2025.03.02

「人生を懸けて戦い抜きます」初のF1ドライブと2025年をFIA F2に絞った覚悟【宮田莉朋インタビュー連載LAP01】


2025年FIA F2プレシーズンテスト 宮田莉朋(ARTグランプリ/TGR-DC)
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 2023年の全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)とスーパーGT GT500クラスでダブルタイトルを獲得し、2024年はFIA F2やヨーロピアン・ル・マン・シリーズ(ELMS)などに参戦したTOYOTA GAZOO Racingの宮田莉朋。オートスポーツwebではこれまで『宮田莉朋“三刀流“コラム』と題し、2024年シーズンの模様を彼の言葉とともにお届けしていた。

 2025年は宮田莉朋にとって欧州2年目のシーズンであり、より結果が求められるシーズンとなる。その戦いぶりにフォーカスするべく、今季は新たにインタビューシリーズとしてお届けする。

 第1回となる今回は、1月15〜16日に行われた初のF1テスト走行について、そして2年目を迎えるFIA F2に掛ける想いを聞いた。

* * * * * * *

 マネーグラム・ハースF1チームからヘレス・サーキットで実施されるTPC(Testing of Previous Cars/F1が認可したプログラムによる旧型マシンでの走行)テストに宮田が参加し、2023年型マシンの『VF-23』をドライブすることが明らかにされたのは1月13日とテスト直前だった。

 もちろん、宮田本人にはそれ以前に知らされていたとはいえ、それでも、分厚い辞典ほどのページ数があると言われるマシン、フェラーリ製パワーユニット(PU)のマニュアルが手渡されたのは直前だったようだ。

「レクチャーを受けたのも前日とかでしたが、WEC世界耐久選手権のハイパーカーを経験していたので、ある程度、運転操作に関してはイメージすることができていました」と、宮田は振り返る。

「もしFIA F2やSFの経験だけでF1のテストを迎えていたら、結構きつかったと思いますね。F1はPUの始動方法の時点からFIA F2と大きく異なり、おそらく、みなさんのご想像の倍以上は違うのではないかと感じます」

 自身初のF1ドライブとなった今回のTPCテストを終えて改めての感想は「楽しかったですし、自信に繋がる部分が多かったです」と宮田。

「F1マシンは縦も横もGは凄かったです。とはいえ、事前にF1ドライブ経験者たちに『縦のGが尋常じゃない』と聞いていたので、ブレーキは相当効いて肉体的にもハードなのだろうと想像して臨みましたが、意外と今の自分の身体でも大丈夫だなという感じでした」

「あまりにハードだろうと想像を膨らませすぎたせいか、その想像を超えなかったのは良かったのかそうでないのかわからないのですが(苦笑)、“全部が別次元”といったこともなく、走り始めからかなり楽しんでいました」

 それでも加速とブレーキングを比べた際、宮田の体感ではブレーキングの方が驚きはあったという。

「ブレーキは他のどのカテゴリーにもない高い制動力でした。ただ、タイヤがFIA F2と同じピレリだったので、F1マシンというよりタイヤの限界がFIA F2に近いところにあると感じ取れました。これは1年間FIA F2を戦って得られた感覚だと思います」

 さらに、SFチャンピオン経験者ならではの感覚もあったようだ。

「F1に乗る前、僕が経験したもっとも速いマシンはSFでした。当然SFよりもF1の方が加速は凄いのですけど、F1の方が自分のやったことがきちんとクルマに反映されるように感じました。SFは凄く繊細すぎて、ドライバーの動きに対しクルマやエンジンが思ったように反応してくれない難しさがあります。F1マシンは自分のやった動きに対し面白いまでに反応してくれたので、そこは凄く楽しかったです」

