【】【F1メキシコGPの焦点】絶妙のペースコントロールでレースを制したハミルトン。リスクを回避するだけの論拠と方法を把握していたメルセデス
10月29日
経験上、彼らはその事実を痛いほど知っている。とりわけ、気圧の低いメキシコシティでは、前のマシンに接近して走るとタイヤ管理もブレーキの冷却もパワーユニットの冷却も、すべてが難しくなる。逆に考えると、タイヤのライフというリスクを冒してでも前に出ることによって、すべてを自分たち本位で管理できるアドバンテージは大きいのだ。
「マックス(フェルスタッペン)との接触でフロアにダメージを受けながらも、フェラーリのペースについて行くことができたのは予想外だった。その後、ハードで走った第2スティント序盤、とりわけセブが第1スティントのミディアムでロングランをしている間は、できるだけタイヤを労わって力を残しておくことに努めた」
XPB Images
“ボノ”に代わってハミルトンのレースエンジニアを務めるマーカスが「デグラデーションはすごく低い。大丈夫だ」と伝える。それでも「彼がピットアウトしてきた時点で僕らは困難な立場に置かれる」と訴え続けるハミルトンの無線に、最強のストラテジスト、ジェームス・バウルズが介入した。
「ジェームスだ。きみならできる!」
実際のところ、トラックポジションを優先して第2スティントの長い1ストップ作戦を採用したのはストラテジストたちなのだ。日曜日のエルマノス・ロドリゲス・サーキットは金曜日とはまったくコンディションが異なり、路面温度が8〜9℃高くなったことによってグレイニングの問題はほとんど発生しなくなっていた。
高い路面温度によってハードタイヤが使いやすくなったことは、第1スティントでハードを選択したダニエル・リカルドのペースが証明していた。ハミルトンがピットインした23周目の時点でも、リカルドは彼自身のFP2のロングランよりも優れたペースを保っていたのだ。
メルセデスの作戦に多少のリスクが含まれていても、彼らは同時に、リスクを回避するだけの論拠と方法を把握していた。
37周目にベッテルがピットインすると、2ストップ作戦のルクレールが暫定的に首位に立った。ハミルトンは8秒後方の2番手。ルクレールと同様に2ストップ作戦のアレクサンダー・アルボンを挟んで、ハミルトンから7.4秒遅れの4番手でコースに戻ったベッテルは、その後の10周でハミルトンとの間隔を2.5秒まで縮めた。
しかしそこからはメルセデスが徐々にペースを上げ、フェラーリの追撃を許さなかった。ハミルトンの2秒後方まで迫っても、ベッテルにそれ以上間隔を詰めることは叶わなかったのだ。
「レースペースでは、メルセデスの方が少し優れていたと思う」とベッテルは振り返る。その劣勢を埋めるためにタイヤの履歴を大きく違える作戦を採ったが、性能低下が小さいハードが“崖”を迎えることはなく、メルセデスはクリーンエアで走ってレースをコントロールできるアドバンテージを手にしていた。
優勝=ハミルトン、2位=ベッテル、3位=バルテリ・ボッタス。ドライバーズタイトルは決定しなかったが、ゴール後のハミルトンはスタジアムセクションでドーナッツターンを披露した。
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「ここ数年は、メキシコに来るたびタイヤに苦労してきた。昨年はたしか4位でゴールしたけど、レッドブルやフェラーリのはるか後方だった。セブは僕らよりうんと長くタイヤ性能を維持していたと覚えてる。今回は7年間ずっとレース現場で僕を支えてくれたボノが不在で、ふたりのエンジニアが新しい役割を背負っていた。プレッシャーのバランスをうまく取るのは簡単なことではなかったよ。でも、僕らはボノが誇りに思えるような仕事をして、このグランプリで勝ちたかったんだ。この勝利はボノに捧げる」
タイトルのことは気にしていない。それよりも、こんなに長くF1で走ってきてもレースがいつも新鮮で、新しいチャレンジで、常に喜びがあることが心底、嬉しいのだとハミルトンは言った──。ハミルトンの進化の根底にはその喜びがあり、チャレンジ精神を失わないメルセデスの力がある。
対するフェラーリの場合、ベッテルに関しては他に作戦の選択肢はないように映った。しかしベッテル自身が「作戦面ではいろんな部分で、もっとシャープにやれたと思う」と言う。ポールポジションからスタートして4位に終わったルクレールの場合は、もっと反省点が多い──。フェラーリの強みは予選で、そこで得たポジションを活かすためにはライバルより先に動くのではなく、ライバルの動きを見て的確な判断をすることが必須だったはずだ。