2025年F1第4戦バーレーンGP 角田裕毅(レッドブル)

【】曲がらないレッドブルと角田裕毅に見えた光明。マクラーレンのふたりのブレーキングの違い【中野信治のF1分析/第4戦】

4月17日

 バーレーン・インターナショナル・サーキットを舞台に開催された2025年F1第4戦バーレーンGPは、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポール・トゥ・ウインで今季2勝目/キャリア通算4勝目を飾りました。

 今回は、マクラーレンふたりのドライビングの違い、苦しい状況下で移籍後初入賞を果たした角田裕毅(レッドブル)、そして今季初F1出走を果たした岩佐歩夢(レーシングブルズ・リザーブドライバー)について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

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 バーレーンGPもマクラーレンが強さを発揮し、なかでもピアストリが予選・決勝を通じて他を圧倒する走りを見せました。ランド・ノリス(マクラーレン)が予選で6番手となってしまうもピアストリはしっかりとポールポジションを手にし、まさにピアストリが乗れていた週末だったと感じます。

 今季これまで最速マシンのマクラーレンですが、バーレーン・インターナショナル・サーキットでは少しクルマの挙動がピーキーに見えました。複合コーナーの多いバーレーンのようなリヤタイヤがピーキーになりやすいサーキットでは、ピアストリのドライビングが生きていたように見えます。

 ピアストリのドライビングスタイルをひと言で表すとすれば『クルマを止めすぎない』です。ブレーキを踏んでターンインしてからブレーキを抜くのが早く、コーナーの中でクルマの向きを変えています。対するノリスはブレーキングでしっかりと減速し、コーナー入り口の時点でクルマの向きを変え、出口へ向けて一気にスロットルを踏むスタイルです。

 ピアストリは『中』、ノリスは『入り口』というコーナーでクルマの向きを変える場所の違いが、今回のバーレーンでは顕著に現れていましたね。コーナーの入り口でクルマがナーバスになっている際もピアストリは抑えることができていました。

 今回のバーレーンGPは路面温度も高く、路面のグリップが低いなかでもマクラーレンは他を上回る走りをしました。ただ、それでも他のサーキットよりはグリップしないコンディションだったこともあり、あのマクラーレンですらもナーバスな挙動を見せるコーナーがありました。その状況で、ピアストリのドライビングスタイルがハマったことが、彼がレースウイークを支配できた要因です。

 当然、今後はノリスのしっかりと減速するドライビングスタイルがハマるサーキットもありますし、そこではノリスがレースウイークを支配することもあるでしょう。ただ、バーレーンGPの予選や日本GPのデータを見返すと、今のマクラーレンのクルマはどちらかといえばピアストリの『クルマを止めすぎない』ドライビングスタイルが合っているように感じつつあります。そこが2025年シーズンの行方を左右する要素となりそうです。

2025年F1第4戦バーレーンGP 表彰式
2025年F1第4戦バーレーンGP表彰式 左から優勝したオスカー・ピアストリ(マクラーレン)、アンドレア・ステラ代表、3位に入賞したランド・ノリス(マクラーレン)

■やれることをやりきった角田裕毅の移籍後初入賞。戦略的正解を導いたレッドブル

 裕毅は9位でバーレーンGPを終え、移籍2戦目にしてレッドブルでの初入賞となりました。決して簡単な状況ではないなか、クールに、確実に自分自身がすべき仕事をやり遂げました。予選を迎えるまで裕毅はかなり苦しんでいましたが、決勝ではチームのコンストラクターズ争いも鑑みて決して無理することなく、実に冷静に戦えていたと思います。

 レッドブルのクルマは、バーレーンでもフロントのアンダーステアの強く曲がらないクルマでした。そのアンダーステアを消そうという走りをすればするほどリヤタイヤがピーキーになってしまう。フロントもリヤもフォーカスすることができないので、セットアップも大味なところで戦うしかないというイメージです。そのため、速さもなければタイヤの保ちの面でも優位性がありませんでした。

