【】【F1アメリカGPの焦点】“最高の出来”に達した今季のハミルトン。自らの進化をオースティンでも証明

11月6日

 35周目、2度目のピットに入ってミディアムのフレッシュタイヤを履いたボッタスは、ハミルトンの10秒後方でコースに戻った。そこから5周で、ふたりの間隔は5秒以内まで縮まった。いつもはドライバーを鼓舞するエンジニアが、珍しく「最後まで保たないかもしれない」とハミルトンに伝える。「別の選択肢を取って、そこから巻き返すこともできるよ」と──。ドライバーに判断を委ねたかたちだ。そこでハミルトンは、1ストップ作戦のまま最後まで走り切る決心をした。

 56周のレースの間ハミルトンが走行したのは、周りのドライバーとの相対的な位置においても、コース上のどこを走るかという走行ラインにおいても、誰よりも慎重でマシンやタイヤに負担をかけないものだった。ボッタスが車幅の半分ほどを縁石に載せるコーナーを、ハミルトンは縁石に触れもしないで抜けていく。ドライバーにとって、決して楽しいドライビングではない。でも、これが1ストップ作戦を成功させるために必要な走り方。

 結果的には、52周目のバックストレートでボッタスがハミルトンの前に出た。でも、相手がポールポジションからスタートしたチームメイトなら、ハミルトンの気持ちに──タイトル獲得の祝祭に──影が差すことはまったくなかった。

「1ストップで最後まで行けるということを、疑いたくなかったんだ」と、ハミルトンは言った。

「タイトルを意識しないで、いつも目の前のレースでどれだけ巧く走れるか、ということだけを考えてきた。どうやって前に出ようか、どうしたら勝てるか、というふうに。グランプリを築き上げていくのは、毎回、違った作業だ。だから毎回のように新鮮な気持ちで、健全な身体で挑もうとする。できれば、微笑みを忘れず、明るい気持ちで。僕は予選が大好きだ。いつも、心に残るような特別なラップを求めている。でも、練習に練習を重ね、シーズンももう終盤という段階になっても、昨日の予選のようなことは起こるんだ」

 そこから、勝利を目指してどうやってハードルを超えていこうか──熟考できたこと、自ら選択できたことがとても大切だったに違いない。

 シーズンを振り返るのは、オフに入って、愛犬と一緒にソファでくつろぐ時間ができてから。予選をなんとかするのに「あと2戦あるから」と、2019年のチャンピオンは言った。すでに、ブラジルGP、アブダビGPを見据えている。

XPB Images

(Masako Imamiya)