チームオーダーなしのマクラーレンにライバルは困惑。「彼らはレースから脱落しそうになっていた」
これまで、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表とメルセデスのトト・ウォルフ代表の意見が合うことはほとんどなかった。
しかしふたりとも、モンツァでのイタリアGPの終わりに、レースの最後の数メートルでマクラーレンがオスカー・ピアストリをランド・ノリスの前のポジションをキープさせた選択をしたことに驚いたことを認めた。
たとえチームメイトが、チームにドライバーズタイトルをもたらす唯一のチャンスであることが明らかだとしても、ドライバーにグランプリ優勝を放棄するよう命じるのは極めて厳しいことだと誰もが同意するだろう。一方で、トップドライバーにとっては2位になるのも3位になるのもあまり変わりはないとも言える。そのため、最終ラップでチームからの指示が出るものと予想されていたが、そうはならなかった。
レッドブルはモンツァで劣勢だったが、ノリスはマックス・フェルスタッペンのチャンピオンシップにおけるリードに食い込むチャンスをまたもや失ってしまったのではないだろうか。レッドブルF1のクリスチャン・ホーナーは、この事態に少々当惑したという。
「『パパイヤ・ルール』が何なのかは知らないが、そのせいで彼らは2番目のシケインでレースから脱落しそうになっていた。ドライバーズ選手権の観点から言えば、今日はそれが我々を助けてくれたと言える」と認めた。
マクラーレンがドライバーに自由にレースをさせることを決めたことに驚いたホーナーは、「チームとしてはつねに難しい」と認めたが、それでも次のように確信している。
「これは避けられないことでもある。ある時点では(平等なレースに)ベストを尽くさなければならないが、このような状況ではそうするのは不可能だったように思っていた」
レッドブルのモータースポーツコンサルタントを務めるヘルムート・マルコは、オーストリアのテレビ局『ORF』に話をするなかでライバルたちを皮肉であると指摘した。
「マクラーレンの競技理念に感謝したい。それは、ファーストラップでのドライバーたちの戦いや、フィニッシュに近づいても順位が入れ替わらなかったという事実からも見て取ることができた」
マルコは満面の笑みを浮かべながら、続けた。
「そのため、結果として我々のパフォーマンスの悪さはそれほどダメージにはならなかったのだ。さらにひどい状況になっていた可能性もあったが、それどころか差はザントフォールトのときとほぼ同じだ」
今年のタイトル争いでは部外者となっているメルセデスのトト・ウォルフも、先週日曜日のモンツァにおいてマクラーレン内部で起きたことに少々驚いていたが、自身の経験を振り返りながら次のように認めた。
「突如としてトップ集団で戦うようになったレーシングチームとしては、板挟み状態になっているのだろう」
「なぜなら、一方では彼らも我々と同じようにレーサーであり、もっとも優れたドライバーが勝つようにしたいと思っているだろう。しかし一方では、そのことにより機能不全に陥り、チームのパフォーマンスにまで影響が出始める。そうしたら、それに対してどのように対処するだろうか?」
ウォルフは自身の観点から、「チームはつねに負ける側なのだ」と説明した。
「なぜなら、ドライバーのポジションを固定してチームオーダーを課せば、我々のレーシングスピリットが望むことは果たせないからだ。しかし、そういった時には理性的な側面が勝つ必要があると私は考えている。結局のところ、簡単に獲得できたはずの3ポイントや5ポイントの差で、タイトルを逃したくはないからだ」
2017年から2019年にかけて、最終的にバルテリ・ボッタスがルイス・ハミルトンを先に行かせなければならなくなった同様の状況を何度か経験したウォルフは、「その綱渡りは非常に難しく、対処の仕方について普遍的な真理はない」と語る。
それでも、ウォルフはマクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラへ「彼以上にこのスポーツを理解している人はいない」と信頼の気持ちを示した。
「彼はフェラーリで何度も、そうしたあらゆることが目の前で展開するのを見てきたはずだ。彼は、『そうしたくない、彼らにレースをさせたい』というレーサーとしての魂を持っている」
「彼らはこのレースの後、何らかの結論を出すことになると思う。我々はそうしたプロセスを経て交戦規定を導入し始めた。その後、ドライバーに対して『規定』という言葉は厳しすぎるため、文言を『レースの意図』に変更したがね」