【F1第18戦無線レビュー(2)】貴重な1ポイントを取り返したリカルドにフェルスタッペンが感謝「ありがとう、ダニエル」
2024年F1第18戦シンガポールGP。激しい選手権争いを繰り広げる中団勢では、RBが角田裕毅とダニエル・リカルドの順位を入れ替えることを決断し、角田は前を行くライバルを追うことに。そしてリカルドは、最終盤にソフトタイヤに履き替えてファステストラップを記録した。シンガポールGP後半を無線とともに振り返る。
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レース中盤、ソフトタイヤでスタートしたルイス・ハミルトン(メルセデス)は、ライバルたちより早い17周目にピットイン。それについての愚痴が止まらず、担当レースエンジニアのピーター・ボニントンがたしなめる。
26周目
ハミルトン:オフセットしたおかげで、僕は殺されそうだ。
ボニントン:まだいろんなオプションがあるから。
まだ10周しか走っていないハードタイヤだったが、ハミルトンのペースが上がらない。
27周目
ハミルトン:何かが絶対おかしい。タイヤがどんどん落ちている。
ボニントン:表面温度が上がってるんだ。
直角コーナー立ち上がりで、リヤタイヤに過剰な負荷がかかっているのか。首位ランド・ノリス(マクラーレン)に離される一方のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)も、リヤタイヤのグリップ不足を訴えていた。
フェルスタッペン:リヤタイヤが悪い。
ジャンピエロ・ランビアーゼ:もうすぐだ。
29周目にピットイン。その前の27周目には3番手のジョージ・ラッセル(メルセデス)がピットインし、オスカー・ピアストリ(マクラーレン)の前が空いた。
29周目
トム・スタラード(→ピアストリ):さあ、これからレースだ。行くぞ。
30周目にピットインしたノリスは、フェルスタッペンに30秒以上の大差をつけて、首位のままコース復帰。しかしターン14でコースオフ、ウォールに軽く接触してしまう。
30周目
ノリス:フロントウイングにダメージを受けたかも。
幸い、ほぼ無傷だったようだ。
一方、29周目にピットインしたフェルスタッペンは、僅差でシャルル・ルクレール(フェラーリ)に先行された。
30周目
フェルスタッペン:意味がわからない。どうして(ルクレールに)アンダーカットされないといけないんだ! まったくバカげてる!
フェルスタッペンは、ステイアウトして順位を上げていたルクレールが、すでにタイヤ交換を済ませていたと誤解したようだった。
5番手のラッセルは、1秒以内でルクレールを追う展開だった。
ラッセル:何でもいいから、少し励ましが欲しいんだけど。
マーカス・ダドリー:わかっている。タイヤの使い方とか、すべてうまくやっているぞ。
ダドリーにしてみれば、バトルの最中に余計なことを言うのは控えようと思ったのかもしれないが。
スタートタイヤのミディアムを引っ張り続けるピアストリは、首位ノリスに次ぐ暫定2番手。担当エンジニアのスタラードが、「さらに引っ張ろう」と提案した。
33周目
スタラード:オスカー、ステイアウトしようかなと考えてる。そうするとピットイン後にコース上でハミルトンを抜かなきゃいけないが。
ピアストリ:あまりグッドアイデアとは思えないね。
結果的にピアストリは38周目にピットイン。ハミルトンに先行されたものの、すぐに抜き返した。
33周目にピットインした角田裕毅(RB)は、ソフトで残り29周を走り切る賭けに出た。しかしすぐ前を行くダニエル・リカルド(RB)が、明らかにペースが遅いにもかかわらず、順位を譲ってくれない。
41周目
角田:何を待ってるの?
エルネスト・デジデリオ:話し合っているところだ。
角田にしてみれば、何を話し合う余地があるのかと言いたいところだろう。
角田:ねえ、みんな!!
デジデリオ:落ち着くんだ。
角田:前が空いている。
デジデリオ:やるべきことを言おう。これから(リカルドに)近づいて行って、スワップする。
角田:わかった。でもその間に、タイヤにダメージ受けてしまう!
