【F1チーム代表の現場事情:レッドブル】ホーナーが過ごした激動の3連戦。マクラーレンとコース外でもせめぎ合い
大きな責任を担うF1チーム首脳陣は、さまざまな問題に対処しながら毎レースウイークエンドを過ごしている。チームボスひとりひとりのコメントや行動から、直面している問題や彼のキャラクターを知ることができる。今回は、レッドブルのチーム代表クリスチャン・ホーナーが過ごしたアメリカGP、メキシコシティGP、サンパウロGPに焦点を当てた。レッドブルとマックス・フェルスタッペンは、3連戦の最終レース、サンパウロで、6月のスペインGP以来の優勝を成し遂げた。
────────────────
2024年、クリスチャン・ホーナーは困難なシーズンを送っている。過去3戦では、ジェットコースターのように激しく感情が揺れ動いていた。オースティン、メキシコシティ、サンパウロが、今年のタイトル争いにおいて重要な意味を持つだろうことは分かっており、実際にそうであることが劇的な形で証明された。
ホーナーがアメリカに到着した時点で、レッドブルは劣勢に立たされていた。モンツァとアゼルバイジャンの2戦でマックス・フェルスタッペンが高い競争力を発揮できず、シンガポールでの2位を大成功とみなさなければならない状況だった。オースティンにはマシンのアップグレードが予定され、それがシーズン残りの方向性を決めるものとして、大きな期待がかけられていた。
しかしアメリカGPのセッションスタート前から、レッドブルにプレッシャーがかかるような出来事が起こり始めていた。マクラーレンが、レッドブルのマシンに搭載されているあるコンポーネントに疑問を抱き、FIAに対して指摘したのだ。これは、フロア前方を持ち上げる形で車高をすばやく容易に調整できるシステムであると推測されていた。
マシンのさまざまなパーツが調査対象になることは日常茶飯事だ。しかしマクラーレンは、レッドブルがルールを回避する形でアドバンテージを得ている可能性があることを、あらゆる人々に知らせようとした。そうしてメディアに情報が伝えられ、レッドブルはオースティンの木曜日と金曜日に多くの質問を受けることになった。
FIAは事態が重く受け止められることを防ごうとしていたが、マシンの合法性が疑問視されることに、ホーナーは明らかに苛立っていた。そのマシンはライバルより遅かったため、なおさら苛立ちが大きかったのだろう。
スプリントで勝利した後、レースでは再びフェルスタッペンのドライビングにネガティブな注目が集まった。ホーナーは、マクラーレンとランド・ノリスのアプローチ、フェルスタッペンに対するオーバーテイクでペナルティを科されたノリスの走りを攻撃した。
アメリカではレッドブルへのプレッシャーはあまり軽減しなかったが、メキシコシティの日曜朝を迎えるころには、ホーナーは自信を深めていた。フェルスタッペンがカルロス・サインツとともにフロントロウに並び、ノリスより前の位置を確保していたからだ。
しかし、メキシコシティ決勝を、レッドブルは失意とともに終えることになった。フェルスタッペンはノリスへの動きで2回ペナルティを受け、合計20秒加算による6位にとどまった。対するノリスは2位でフィニッシュ、フェルスタッペンのチャンピオンシップリードをさらに10ポイント削ったのだ。
さらにフェラーリは1位と3位を獲得したため、レッドブルはコンストラクターズ選手権で3位に順位を落とした。ホーナーは、レース後のメディアセッションにノリスのGPSデータを持ち込み、ノリスはフェルスタッペンに押し出されたわけではなく、そもそもコースオフすることなくコーナリングすることは不可能な状態だったと証明しようとした。フェルスタッペンはコーナーで自分もコースオフしながら他車を押し出す行為をしがちだということについては、ホーナーは完全に無視していた……。
その後のサンパウロで、レッドブル内は非常に緊張した雰囲気に包まれていた。ホーナーは、フェルスタッペンのドライビングに関する批判に異議を唱え、非難する人々に対して強い不満を示した。さらにレッドブルは、マクラーレンを含む一部チームが、マシンに関して違法な行為を行っている可能性があるとメディアに伝え、マクラーレンに逆襲した。
タイヤに水を加えることでデグラデーションを抑えるという行為をレッドブルは疑っていたのだが、この指摘が現実であると証明されることはなく、マクラーレンにプレッシャーをかける試みは失敗した。さらにスプリントでマクラーレンがワンツーを獲得。レッドブルは予選でうまくいかず、フェルスタッペンは怒り狂った。
しかしサンパウロの決勝で、フェルスタッペンはキャリアベストといえるほど素晴らしい走りを披露、難コンディションのレースを制し、4年連続のドライバーズチャンピオンに向けて大きな一歩を踏み出した。レッドブルは両チャンピオンシップの状況が悪化する可能性に直面していたが、事態は好転し、ホーナーは、インテルラゴス到着時よりもはるかに機嫌よく、同地を離れることができた。
セルジオ・ペレスからのポイント不足という頭の痛い問題はまだ残っている。しかし、ドライバーズタイトル獲得がほぼ確実になり、チームで最も重要な人物が満足して週末を終えることができた。これはホーナーにとって大きな勝利といえる。