 それでも、やはりレッドブルはさすがだなと感じたのは、最終スティントで裕毅にソフトタイヤを履かせるという、戦略面での正解をしっかりと導いていたことです。ここはレーシングブルズとは違うなと感じた瞬間でした(苦笑)。クルマ自体のポテンシャル不足から苦しい状況のレッドブルですが、数ある可能性のなかから正しい戦略を導くのはさすがトップチームです。ここは今後の裕毅の戦いにとってポジティブな一面に感じます。

 とはいえ、今回発生したピットストップ時のライトのトラブルはもったいなかったですね。ピットで数秒のロスが生じることはドライバーに、強烈なストレスを与えます。ですが、裕毅は無線で冷静にコメントするなど、成長ぶりも示してくれましたね。

 レッドブルというチームでは、怒りに任せた激しいコメントは許されないことでしょう。無線の先には激しいコメントを嫌うクリスチャン・ホーナーがいますしね。ホーナーの存在は裕毅にとっていい意味での抑止力になっていると思います。それが裕毅にとってもマインドセットの面でいい方向に働き、好循環を生み出しているとも感じました。

 バーレーンGPの週末はレッドブルにとって理想的な週末とはなりませんでした。それでも、マックス・フェルスタッペン、そして裕毅はやるべきことができた一戦でした。次戦サウジアラビアGPの開催されるジェッダはストレートスピードの速いレッドブルにとって相性の悪いサーキットではないと思います。 

 正しい戦略を導く強さと、チームを信じて戦うドライバーふたりの仕事ぶりがすべてポジティブに働けば、ジェッダでもクルマのポテンシャルを超える結果が得られるのではないかと思います。そういった可能性も抱くことができたバーレーンGPのレースウイークでした。

角田裕毅(レッドブル)
2025年F1第4戦バーレーンGP 角田裕毅(レッドブル)

■ヘルムート・マルコが話した岩佐歩夢への課題

 さて、バーレーンGPではフリー走行1回目(FP1)に平川亮選手がハースから、そして岩佐歩夢がレッドブルから出走しました。平川選手にとっては2週連続のFP1、歩夢にとっては今季初であり、初のレッドブルでの走行でした。

 特に、鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ(SRS-F/現:ホンダレーシングスクール鈴鹿/HRS鈴鹿)を受講していたころから見てきた歩夢が、レッドブルのマシンでFP1に出走したことは、個人的にも嬉しい出来事でした。しっかりとチームから課せられた走行プログラムをこなしていたように思います。

 歩夢のチームへのフィードバックや初めてのクルマへの適応力は、今後レッドブル、レーシングブルズが『何かあった際に歩夢を』と考える際の指標にもなると思います。今後もFP1出走はあるかもしれませんが、その際に歩夢がすべきことは、ミスなくチームが望む以上のデータやコメントといったチームにとって有益なものをもたらすかだと思います。

 そして、それだけではなく歩夢にとってもっとも大切なことは2戦目を迎えた全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)で結果を出すことです。日本GPの際、鈴鹿でヘルムート・マルコ(レッドブルのモータースポーツコンサルタント)と会話する機会があったのですが、彼は歩夢についてSFでの結果が大切だと話すと同時に『チームメイト(野尻智紀/TEAM MUGEN)には勝たなければならない』と語気を強め、しきりに話していました。

 F1でのリザーブドライバーとしての仕事とともに、SFでの戦いは、歩夢の今後を占う上での判断基準となります。そういう意味でも、今季はF1だけではなくSFでの歩夢の戦いをしっかりと注視しておきたいと思います。

岩佐歩夢(レッドブル)
2025年F1第4戦バーレーンGPフリー走行1回目 岩佐歩夢(レッドブル)

【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)

1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。



(Shinji Nakano まとめ:autosport web)