F1コラム:標高2240メートルでの過酷なレース。高地のコンディションがドライバーとチームメンバーにもたらす困難
ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、メキシコ、ブラジルという標高が高い会場での連戦のなか、高地のコンディションがもたらす影響について解説した。
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メキシコシティGPの会場アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスは、いくつかユニークな特徴を持ったコースだ。メインストレートは、1.2kmと長く、高いトップスピードを生み出す。海抜2240メートルに位置するメキシコシティは、世界で最も標高の高い首都のひとつだ。空気密度が約25パーセント低く(つまり酸素量が4分の1少ないことになる)、その薄い大気はマシンにとって大きな課題であり、空力性能、エンジン出力、冷却に大きな影響がもたらされる。
そして人体も影響を受ける。世界中のサーキットを回り、グランプリ開催に現地で関わるF1メンバーすべてが、メキシコに来ると、何らかの違いを感じる。たとえば、メディアセンターへの階段を上るだけで、どんなに健康で元気なジャーナリストでも、息切れするのだ。
標高が高いほど疲労が早く進むため、戦略の決定、ピットストップ、マシンの修理、セッティング変更といった作業のペースは、海抜ゼロメートル地帯でレースをするときよりも遅くなってしまう可能性がある。
酸素が少ないことが脳に影響し、夜間に頻繁に目が覚めたり、そもそも眠りにつくのも難しくなるため、上質な睡眠をとることは簡単ではない。疲労したチームスタッフはミスを犯しやすくなり、メキシコシティで2秒のピットストップを行うことは、非常に難しい要求だった。
F1サーカスのメンバーのなかで最も体力面で優れたドライバーですら、薄い空気の影響を受ける。
「標高が高いところでレースをすることは、僕たちドライバーにとって、興味深いチャレンジだ」とマクラーレンのランド・ノリスは言う。
「それに備えて、1年を通してトレーニングしている。チャレンジの要素が追加されることで、レースがより一層面白くなる」
ハースのケビン・マグヌッセンは、年間を通じてハードなトレーニングに取り組んでいるが、メキシコのためにできる特別な準備はないと述べている。
「(メキシコの)週末への準備として特別なことは何もしていない。水曜夜にメキシコシティに到着した後、数日で何かを変えることは実際には不可能だ。薄い空気に体を慣らすには、おそらく3カ月はここにいる必要があるだろう。幸い、このサーキット自体は特に体力的にきついことはなく、長いストレートがあるので、そこで少しリラックスできる」
「空気が薄いのを感じるし、大きく呼吸しなければならないが、それには慣れてくる。通常の酸素量を取り入れるために、多めに呼吸しなければならず、常に少し息切れしているような感じだけどね」
「でも感じ方には個人差がある。他のドライバーたちの話を聞くと、違いを感じないというドライバーもいれば、大きな影響があると言う人もいる」
メキシコシティの薄い空気のなかで、ドライバーが体調を崩すのは珍しいことではない。さらに、高山病にかかることもある。
マグヌッセンは、2017年に高山病の症状に見舞われたという。
「金曜日に症状に襲われて、走行を中断して、ピットに戻って嘔吐した。その後、ピットガレージにとめたマシンのなかで眠ってしまった。医者に来てもらって、注射を打ってもらったよ。何の注射だったのか知らないけど、翌日には気分が良くなって、日曜日の決勝では、ルイス・ハミルトンやフェルナンド・アロンソを抑えて8位でフィニッシュしたんだ」
ちなみにマグヌッセンは今年のメキシコシティGPでは、予選7番手から7位入賞という素晴らしい結果を出した。