2021.12.29

【角田裕毅を海外F1ライターが斬る:2021年総括編】ダイヤモンドの原石を輝かせるためには、丁寧なサポートが必要


2021年F1第8戦シュタイアーマルクGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
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 2021年に7年ぶりに日本人F1ドライバーが登場した。アルファタウリ・ホンダからF1にデビューした角田裕毅だ。極めて高い評価を受け、大きな期待を担う角田を、海外の関係者はどう見ているのか。今は引退の身だが、モータースポーツ界で長年を過ごし、チームオーナーやコメンテーターを務めた経験もあるというエディ・エディントン(仮名)が、豊富な経験をもとに、忌憚のない意見をぶつける。今回は2021年F1シーズン全体を振り返って語ってもらった。

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 どうも私は完全に誤解されているようだ。24時間365日ハイテンションで、考えなしにいろいろしゃべる人間だと書かれているのを読んだが、全くそんなことはない。確かに、グランプリウイークエンドには、軽い興奮状態になり、200マイルのスピードで駆けずり回り(もちろん時速ではない。年速ぐらいかな)、通常のペースに戻るのに2、3日かかる。だがそんななかでも、私は常に、慎重かつ規律正しく考えてから、話をしている。

……おいおい、大丈夫か? 何も床を転げまわって笑うことはなかろうに。とにかく9カ月のクレイジーなシーズンが終わり、最終ラップにタイトルが決まり、皆がやっと家に帰ることができた。ようやくゆっくりとシーズンを振り返ることができる。アブダビのあの出来事が正しかったかどうかの議論は置いておいて、今は、若き角田裕毅について語るとしよう。

2021年F1第22戦アブダビGP 角田裕毅とピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP 角田裕毅とピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)

 以前も話したことだが、もう一度言おう。裕毅はF1にふさわしい素質を持ったドライバーだ。しかし彼の面倒をみている者たちは、裕毅をF1に昇格させるのを急ぎすぎた。

 ヘルムート・マルコは一日おきにドライバーをクビにしていたため、アルファタウリやトロロッソに乗せるドライバーがいなくなってしまい、ここ数年、アレクサンダー・アルボンやダニール・クビアトやブレンドン・ハートレーを呼び戻していた。そのうちスコット・スピードまで連れてくるのではないかと思ったほどだ。

 角田はFIA-F3では、参戦が決まるのが遅かったために、競争力が高いとはいえないチームで走ることになったが、そのわりにはまずまずのシーズンを過ごした。あと一年戦って、タイトルを狙ってもよかったのではないかと思うが、F1に乗せられる新人を求めていたマルコは、角田を早々にF2に昇格させた。角田はよくやったと思う。バーレーン予選でのミスがなければ、チャンピオンになっていたかもしれないのだ。

2021年F1第21サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)
2021年F1第21サウジアラビアGP 角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)とヘルムート・マルコ(レッドブル・モータースポーツコンサルタント)

 いずれにしても、当時は角田をF1に連れてくる以外、マルコには選択肢がなかったため、すべてが急ピッチで進められた。テストでの経験があったバーレーンでの開幕戦で、角田は素晴らしいパフォーマンスを見せた。だが、イモラではQ1最初のラップでクラッシュ。あれによって彼の自信はマシン以上のダメージを負った。さらにマルコからのプレッシャーはどんどん高まっていった。そうなるとドライバーは、速さを見せてはミスをするという繰り返しになるか、限界まで攻めることを怖がるようになり、本来のポテンシャルよりずっと下のレベルで走るようになる。

■角田に必要なのは、建設的なやり方で間違いを指摘してくれるような人物

 シーズン終盤、フランツ・トストがマルコを角田から遠ざけたという話を聞いた。そもそもその時期のマルコは、マックスを褒め称え、チェコにプレッシャーを与えるのに忙しかったので、アルファタウリのことを考える余裕はなかっただろう。それが奏功して、終盤3戦に、角田は最大限のパフォーマンスを発揮することができた。ダイヤモンドの原石であることを示したのだ。

 大勢の若手ドライバーの面倒を見て、彼らの技術を鍛え上げ、ワールドチャンピオン候補にまで育て上げてきた私は、若き裕毅に何が必要なのか知っている。だが、マルコがそばにいるなら、その必要なものを得られる保証はない。

 相手に過剰に威圧的な態度をとることが効果をもたらすケースはほとんどない。裕毅に必要なのは、間違ったことをしたときにそれを知的かつ建設的なやり方で指摘してくれる信頼できる人物だ。私が聞いたところでは、彼はよく考えずに話してしまうたちだという。それは悪いことではないと私は思うが、いずれにしても成長を助けてくれる存在は必要だろう。たとえば両親がそばにいるようにするとか、彼が信頼し尊敬する年上の人物がファエンツァで暮らすようにするとか、何か手があるはずだ。

 私は角田はダイヤモンドの原石だと思っている。輝かせるためには慎重に取り扱う必要がある。F1で優勝する力のないドライバーであれば、アブダビの週末であれほどのパフォーマンスを見せることはできないはずだ。今彼に必要なのは、あのレベルのパフォーマンスを1シーズン3回か4回ではなく、15回発揮できるようになる術を見つけるためのサポートである。

2021年F1第22戦アブダビGP チームメンバーと記念撮影をする角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)
2021年F1第22戦アブダビGP チームメンバーと記念撮影をする角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)

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筆者エディ・エディントンについて
 エディ・エディントン(仮名)は、ドライバーからチームオーナーに転向、その後、ドライバーマネージメント業務(他チームに押し込んでライバルからも手数料を取ることもしばしばあり)、テレビコメンテーター、スポンサーシップ業務、講演活動など、ありとあらゆる仕事に携わった。そのため彼はパドックにいる全員を知っており、パドックで働く人々もエディのことを知っている。

 ただ、互いの認識は大きく異なっている。エディは、過去に会ったことがある誰かが成功を収めれば、それがすれ違った程度の人間であっても、その成功は自分のおかげであると思っている。皆が自分に大きな恩義があるというわけだ。だが人々はそんな風には考えてはいない。彼らのなかでエディは、昔貸した金をいまだに返さない男として記憶されているのだ。

 しかしどういうわけか、エディを心から憎んでいる者はいない。態度が大きく、何か言った次の瞬間には反対のことを言う。とんでもない噂を広めたと思えば、自分が発信源であることを忘れて、すぐさまそれを全否定するような人間なのだが。

 ある意味、彼は現代F1に向けて過去から放たれた爆風であり、1980年代、1990年代に引き戻すような存在だ。借金で借金を返し、契約はそれが書かれた紙ほどの価値もなく、値打ちのある握手はバーニーの握手だけ、そういう時代を生きた男なのである。



(Eddie Eddington)

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