F1コラム:辞任と解雇が相次ぐFIAの危機的状況。安定性が欠如した規制機関にモータースポーツの成功を築けるのか
ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、幹部の離脱が相次ぐFIAの状況にフォーカスした。
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FIA内部で驚くような動きが起きている。サンパウロGPとラスベガスGPの間に、F1レースディレクターのニールス・ヴィティヒが即時退任した。FIAの短い声明によると、52歳のヴィティヒは、「新しい機会を追求するために」職を辞したとされていた。
ところがその直後にヴィティヒは、自分は自発的に辞めたのではなく、実際には解雇されたのだと発言した。
ヴィティヒの後任には、ポルトガル出身のルイ・マルケスが選ばれた。彼はこれまでFIA F2とFIA F3のレースディレクターを務めていた人物で、初仕事となったラスベガスGPへの対応ぶりは、概ね高く評価された。
ヴィティヒの前任者は、物議を醸す状況のなかで職を辞したマイケル・マシだった。マシは2021年のタイトル決定戦となった最終戦アブダビGPで不適切な対応をしたことで批判が殺到、メルセデスF1チーム代表トト・ウォルフらからのプレッシャーを受け、F1から去っていった。
マシ以前には、伝説の存在、チャーリー・ホワイティングがF1レースディレクターを務めていた。バーニー・エクレストンのブラバムチームでメカニックとしてF1キャリアをスタートしたホワイティングは、1997年から2019年に亡くなるまで、F1レースディレクターとして素晴らしい仕事を成し遂げ、尊敬を集めていた。
ホワイティングが急死したため、マシが急きょ役割を引き継いたが、ヴィティヒのケースのように、レースディレクターがシーズン途中で交代するのは極めて異例だ。特にシーズン残り3戦というタイミングだっただけに、この人事変更は関係者からの関心を集めている。しかし、FIAはヴィティヒが突然退くことになった理由について、何の説明もしていない。
FIA会長モハメド・ビン・スライエムは、より高い透明性を達成することを約束して選出された。しかし、彼は独特な管理スタイルに基づいて行動していると指摘する者は多い。
この数カ月、FIAは多くの優秀な人材を失ってきた。
2023年12月にはFIA女性モータースポーツ委員会の会長デボラ・マイヤーが辞任、その直後にスポーティングディレクター、スティーブ・ニールセンが連盟を去った。2024年1月にはテクニカルディレクターのティム・ゴスが辞任し、5月にはCEOナタリー・ロビンが、就任からわずか1年半でFIAから去った。
10月には、広報担当ディレクターのルーク・スキッパーとモビリティ担当(つまりモータースポーツ以外の全分野を担当する)事務局長のジェイコブ・バングスガードが辞任した。
ラスベガスの前には、FIAがさまざまな規則を順守することについて担当するコンプライアンスオフィサーのパオロ・バサーリが職を辞した。ビン・スライエムFIA会長が2023年サウジアラビアGPの結果や2023年ラスベガスGP開催に影響を与えようとしたとする告発を受けて、バサーリは、今年、FIAの内部調査を主導、会長に問題ある行動はなかったという結論を出した。
多くのF1関係者は、FIAは近年、多くの問題をもたらしているとして問題視している。例えば、ビン・スライエムFIA会長は、F1の意向に反して新チームに参戦する機会を与え、アンドレッティ・グローバルの参入計画を承認した。これにF1が承認を与えなかったことで、多くの問題が発生し、費用がかかる法廷闘争にも発展した。
またビン・スライエム会長は、ドライバーによるジュエリー、下着、言葉遣いに関しても干渉した。不適切な言葉遣いの取り締まりを強化するという方針に対し、F1ドライバーの組合であるグランプリ・ドライバーズ・アソシエーションは、FIAと会長に対して、公開書簡を送った。この書簡を通して、ドライバーたちは、自分たちを大人として扱うよう求めるとともに、自分たちが支払った罰金の使途について明らかにするよう求めた。
このように、FIAの行動に関連してさまざまな問題が持ち上がり、一方で、FIAから多数の幹部が離脱し続けている。モーターレースの成功は通常、安定性と継続性に基づいて築かれるものだ。しかし現在のFIAには、その両方ともが欠けているように思える。