角田裕毅とエンジニアの齟齬とピットタイミング。海外で戦う若き日本人F1候補生【中野信治のF1分析/第13戦&第14戦】
サマーブレイク前の2連戦は、いずれもマクラーレンが他を圧倒。一方のレッドブルはチーム代表交代に始まり、角田裕毅とエンジニアのコミュニケーションミスに加え、マックス・フェルスタッペンですら苦戦する厳しい状況が続きました。
今回は、ローラン・メキースのレッドブル代表就任とその影響、ドライバーとエンジニアの相性、ハンガリーGPで好走見せたアストンマーティン勢、そして海外で戦う若手日本人ドライバーについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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ベルギーGPは、クリスチャン・ホーナーに代わってメキースがレッドブルのチーム代表に就任して迎えた最初のグランプリとなりました。チーム代表の交代理由が定かではないこともあり、メキース代表に代わってどのようにチームが変わっていくのかはまだわかりません。
メキースはエンジニア出身ということもあり、ドライバーからすれば仕事がやりやすくなるかもしれませんね。とはいえ、仕事がやりやすい=結果に繋がると言えるほど、F1はシンプルで簡単なものではありません。苦戦が続くレッドブルにとって、メキースの代表就任は変化のきっかけとなるとは思いますが、結果を含めた本当の意味での変化にはすごく時間がかかるだろうと見ています。
私がF1に参戦していたころのチーム代表は、チームオーナーが兼務していることが少なくなく、チームの仕事であれば細かいひとつひとつを指導する監督的な存在でした。現在のチーム代表の仕事は、財政面を含めF1チームを会社としてマネジメントすることです。エンジニア出身で、チーム代表としてのキャリアは2024年のレーシングブルズからと短いメキースが、飲料メーカーのレッドブルというオーナーのもとでレッドブル・レーシングという会社をどのように導くのか。そして、メキースが苦境を脱するために、チームの何を変化させたいのかは、注視しています。
そんなレッドブルの苦戦ぶりは厳しく、ハンガリーGPではあのフェルスタッペンですら予選8番手に終わる状況となりました。走りを見るに、全体的にグリップ感がなく、アンダーステアやオーバーステアなどという前にタイヤが路面を捉えることができていない深刻な状況でした。ハンガロリンクは例年レッドブルにとって相性の悪くないコースでしたが「どうしてこんなに悪くなるのかな」と、正直驚きました。
ただ、裕毅にとってポジティブだったのは、ハンガリーGPの予選Q1でフェルスタッペンに0.163秒差まで迫ったことです。予選16番手でQ1敗退、決勝は17位というリザルトだけを見てしまうとネガティブな印象を抱かれてしまいそうですが、レースウイークの中身を見てみるとベルギーGPはフロアを変更した後は、その分のタイムを上げていますし、続くハンガリーGPもライバル勢とそこまで大きなタイム差があったわけではありません。
一発のタイムアタックでフェルスタッペンとの差が大きくないということが見れたのはポジティブでした。つまり、クルマのポテンシャルが上がった際にフェルスタッペンとのタイム差を0.1秒台でキープできれば、トップ5に入れることを意味します。そのため、現状の裕毅に対しては「やれることをやっているな」という印象を抱いています。
とはいえ、ベルギーGPでは裕毅とエンジニアのコミュニケーションの齟齬から最適なピットタイミングを逃しています。続くハンガリーGPでも1回目のピットタイミングについて誤解が生じ、ポジションを失った裕毅はハンガリーGPのレース後に『エンジニア陣とのコミュニケーションであまり息が合っていないので、それが最大の課題です』という内容のコメントをしていました。
ドライバーとエンジニアには相性があります。ドライバーにとってエンジニアはもっとも近い存在で、1言えば10理解してほしい、阿吽の呼吸で物事を進めることができる関係を構築したいと考えます。無線を聞く限り、エンジニアとのコミュニケーションはチグハグな感じです。
ただ、ベルギーとハンガリーで問題となったシチュエーションは、エンジニアにとって判断がものすごく難しい、レースの展開を大きく左右するような場面でした。また、国際映像などで無線音声は、F1の映像スタッフが内容を聞いた上で放送に載せるか否かを判断することもあり、必ずしも映像と同じタイミングではありませんので、そこは留意する必要があります。
レッドブルは、もともと戦略面で強く、ミスが少ないことがチームの強みでした。そのレッドブルが戦略や物事への対処の仕方で他チームに劣るのかという点には疑問を抱いています。なぜ裕毅との無線で齟齬が出てしまうのか。これは全部の無線を、いつどこを走っているところで発せられた言葉なのかをすべて理解した上でないと、原因はわかりません。そして、それに対する分析は、おそらくレッドブルのなかで進められているでしょう。状況を好転させるためには、裕毅とエンジニア陣がお互いに歩み寄り、改善し続けるしかありません。