順位が入れ替わったのは、41周目だった。
5番手ハミルトンと6番手ルクレールの差は、44周目の時点で12秒あまり。ただし20周近くフレッシュなタイヤを履くルクレールの方が、周回ペースは1.5〜2秒近く速い。
44周目
ブライアン・ボッツィ:このペースをキープしたら、最後にハミルトンをやっつけられるぞ。
ボッツィの励まし通り、ルクレールは50周目にハミルトンを仕留め、5番手に浮上。さらにラッセルを追った。
45周目
ダドリー(→ラッセル):ルクレールは(1分)36秒で周回してる。最後に追いつかれる恐れがある。ペースをあげるんだ。
後方ではニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)が、8番手のフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)に迫っていた。
47周目
ギャリー・ギャノン:ニコ、タイヤはかなりいいぞ。
前の2台の攻防を見て、セルジオ・ペレス(レッドブル)の担当エンジニアが檄を飛ばした。
リチャード・ウッド:抜くチャンスだ。ヒュルケンベルグはアロンソの乱流を受けている。しかもDRS圏外だ。
ペレス:わかった。でも全然トラクションがない。ターン13の立ち上がりでね。リヤがカンガルーみたいに跳ねてる。
ウッド:落ち着いて走るんだ。
チェッカーまであと10周あまり。ノリスは2番手フェルスタッペンを25秒引き離し、完全に独走体制だった。
49周目
ジョゼフ(→ノリス):フル集中だ。ドリンクを飲め。
他のほとんどサーキットではドリンクを搭載しないノリスだが、サウナのような蒸し暑さのなかを2時間近く走り続けるシンガポールは、さすがに特別だった。
53周目
ボッツィ:ラッセルがP1。(1分)36秒6のペースだ。
ルクレール:ラッセルが首位って、どういうこと?
ボッツィ:ノリスというつもりだった。コーナリング中だったから、言い直さなかったんだ。
ルクレール:ノリスはどうでもいいから、ラッセルのペースを言ってくれ。
シーズン途中からルクレール担当になったボッツィだが、まだ打てば響く関係、と言う感じではないようだ。
55周目
ジョゼフ(→ノリス):冷静に行こう。無傷でチェッカーを受けるんだ。
そのままノリスが3勝目を上げた。
ジョゼフ:よくやった。グッジョブだ。
ノリス:いい感じだったね。週末ずっと、素晴らしいクルマだったよ。みんな、ありがとう。このまま攻め続けよう。
クリスチャン・ホーナー代表:よくやった、マックス。100%のパフォーマンスだった。ランドの8ポイント落ちに留めた。素晴らしいドライブだったぞ。
ランビアーゼ:おまけに旧友のダニエルが、最終周にファステストを獲った。
フェルスタッペン:ありがとう、ダニエル。シンガポールなのに、終盤はずっとフリーエアで単独走行だったよ(笑)
ダドリー:素晴らしいレースだった。バトルしながら、よくタイヤをここまで持たせた。冷水風呂を用意しておくよ。
トト・ウォルフ代表:ジョージ、よく守り切った。まともにレースできないクルマで、申し訳なかった。
ラッセル:ありがとう、トト。とにかく冷水に浸かりたい。完全に焼け焦げてる。どれだけ熱かったか、言葉にできないよ。まさかガレージは、これより涼しいなんてことはないよね?
ギャノン:ニコ、9位だ。とんでもなく素晴らしいドライブだった。完璧だ。
ヒュルケンベルグ:簡単なレースじゃないのは、みんなわかってた。
コラピント:申し訳ない。攻め切ることができなかった。何度もトライしたけど、前に近づけなくてね。
ガエタン・イエゴ:今までで一番タフなレースのひとつだったと思う。でもポイント獲得まで数秒のところだった。勝つときも負ける時も、僕らはいっしょだ。もしこの週末、すべてがうまく回っていたら、絶対に入賞できていた。でもこの終盤6戦を、君と一緒に戦えることに本当にワクワクしてるよ。クルマも速いしね。
コラピントの速さ、新人とは思えない冷静な走りに、ウイリアムズのスタッフもすっかり魅了されてしまったようだ。
そしてリカルドは最終周にノリスからファステストを奪い、フェルスタッペンを援護射撃した。
ピエール・アムラン:ファステストだ。正しいことをやり遂げたぞ。
リカルド:ありがとう、みんな。
この数日後、RBは次戦アメリカGP以降のリアム・ローソン抜擢を発表した。