【決勝日レポート】
【F1第10戦決勝の要点】ついに起きたマクラーレンの同士討ち。即座に非を認めたノリス
ついに起きてしまったいうべきか。レース終盤の67周目、マクラーレンのランド・ノリスとオスカー・ピアストリが同士討ちを起こし、ノリスはそのままリタイアを喫した。
この週末のマクラーレン勢に、前戦スペインGPまでのような圧倒的な強さはなく、レースでは終始メルセデス勢とマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の後塵を拝する展開だった。
終盤59周目、5番手ノリスが先行する4番手ピアストリの1秒以内まで迫った。チームからも「DRSに入った。オーバーテイクして行こう」と、チーム内バトルの許可が出た。
そうして迎えた66周目、ターン10(ヘアピン)の進入でノリスがインを刺し、いったんは先行する。しかし立ち上がりでピアストリがやや前に出て、そこからはサイド・バイ・サイドとなる。3番手アントネッリがピアストリの前1秒以内の位置にいたため、マクラーレンの2台はともにDRSオープンの状態でバックストレートを全開加速していった。
最終シケイン(ターン13〜14)手前のブレーキングでノリスがやや引き、ここもピアストリが先行する。メインストレートを立ち上がったピアストリは、アウト側(ピットウォール側)にマシンを寄せる。背後のノリスはピットウォールとの狭い隙間にねじ込んで行き、右フロントタイヤがピアストリの左リアと接触。ノリスは反動で、ウォールに突っ込んでしまった。
チームメイト間に明確な序列がなく、ふたりが激しいタイトル争いをしていたら、いつかは起きうる事故ではある。古くは1980年代、マクラーレン・ホンダ時代のアイルトン・セナとアラン・プロスト。約10年ほど前にはルイス・ハミルトンとニコ・ロズベルグがメルセデスでも見られた戦いだ。
同じマシンを駆るだけに、打ち負かしたい気持ちは他チームのライバルに対するそれを凌ぐ。それでもタイトルが明確に見えない時期なら、ふたりで協力して速いマシンを作ろうとする。ハミルトンとロズベルグも2013年は、和気藹々とまでは言わないが、表立った確執はなかった。しかしV8エンジンからV6パワーユニット(PU)規定に変わり、メルセデスの1強時代の始まった翌2014年からは完全に宿敵となり、コース上での接触事故はもとより、PUにトラブルが続いたハミルトン陣営は、陰謀説を出したりもした。
それに比べればマクラーレンのふたりは、ドライバーズ選手権で1、2位につけてからも、相手を十分に尊重し合っているように見える。ピアストリは、まだ24歳とはとても思えない自制心の持ち主だ。そしてノリスは、とにかく心根が優しい。
クラッシュ直後、普通なら口をきわめて相手を罵倒するところだが、ノリスは無線でこう言った。
「僕のせいだ。みんな僕が悪かった。バカだった」
今年になって成長著しいチームメイトに対する焦りの気持ちも合っただろう。にしても「自分が悪い」と口に出してしまうところが、ノリスらしいという他ない。この種の同士討ちで、すぐに自分の非を認めるドライバーを僕は初めて見た。そこがノリスの一番の弱点なのだろうが、こんな性格の世界チャンピオンがひとりくらい居てもいいとも思う。