【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第13回】点差は関係なし。“三つ巴”の6位争いへ「緊張感のある場で戦えるのはありがたいこと」
2024年シーズンで9年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄代表。アメリカ大陸で行われた3連戦を終え、中団勢の選手権争いはますます混迷を極めている。サンパウロでは、ここを得意とするケビン・マグヌッセンの欠場という事態にも見舞われた。代わって出場したオリバー・ベアマンは、予想以上のパフォーマンスを示した一方で、経験不足の面も見えたという。アメリカ大陸3連戦の週末を小松代表が振り返ります。
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2024年F1第19戦アメリカGP
#20 ケビン・マグヌッセン スプリント予選8番手/スプリント7位/予選9番手/決勝11位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ スプリント予選6番手/スプリント8位/予選12番手/決勝8位
第20戦メキシコシティGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選7番手/決勝7位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選10番手/決勝9位
第21戦サンパウロGP
#50 オリバー・ベアマン スプリント予選10番手/スプリント14位/予選17番手/決勝12位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ スプリント予選12番手/スプリントDNF/予選19番手/決勝失格
アメリカ大陸での3連戦が終わりました。コンストラクターズ選手権を振り返ってみると、連戦前のシンガポールGPが終わった時点でうちは6位のRBと3ポイント差の7位でした。アメリカGPで逆転して6位になり、メキシコシティGPで彼らとの差を広げたものの、サンパウロGPではその差を縮められ、さらにはアルピーヌに逆転され7位に戻るという展開でした。
もともと残り8戦になった時点でチームには「毎戦ポイントを獲ることが必要で、この先全部のレースが最終戦のような気持ちで戦わないといけない」と伝えていました。そうやって完璧に戦えたとは言えませんが、少なくともアメリカとメキシコはある程度できたと思います。しかし最後のサンパウロはチームのオペレーションのミスだらけでどうしようもなかったです。うちとは反対にアルピーヌはウエットで速いし、決勝も素晴らしいペースでした。赤旗までインターミディエイトで走ることができたのも、運だけではないです。まさか1レースで33ポイントも獲られるとは思っていませんでしたけど、それがレースというものです。
さてグランプリを振り返ってみると、ケビンが得意としているサンパウロを欠場することになったのは残念でしたけど、アメリカとメキシコはよくやってくれました。その前のシンガポールでダメだったので、アメリカからまた頑張ろうと伝えていたのですが、その通りアメリカでは実際によくなっていてスプリントで入賞できました。
レースではチームのミスでポイントを獲れなくて、その分メキシコではきちんとレースをさせてあげたかったので、2台揃っての入賞という結果に終わってよかったです。ケビンはメキシコのようなコースで速いですし、難しい予選もまとめてくれて、チームとしてもちゃんとオペレーションできました。ケビンが持っているポテンシャルを全部引き出せたと思うので、そういう意味ではメキシコは最高のレースでした。
一方でニコは、メキシコからクルマに対してハッピーじゃない様子で「自分の感覚とラップタイムが合わない」と言っていました。コースに出て走り、ガレージに戻ってタイムを確認すると、タイムは出ているのに本人の感触はよくないんです。クルマに何が起きるかわからず、自信が持てないという状況でした。サンパウロでも同じで、予選でもオリーに後れをとってしまいました。
決勝レースではターン1でスピンして段差に乗ってしまい、ニコのマシンは動けなくなりました。その後マーシャルが自発的に彼のマシンを押したのでニコは再びエンジンをかけて自力で戻ってくることができましたが、赤旗の前にレースコントロールから「マーシャルから援助を受けた」と報告があり、赤旗中にニコに聞いたらそう話してくれたので、失格になることは覚悟していました。
この3連戦の最後はケビンが欠場することになったため、金曜からリザーブのオリーを起用しました。オリーはアゼルバイジャンGPで初めて週末3日間を通して戦いましたが、今回やっぱり彼のポテンシャルは思った以上にすごいなと実感しました。
オリーはインテルラゴスを走った経験はないし、シミュレーターでも事前に走っていないとのことでしたが、テクニカルで難しいこのコースでの最初の計測ラップで1分14秒509というタイムを記録しました。僕はこのタイムを見てびっくりしましたし、ゲームでしかこのコースを走ったことがないドライバーが出せるタイムではないと思います。最初のラップから上位勢にも引けを取らなかったですし、同じコンディション、周回数でニコにも負けていませんでした。
サンパウロGPはスプリントレースがあったのでFP1の最後に予選練習をしましたが、オリーの3番手というのは本当の速さだと思います。スプリント予選でも、予選を得意とするニコと同じようなタイムでSQ1を通過し、SQ2ではニコよりコンマ3秒も速かったですからね。SQ3ではチームのミスでタイヤブランケットがうまく作動せず、タイヤ温度が低いまま走ることになってしまい、それによるグリップ不足でターン1出口で膨らんでしまい、ターン2でトラックリミット違反によりタイム抹消となりました。しかし、タイヤの問題がなく走れていればフェラーリの2台に近いところにいたと思います。ドライではしっかり速さを示してくれました。
日曜日の走行に関しては、経験不足だったとしか言いようがありません。新人ドライバーにとって、今回以上に難しい状況というのはないと思います。それに加えてVF-24は雨だとドライブするのが難しく、競争力もありません。レース前には「サバイバルレースになるからコース上に留まることだけを考えて走るように」と話したものの、3回もコースオフがありました。これでは及第点には届かないし、本人にもそう伝えました。ラップをまとめられず、ミスなく1周を走るというのはほとんどできていなかったです。
ただ彼には吸収力があるし学習能力も高いので、もしもう1回同じレースをやったとしたら今回のようなミスは絶対にしないと思います。オリーも自分で「速く走れて感覚がいいのもわかっていたから、プッシュしすぎた」と反省していました。長い目で見れば来年からF1にフル参戦する前にこういうことを経験できてよかったとは思いますが、目の前のレースや選手権のことを考えると、必ずしもいいこととは言い切れません……。
冒頭でも触れた通り、この3連戦はポイントを獲っても選手権の順位は上がったり下がったりでした。残るはあと3戦で、アルピーヌとは3点差、RBとは2点差ですが、2点も3点も関係ありません。アルピーヌ、ハース、RBの3チームでの選手権6位争いになると思います。ウイリアムズも速いのでポイントを獲るためには彼らにも勝たなければいけません。ですから目の前の1戦1戦に集中して全力を尽くして、ドライバー、クルマ、チーム全員からベストを引き出さないと6位にはなれません。
世界選手権で6位になることは簡単ではありませんが、そういう場にいられることが幸せだなと僕は考えています。緊張感があり、プレッシャーのあるなかで戦える場にいるというのはありがたいことだし貴重な体験です。いつもできることじゃないし、そういった緊張感やプレッシャーを受け入れて、ある意味“楽しむ”べきです。もちろんチームの全員が僕と同じような考え方をしているわけではありませんし、ガチガチに緊張する人もいれば、差が縮まってどうしようと思っている人もいるかもしれません。でも僕にできるのは、リーダーとして自分がこういうフィロソフィーで戦うと示すことです。6位を争うなんて毎年あることじゃないし、ありがたいことだと思って狙いにいくだけです。