9でピット作業をこなし、コースに復帰した。
スタラード:アウトラップでは背後のルクレールに気をつけるんだ。このあとランドが先行したら、そこからは自由に戦っていい。
ところが続く46周目にピットインしたノリスは、左フロントタイヤの交換に手間取り、ピアストリに先行されてしまう。
首位フェルスタッペンはマクラーレン勢に20秒前後の大差をつけ、独走体制に入った。
ジャンピエロ・ランビアーゼ(→フェルスタッペン):すべてのハードワークをやり終えたぞ。あとはクルマを安全に持って帰るだけだ。ノーリスクで行くんだ。
フェルスタッペン:わかった。ノーリスクで、フルプッシュで行くよ!
48周目
ジョゼフ(→ノリス):ランド、順位を元通りにする。
スタラード:オスカー、これは去年のハンガリーと同じ状況だ。チーム側の理由でこういうピットインの順位だった。なのでランドを先行させるんだ。そのあとは、自由に戦っていい。
ピアストリ:ピット作業も、レースの一部だよね。まあ状況は大きく変わるわけじゃない。あなたがそこまで言うなら、わかったよ。
去年のハンガリーGPでは、先にピットインしたピアストリがノリスに先行され、最後に順位を交換してキャリア初優勝を果たした。それと同じ状況だといって、チームはピアストリを説得した。
スタラード:1コーナーで譲るんだ。辛いと思うが、まだ残り5周ある。
ランビアーゼ:ノリスとピアストリが順位を入れ替えた。
フェルスタッペン:ピット作業が遅れたから?
ランビアーゼ:ああ。僕らには関係ない話だが、ドライバーふたりをフェアに扱ったということだ。マックス、きみは自分のレースに集中してくれ。
フェルスタッペンはポール・トゥ・ウインを達成。日本GP、エミリア・ロマーニャGPに続いて、今季3勝目を挙げた。
ランビアーゼ:マックス、素晴らしい勝利だ。イタリアンダブルだ。よくやった。
フェルスタッペン:まさか勝てるとはね。信じられないよ。みんな、よくやってくれた。
ここでローラン・メキース代表が割って入った。
メキース:また最高のレースを見せてくれたね。マクラーレンに20秒差。レースをコントロールし続けた。言うことはない。
フェルスタッペン:あなたにとって、レッドブル初優勝だね。おめでとう!
スタラード:オスカー、君には感謝しかない。辛い展開だったと思うが、正しいことをしてくれた。
ピアストリ:決して順調な週末じゃなかったけど、でもここまでやれた。みんなありがとう。