2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGP カルロス・サインツ(フェラーリ)

【】F1第7戦技術解説:フェラーリのアップデートは失敗だったのか(2)レッドブル的要素も。今後の効果が期待される有機的改善

5月24日

 2024年F1第7戦エミリア・ロマーニャGPに、フェラーリは大規模なアップグレードを持ち込んだ(フロントウイング、リヤウイング、サイドポッドインレット、コーク/エンジンカバー、フロアエッジ、ディフューザー、リヤサスペンション)。しかし期待されたようなリザルトにはならず、シャルル・ルクレールが3位、カルロス・サインツが5位だった。F1i.comの技術分野担当ニコラス・カルペンティエルがフェラーリSF-24のアップグレードを分析、マシン細部の画像も紹介する(全2回)。

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 今回のアップデートについて、フェラーリのパフォーマンスエンジニア、ジョック・クレアは、「有機的で構造的な改善だ」と説明する。

フェラーリSF-24
フェラーリSF-24比較写真

「マシンバランスのばらつきを軽減することが主要な目的だ。今回のアップデートによって、コーナーへの進入、コーナリング中、そして立ち上がりにおいて、間違いなくバランス変化量は少なくなっている。その結果、車の挙動がより安定し、ドライバーはより自信を持って運転できているはずだ。さらにエアロマップ上のあらゆる場所で、ダウンフォースも多くなっていることが確認できた」(※エアロマップとは、一定の車高における直進、コーナリング等の車の姿勢に応じた空力特性を表したもの)

「18カ月前にグラウンドエフェクトカーがF1に導入された時、我々は十分に対応できなかった。ある速度域では非常に優れていたが、他の速度域ではひどいクルマだったんだ。 重要なのは、ドライバーが自信を持つことだ。 そのためには可能な限り多くの条件下で、荷重移動を減らし、変化のバランスを取ることが重要だ」

フェラーリSF-24
フェラーリSF-24比較写真

 今回のアップデートで最も目に見える変更は、サイドポンツーンやフロントウイングのフラップ、ヘイロー周囲のデフレクターなどだが、 これらは言うまでもなく空気の流れの改善を目的としている。

「これらの変更が結果的に、リヤタイヤとディフューザー周りの空気の流れをきれいにしているということだ」と、クレアは説明する。「空力開発の主眼は、あくまでフロア下にある。マシン上部の目に見える変化は、マシン下部の開発の反映ということだ」

フェラーリSF-24
フェラーリSF-24比較写真

 フェラーリの空力エンジニアたちは今回、レッドブルの手法を積極的に採用した。サイドポンツーンの空気取り入れ口の突き出し形状が、これまでのような“下唇”が突出した形状から、“上唇”が突出した形状になったのは、この方がよりカウル下部の気流が効果的に後方へと流れるからである(上の画像で青色に塗られた領域を比較)。上唇になったことで空気取り入れ口の角度はより鋭角になり(緑色の線を比較)、この領域に流入する空気の量が増加する。

 このカットアウトによって、ここに低圧ゾーンが作り出される。その結果、車体下部に沿った空気の流れの速度が高くなるのだ。またサイドポンツーンはかなりスリム化されており、車両後部への流速がここでも向上している。ここでの流速の大小は、ディフューザーとリヤウイングが適切に機能し、ひいてはマシン全体の空力性能が向上するために、不可欠な要素だ。

 一方でサイドポンツーンの幅が狭くなったことで、ラジエター周囲のスペースは減少する。その結果、当然ながら冷却は厳しくなる。それに対してフェラーリはアルピーヌやメルセデスと同様に、水平だけでなく垂直の開口部を設け、空気取り入れ口のサイズを拡大することで対処した (緑色部分参照)。 代わりにマイアミまでは存在したヘイロー後部の空気穴は、なくなっている。

フェラーリSF-24
フェラーリSF-24比較写真

 さらにマシン後部にも、多くの変更点が認められる。まずリヤタイヤの前のフロアに新たに切り欠きが入った。同時にフロア後部に膨らみができた(紫の矢印参照)。さらにリヤサスペンションアームのフェアリングが厚くなっている(赤色矢印参照)。

 リヤウイングも上部フラップの端はこれまでの丸みを帯びた形状から、ほぼ真っ直ぐになった。 このデザインはアルピーヌとアストンマーティンが去年のモナコで先鞭をつけた、翼端板とフラップの分離というアイデアをさらに進めたものだ。ちなみにイモラの前まで、フェラーリはずっと2023年型リヤウイングを使い続けていた。

 ルクレールが言うように、フェラーリのアップデートが十分な成果をもたらすかどうかは、少なくとも1、2レース待つ必要があるだろう。ただし今週末のモナコは、車体セッティングと戦略遂行にミスがなければ、かなりの結果が期待できるかもしれない。


この記事は f1i.com 提供の情報をもとに作成しています



(翻訳・まとめ 柴田久仁夫)