苦戦は3年前から覚悟。PU製造者にも適用される予算制限も出遅れの一因に/アストンマーティン・ホンダ苦境の理由(1)
2026年のプレシーズンテストで、大きく出遅れたアストンマーティン・ホンダ。なぜ、彼らの船出は困難なものとなったのか。「ホンダのせいだ」と言う者もいれば、「アストンマーティンが悪い」と反論する者もいる。しかし、考えられる要因はひとつではない。いくつかの複合的要因が、いまのアストンマーティン・ホンダの苦境を複雑なものにしている。
このプロジェクトが困難なものになることは、アストンマーティン・ホンダが誕生した2023年5月からホンダは覚悟していた。
ホンダは2021年シーズン限りで、パワーユニットマニュファクチャラーとしてのF1参戦を終了。2022年シーズンにレッドブルとアルファタウリ(現在のレーシングブルズ)が使用するパワーユニットがホモロゲーションされるまで活動を継続した後、HRC SakuraのF1部門は大幅に縮小された。残されたスタッフはホモロゲーションされたパワーユニットのメンテナンスを行うのが主な仕事で、2026年に向けての本格的な開発は行っていなかった。
現在、ホンダ・レーシング(HRC)でパワーユニットの開発責任者を務める角田哲史LPLは、こう語る。
「復帰を発表するまで、本格的な開発ができなかったことでスタートが遅くなったというハンディは、もちろんあります」

2015年にF1に復帰した第4期もホンダは出遅れた。その状況を打開したのは、高速燃焼の発見だった。
「高速燃焼を見つけたのは2017年のシーズン中だったと思います。単気筒の試験をしていたら、突然、馬力が上がる燃焼が発見しました。でも、しばらく回していると、その馬力が消えてしまう。試行錯誤しながら、ようやく2018年に完成しました」(角田LPL)
しかし、今回の第5期はコストキャップがホンダを苦しめている。
「今回はコストキャップがあるので、いままでとは違います。以前までなら、ホンダ・ジェットの力を借りたように会社が本気を出してリソースを集中させることができましたが、いまはそれは簡単にはできません。高速燃焼を実現したときのように、タネをたくさん撒くこともできません。ほかのマニュファクチャラーは、2022年まではコストキャップがなかったので、それまでの期間にたくさんタネを撒くことができましたが、私たちが復帰を発表した2023年からはパワーユニットマニュファクチャラーにもコストキャップ制度が新たに導入され、自由にタネを撒くことができませんでした」
コストキャップによって出遅れたホンダとライバルたちとの差はなかなか縮まらないまま、プレシーズンテストを迎え、結果的にホンダだけが取り残された。

ただし、今回のレギュレーションでは、『ADUO(Additional Development and Upgrade Opportunities/追加開発・アップグレード機会)』というシステムが新たに導入される。これは特定マニュファクチャラーのパワーユニットの競争力が著しく低くなってしまった場合に発動される支援制度だ。
シーズン中、国際自動車連盟(FIA)は全チームのパワーユニット性能を継続的にモニタリングし、6戦ごとにADUOを適用するメーカーの有無を評価する。その結果、支援が必要だと判断されれば、コストキャップが緩和され、テストベンチの使用時間も追加される。
もし、ホンダがADUOに該当した場合、コストキャップが緩和され、ベンチテストの時間が追加され、場合によってはシーズン中のスペック変更も可能だ。角田LPLによれば、「シーズン中のスペック変更は2回まで」だというが、ADUOによって得られたお金と時間は必ずしも同じシーズンのパワーユニットの開発に使わなければならないわけではなく、翌年の開発に回してもいい。
果たして、ホンダはどちらを見据えているのか。
