【F1コラム:アウディF1プロジェクトの現状】VW業績悪化で批判が高まる。不可欠だったカタール資金獲得とその影響
アウディは、ザウバーを買収し、2026年からワークスチームとしてF1に参戦することを決め、準備を進めている。パワーユニット(PU)の開発作業は予定どおりに進行しているという。一方で、親会社のフォルクスワーゲンAG(VW)は業績悪化により、コスト削減策を進めており、そんななかでのアウディF1プロジェクトには、ドイツ国内では批判の声も上がっている。
アウディは一部株式をカタール投資庁(QIA)に売却し、F1参戦への準備を推進。困難な状況のなかで進められているアウディのF1プロジェクトの現状を、F1ジャーナリストのマチアス・ブルナーが伝える。
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誇り高きフォルクスワーゲン・グループは、今、荒波のなかで舵取りしなければならない状況にある。
フォルクスワーゲンと強大な金属産業労組『IGメタル』は、コスト削減策について長期にわたり交渉を行ってきたが、クリスマス直前に、合意が成立したことを発表、ドイツ国内の工場閉鎖と労働者による大規模なストライキは回避された。
しかし、この妥協条件は痛みを伴うものだ。ドイツ国内の工場の生産能力を減らし、2030年までにフォルクスワーゲン・ブランドで35000人以上の人員を削減する。
フォルクスワーゲン・ブランド統括責任者トーマス・シェーファーはこうコメントしている。
「交渉において優先されたのは、3つの事柄だった。それは、ドイツ工場での過剰生産能力の削減、労働コストの削減、そして開発費用の削減だ」
フォルクスワーゲンは慎重に行動する必要がある。多くの人々がこう考えているからだ。「従業員を減らす一方で、アウディ・ブランドによる非常に高額なF1プログラムを実行することを正当化しているが、それは本当に適切なことなのか」という問題だ。
この疑問に、少なくとも部分的に答えるために、フォルクスワーゲンは、2026年のF1シーズンにアウディとして参戦するザウバーF1チームの30パーセントを、カタール投資庁(QIA)に売却することにした。この措置により、アウディの負担は3億5000万米ドル(約552億円)軽減されると推定されている。
カタールの投資は、アウディとフォルクスワーゲンにとって、不可欠なものだった。ザウバー・モータースポーツAGのCOOおよびチーフテクニカルオフィサー(CTO)であるマッティア・ビノットは、こう述べている。
「これによって、チームを優勝可能なレベルに引き上げるために必要なものを開発することが可能になる。ツール、インフラ、人材の3つの分野を拡充することができるだろう」
「もちろん、アウディF1プロジェクトにおけるフォルクスワーゲンの財政的負担が軽減されることは助けになる」
2026年のアウディF1カーには、カタールのスポンサーシップを示すロゴが表示される可能性が高い。アウディCEO兼ザウバー会長ゲルノート・デルナーはこう指摘する。
「QIAはフォルクスワーゲンの第三位の投資家であり、長期的な視点を持っている。信頼できるパートナーで、タイトルスポンサーシップに関しても広い視野を持っている」
現在F1とパートナーシップを結んでいるカタール航空は、アウディF1カーに示されるロゴとして非常に論理的な選択肢といえるだろう。
アウディはノイブルクの拠点で、F1パワーユニットの開発を行っている。6月には完全なパワーユニット(内燃エンジン、電動モーター、バッテリー、コントロールエレクトロニクス)がテストベンチ上で稼働し、シミュレーションされたグランプリのレース距離の走行を行った。
アウディ・フォーミュラ・レーシングの最高技術責任者(CTO)であるステファン・ドライヤーは、こう話している。
「他のハイブリッドおよび電動モーターを使用したレーシングシリーズでの経験が、大いに役立っている。これまでのところ、パフォーマンスと効率に関して設定したすべての目標を達成している。シミュレーションで最もよく使用したのはラスベガス、シュピールベルク、シンガポールだ」
アウディは秋にはテストベンチに完全なパワートレイン、つまりパワーユニットとギヤボックスを乗せてテストを始めた。F1プロジェクトのために、現在ノイブルクでは350人以上が働いており、スイスのザウバーでは、現在のスタッフに同じ人数が段階的に加えられていく予定だ。
ビノットは、こう述べている。
「我々は地に足をつけて進んでいる。一歩一歩前進する必要がある。山を登るようなものだと考えている。一年ごとに改善していかなければならない。野心的な目標だが、2030年までには、勝利を目指して戦える位置にいたい。それは難しいことだし、非常に多くの作業を必要とする。しかし我々は目標を達成するための明確なビジョンを持っている」