2025.08.26

F1富士テストは大成功。緊張の坪井は「いい表情をしていた」及第点の走りを披露【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】


富士スピードウェイで行われたTPCに参加した坪井翔(写真左)と、ハースF1の小松礼雄代表
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 2025年シーズンで10年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。F1第14戦ハンガリーGP終了後、8月6日(水)、7日(木)に静岡県の富士スピードウェイでハースのTPC(Testing of Previous Cars/旧型車を用いたテスト)が行われた。参加したのはハースのリザーブドライバーを務める平川亮と、国内の選手権で2冠を達成した坪井翔。サーキットには2日間で6200人の観客が来場し、テストにもかかわらず大きな盛り上がりを見せた。今回はそんなTPCについて、来場した観客を楽しませるための取り組みや、坪井のF1初ドライブ、そして2025年シーズンの前半戦を小松代表が振り返ります。

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 富士でのTPCが終わりました。結果的には大成功に終わったと思っています。準備や告知に遅れが出てしまい、ちょっと準備不足なところもありましたが、あれだけたくさんの方々が来てくださって、楽しんでもらえてよかったです。

 今回はクルマを走らせること以外に、どうやってファンのみなさんと接する機会を作るか、ハースのことをもっと知ってもらうためにはどうしたらいいのか、ということを考えていました。その一環で、今回僕たちが使用したガレージのすぐ近くに設けた『激感ピット』には、チームのこれまでの歴史を振り返ることができるパネルを展示しました。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードの時にアクティベーションスタンドを用意したら大盛況だったので、そこからヒントを得て、トヨタに展示用のデータを送り日本語の翻訳も追加してもらって設置しました。本当はそこにシミュレーターも置くはずだったのですが、今回はできずに終わってしまい残念です。

 またシャツなどのグッズも可能な限り持ってきたつもりだったのですが、すぐに完売してしまったと聞いています。サイン会の整理券も、2日とも早々に配布終了になったとのことでした。走行後のトークショーにも大勢の方が来てくださったのも嬉しかったですね。

 これはグッドウッドの時にも感じたことで、ファンの人たちがチームやドライバーと近くで接することができるというのは、すごくいいことだと思っています。普段のグランプリだったらなかなかパドックには入れないし、サーキットで出待ちをしてもドライバーに会えるのは一瞬ですよね。もちろんクルマとの距離も遠いです。だから激感ピットのように、バリアのすぐ向こう側をクルマが走っていたり、働いているチームスタッフやドライバーが近くにいるという環境が理想だと考えていたんです。そういう考えもあって今回はサイン会なども開きました。僕たちは、このチームをコミュニティと一体化したようなチームにすることを目指しているので、グッドウッドもTPCも本当にやってよかったなと思います。

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
『激感ピット』では、目の前を通過するF1マシンを間近で見ることができた
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
TPC初日のサイン会に参加した坪井と小松代表
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
TPC初日の走行後に行われたトークショー。小松代表、平川、坪井の3人が参加した

 さて今回初めてF1をドライブした坪井選手についてですが、実は走りに関して僕はあまり細かく見ていなくて、チームに任せていました。僕が彼に伝えたのは、「先のことは考えずに、この瞬間、1周1周を楽しんで走って」ということです。今この瞬間がどれほど大事なものかを考えて、それを楽しんでほしかったのです。ただやはり最初はかなり緊張していて、ガレージから出ていく時にクラッチの繋ぎ方に苦労していました(笑)。

 事前に「1周目は緊張すると思うけど、1周走れば大丈夫」とも話していて、実際にその通り2周目からはよく走ってくれました。最初は高速コーナーでうまく走れていなかったですが、すぐに合わせられていましたし、ブレーキングもすぐに攻められるようになっていました。厳しい言い方をすれば、全日本スーパーフォーミュラ選手権のチャンピオンだからこれくらいの走りができて当たり前だとは思いますが、それでもミスをすることなく1日走り、体力的にも問題なかったですし、F1初走行としては及第点だったと評価しています。

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
VF-23をドライブする坪井翔
ハースF1富士TPCテスト2日目
ハースF1富士TPCテスト2日目にF1初ドライブを果たした坪井。この日108周を走行した

