最速マクラーレンの不運と横綱フェルスタッペン。レッドブルでも戦える角田裕毅【中野信治のF1分析/日本GP特別編2】
鈴鹿サーキットで開催された2025年F1第3戦日本GP決勝は、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)がポール・トゥ・ウインで今季初/自身通算64勝目となる勝利を飾りました。
今回は最速マシンのマクラーレン勢がフェルスタッペンにポール・トゥ・ウインを許した背景、そしてレッドブル移籍初戦を終えた角田裕毅(レッドブル)について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で予選を振り返ります。
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フェルスタッペンの勝利は実に見事でしたね。中高速コーナーが続く鈴鹿サーキットは、オーバーテイクが難しく、スタートで首位を守ればかなり優位に勝負に臨めるサーキットです。
中高速コーナーの多いサーキットでは、オーバーテイクを狙って前のクルマの背後に入ろうとすると、乱気流の影響をダイレクトに受けてダウンフォースが少ない状態で走ることになります。抜きにくいなかで抜きにかかろうとしてタイヤを酷使することにもつながるので、オーバーテイクが難しくなってしまいます。
そのため、スタートでトップを守ることができればフェルスタッペンが勝つだろうと思っていたのですけど、まさに横綱相撲といったレースでしたね。トップに立つことができれば前にクルマがいないのでクリーンエアーで乱気流の影響を受けることもなくなり、タイヤマネジメントもやりやすくなります。
トップに立ってしまえば後ろがペースを上げたら自分もペースを上げる、というふうにペースコントロールも容易になりますので、スタートでトップを守ったフェルスタッペンがレースを支配する結果となりました。
2位に入ったランド・ノリス(マクラーレン)、3位のオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の2台はレースペースも悪くはなく、スタートでフェルスタッペンを攻略できていれば、マクラーレンが開幕3連勝を遂げたと思います。
ですが、スタートでフェルスタッペンがトップを守り、レースペースもフェルスタッペンとマクラーレン勢でそこまで大きな差はありませんでした。オーバーテイクの難しい鈴鹿では、0.5秒くらいのペース差ではオーバーテイクはできません。
2番手、3番手というポジションから追いかけることとなり、フェルスタッペンのマシン後方から発生する乱気流のなかでペースを上げようとタイヤを酷使してタイヤのデグラデーション(性能劣化)を早めてしまうという悪循環のなかにあったと思います。マクラーレン勢にとっては、やれることをやり尽くした上での2位、3位だったのではないでしょうか。
ただ、日本GPの決勝はタイヤのデグラデーションの影響が少なかった、タイヤがよく保った一戦となりました。金曜日、土曜日は路面温度も高く、タイヤのグレイニング(タイヤ表面にできるのささくれ磨耗)も大きかったようですが、土曜日の予選開始時の路面温度が34度に対して、日曜日の決勝開始時の路面温度が21度と、13度も低くなっています。
そうなると、レースは動きづらくなります。オーバーテイクが難しいコースゆえにトレイン状態となり、タイヤを温存したい、タイヤのデグラデーションが予測できないという意図からバックオフ(スロットルペダルを戻すこと)してペースを落とすというレース展開となりました。
とはいえ、トップ争いの精神戦と言いますか、ライバルのペース、タイヤの限界を探りながらの戦いは見応えがあり、面白かったですね。3人のトップドライバーとしての集中力の高さを再認識することができました。
フェルスタッペンがマクラーレンの連勝(第1戦ノリス、第2戦ピアストリ)を止めましたが、勢力図に変わりはなく、最速マシンはマクラーレンです。高速コーナーの多い鈴鹿はレッドブル向きのコースだったこともあり、他のコースでレッドブル&フェルスタッペンが今回のような完勝ぶりを発揮できるかは未知数です。
一歩リードしたマクラーレンだけではなく、メルセデスにフェラーリもそれぞれ速さがありますし、アップデートを投入するまではレッドブルの苦しい戦いは続くと思います。そんな状況でフェルスタッペンがどこまでカバーできるのかが、鍵となるでしょう。フェルスタッペンがポケットに忍ばせる0.3〜0.4秒がなければ、今のレッドブルのマシンではポールポジションも優勝も難しいですからね。
裕毅は14番グリッドスタートから12位でチェッカーを受け、レッドブル移籍初戦を入賞圏外で終えました。周りのライバルと同じ戦略だったこともあり、どうにもできない状況でしたね。
また、裕毅のレッドブルRB21での走りを見るに、RB21は先行するクルマの背後に近づいた際にマシンバランスが乱れ、ドライビングがかなり難しくなっているように見えました。そのため、あえて先行するフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)との間合いを開けてタイヤを守る走りを試すなど、裕毅のいろいろな試行錯誤が見てとれました。
ただ、やはりアロンソ先生は完璧なタイヤ&ペースマネジメントでしたね。オーバーテイクが難しい鈴鹿で、ピーキーなクルマで攻略するには手強い相手でした。アロンソを攻略できなかったものの、裕毅は大きなミスなく決勝を終えたと感じています。
今回の日本GPで悔やまれるのは、予選Q2終盤のタイヤのウォームアップに失敗したというところだけで、それ以外はやるべきことをしっかりとこなした週末だったと感じています。現時点での私の裕毅に対する評価は『裕毅はレッドブルでも戦える』ですので、次戦バーレーンGPからの戦いに期待したいと思います。
まずはしっかりとポイントを獲得し、表彰台に上がってから、その先にも期待していますし、私はチャンスはあると思います。そのため、みなさんも裕毅に対する評価は、少し待っていただけると良いかなと感じます。
我々は応援することしかできませんが、だからこそ裕毅の戦いをしっかりと見守っていこうと、そう思います。
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。