【】【F1第9戦オーストリアGPの焦点】この勝利は、本当の意味での第一歩──。田辺豊治TDの頭脳に加わった新たなベース

7月2日

XPB Images
 2番グリッドという最高のポジションからスタートしたフェルスタッペンは、いきなり出遅れてしまった。クラッチの設定が「おそらくアグレッシブすぎたせい」──アンチストールモードに入ってしまったのだ。

 いったんは8番手までポジションを落とし、1周目の終盤でチームメイトのピエール・ガスリーを抜いて7番手。

「もうレースはお終いかと思ったよ。おまけにタイヤにフラットスポットを作ってしまったから、第1スティントは好きなようにペースを上げることができなかった」

 しかしレッドブルの作戦が見事だったのは、その状態でもミディアムの第1スティントで長くステイアウトした点。ソフトでスタートしたルクレールは2番手ボッタスとの4.4秒の間隔を堅実に維持していた。その3台後方で、フェルスタッペンは首位ルクレールとの間隔を13〜14秒台に保っていた。

 21周終了時点でボッタスとセバスチャン・ベッテルがハードに履き替え、22周終了時点ではルクレールが彼らに続いた。事実上4番手のルイス・ハミルトンが首位に立ち、できるだけ長く第1スティントを走る決心をする。フェルスタッペンも同様にステイアウトした。

 日曜日は路面温度51℃、気温35℃。FP2ではハミルトンが23周、ベッテルが27周、ハードのロングランを行っていた。しかしフェルスタッペン自身とボッタスがクラッシュして赤旗を出したため、誰も本物のロングランは行えていなかった。レッドブルは一度もハードを試していなかったし、そもそも、50周ものロングランは不可能なのだ。

 ピレリはミディアムで14〜20周、ハードで51〜57周が最速のストラテジーと公表していたが、この猛暑でハードが永遠に保つとは思えない。いつものように、メルセデスがトップでクルージングしていれば話は違っただろうけれど──。

 31周終了時点でハードに交換したフェルスタッペンは、首位ルクレールとの差が12.9秒──長くステイアウトしてもタイムは何も失わず、ハードの第2スティントが前を行く3台より10周短いというメリットだけを手に入れた。そしてマシンは「ハードに交換したところから、息を吹き返した」と、フェルスタッペンは振り返る。

 ソフトスタートでもミディアムに比肩し得るコンスタントなペースで第1スティントを走ったルクレールにとって、誤算はフェルスタッペンが9周も長くステイアウトしたことだった。

「10周分のタイヤアドバンテージがある」とドライバーに伝えたピットも絶妙。“最後に楽しい展開が待ってるよ”というメッセージは“走り始めは慎重に”と伝えるよりずっと、フェルスタッペンの気質に合っていたし、ライバルへのプレッシャーにもなった。

 懸命にタイヤをコントロールしながら、ルクレールが35周目にファステストラップを記録するが、フェルスタッペンはじわじわと追い詰めるように、ペースを上げていく。首位ルクレール、4番手フェルスタッペンの間隔が10秒以内に入ったのは、レッドブルがファステストラップを記録した43周目のことだった。

 そこからは、守るルクレール vs 攻めるフェルスタッペンの構図が明白になった。28周を残して、レッドブルが1周あたり0.5〜1秒、間隔を詰めていく。フェラーリにとっての希望は、ふたりの間を走る2番手ボッタス、3番手ベッテルの存在。46〜49周目まではベッテルがフェルスタッペンを抑え、ルクレールはフェルスタッペンとの7.5秒の間隔を維持した。しかしマシンの耐熱性に問題を抱えたボッタスは、55周目のターン3であっさりとレッドブルに道を譲ってしまった。フェルスタッペン、優勝まであと5秒──。