 ひとつ驚いたのは、坪井選手が走り出す時に、ガレージの周りにすごい数のメディアがいたことです。僕は以前バレンシアでエステバン(・オコン)のF1初走行にエンジニアとして参加しましたが、その時メディアは誰も来ていませんでした。今回一緒に走行を見ていた平川選手も、「バルセロナで初めてF1のテストをした時は誰もいなかったので、(これだけたくさんの人が注目してくれて)幸せですね」と言っていたほどです。

 坪井選手にとって富士は走り慣れたサーキットですし、テスト2日目は気温も路面温度も初日より低かったので、走ればそれなりのタイムが出るというのはわかっていました。だから僕はタイムよりも、彼が走行後にどんな顔をするのかが気になっていたのですが、すごくいい表情をしていたと思います。この日はトヨタの豊田章男会長も来てくださって、章男さんも「(坪井選手が)どんな顔をしているのか見に来ました」と仰っていました。

 章男さんとはサーキットで1時間くらい話すことができて、ハースとトヨタが提携することでどうしたいのかという考えを再確認して、それを実現するためにはどうすべきかということを話し合いました。初日の記者会見で加地(雅哉/TOYOTA GAZOO Racingのグローバルモータースポーツディレクター)さんが「文化を作っていく」と言っていた通り、僕もそうしたいのです。それをハースとトヨタが一緒にやることが、日本にモータースポーツの文化を根付かせることに繋がると僕は考えていて、その考えは僕も章男さんも変わっていません。

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
ガレージで会話を交わすハースの小松礼雄代表と、トヨタの豊田章男会長
【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第9回】
TPCの2日目、108周を走った坪井。小松代表は及第点の走りだったと評価し「いい表情をしていた」と振り返った

■チームを強くする「基盤」を築いたシーズン前半戦

 2025年シーズンの前半戦は、本当にアップダウンが激しくて、いいところはたくさんありましたが、悪いところもまだまだ多かったという感想です。第2回のコラムに書いたように、開幕戦ではプレシーズンテストでは出てこなかった問題が出て、第2戦中国GPではチーム一丸となってその問題を把握して解決に向かうことができたので、こういうチームのリアクションはとてもよかったです。

 第7戦エミリア・ロマーニャGPでも改善し、第12戦イギリスGPでのアップデートによってVF-25は本当に速くなりました。この一連の流れのなかで対応の仕方やチームワークを見てきたので、本当嬉しいですね。問題が起きた時というのは人の本性が見える時でもありますが、そこで僕たちは崩れずに、とにかく問題を受け入れてみんなで一丸となって取り組むことができました。チームワークというのはチームをよくしていくための基盤だと思うので、それが徐々にできつつあると感じています。

エステバン・オコン(ハース)
2025年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP エステバン・オコン(ハース)

 またクルマのアップデートがうまくいったことで、僕たちは今年も「シーズン中にクルマをアップデートすることができる」という自分たちの能力を証明することができました。これもまた自信に繋がります。開幕戦で問題が露呈した時に、チームのみんなに「今ここにいる人たちは、去年VF-24をあれほど開発できた人たちと同じだから、一致団結してやれば今の問題も解決できるし絶対にクルマを速くできるはずだ」と伝えました。みんなに言いながら自分に言い聞かせていた節もあります。そうして人を信じて任せる力も養われましたね。

 反省点は、特にイギリスGP後に速いクルマがあるにもかかわらずポイントを獲り逃していることです。コンストラクターズ選手権の9位という位置は、僕たちがいるべきところではないですし、後半戦はもっと高いレベルで戦えなければいけません。

 今年は昨年と比べて、ウイリアムズやキック・ザウバーが体制を立て直しましたし、レーシングブルズも速いですよね。でも、そのなかでもVF-25は劣っていないと考えています。問題のあった開幕戦から現在までにクルマを速くすることができましたし、昨年のように他チームが躓いていなくても戦えるレベルに到達できたのはチームにとってポジティブなことです。クルマの速さで言えばハースは5番手くらいにつけていると思うので、それに見合う成績が必要ですし、このクルマなら可能だと思います。後半戦は、目標は変えずに、すべてを出し切れるように戦っていくつもりです。



(Text : Ayao Komatsu)

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