ハースVF-23/写真は2023年11月にアブダビで行われたF1プレシーズンテストの際にオリバー・ベアマンが搭乗した際のもの

 今回のTPCテストは2日間実施された。レギュラードライバーであるエステバン・オコン、オリバー・ベアマンも参加していたため、初日の宮田の搭乗時間はわずかに留まったようだが、2日目は1日目より多くの走行時間が与えられたという。初日の経験も経て、2日目の走行もかなり充実した内容となったようだ。

「楽しかったですし、早くここに行きたいなと強く感じました」

 2日間のテストで初めてF1チームとの現場仕事に臨んだ宮田。今回の経験はF1へのさらなるモチベーションとなったようだ。

「F1チームはFIA F2などと比べても規模がぜんぜん違いますし、エンジニアやスタッフの役割分担から大きな違いがあります。F1ではスタッフ個々の役割が細分化されているので、みんなが何かしらの専門家です。その専門家たちからアドバイスも聞ける環境は自分にとってかなりためになることですし、アドバイスをドライバーに与えて次の仕事につなげるF1の環境は好きですね。早くレギュラードライバーとして乗りたい、そう感じさせる2日間でした」

 これまでリザーブドライバーとしてル・マン24時間レースのテストデーなどでTGR WECチームに帯同している宮田、WECとF1では現場の体制な違いを感じたのか。

「人数の多い少ないではなく、F1とWECでは目的が違うので、働いているスタッフの担当分野が異なります。なので、単純な比較は難しいですね」と話すにとどめた。

■これまでの複数カテゴリー参戦から2025年の活動をFIA F2のみに絞った覚悟

 2025年の走り始めがF1テストとなった宮田。2月24〜26日にはスペインのカタロニア・サーキットでFIA F2開幕前唯一の合同テストが行われる。そのため、宮田は頻繁にフランスのARTグランプリのファクトリーを訪れ、シミュレーター作業やミーティングを進めていた。

「今季のFIA F2は開催されるサーキットは昨シーズンから変わりないため、ようやく未経験のコースがない状況での戦いとなります。それだけに良い成績を残さなければいけません。昨年も経験がないなかで全戦ポールポジション、優勝を目指していました。そのスタンスは変わらず、挑んでいきます」と、今季へ向けての意気込みを語る宮田。

「TGRの皆さん、ハースのみなさんのおかげでF1テストも経験できました。FIA F2で成績を残すことができれば、F1に行けることは間違いないと信じています。FIA F2は、この上ない過酷なカテゴリーだと思いますが、そのことを言い訳にせず、自分は戦い抜きたいと思います。ARTグランプリをはじめ、自分を支えてくれるメンバーやみなさんとともに、自分の人生を懸けて戦い抜きます」

「開幕戦の舞台となるメルボルンは去年も悪くない走り(スプリントレース/フィーチャーレースともに5位)でしたので、ARTグランプリとともに最低限、昨年以上の結果でシーズンを開幕したいですね」

 今季のTGRの体制発表の際に、TGRとハイテックがタッグを組み『ハイテックTGR』として宮田の活動をサポートすることが明らかにされた。この件についてTGRに確認したところ、若手ドライバーの育成に関し知見のあるハイテックとともに、宮田の現場(レースウイーク中のサーキットなど)での活動をサポートし、宮田がよりレースにフォーカスしやすい環境を構築することを意図した取り組みとのことだ。

 2025年シーズン、宮田はレース活動をFIA F2のみに絞った。これは宮田の希望であり、同時に宮田にとって「人生を懸けて戦い抜きます」といった覚悟の表れでもある。その宮田の覚悟に呼応し、TGRのバックアップも現場レベルに及ぶ充実した内容に進化した。新たなチーム、新たな仲間とともに、覚悟を伴って挑む宮田のFIA F2での走り、その戦いぶりに引き続き注目したい。

2025年FIA F2プレシーズンテスト 宮田莉朋(ARTグランプリ/TGR-DC)

■宮田莉朋(みやたりとも)プロフィール
1999年8月10日生まれ、神奈川県出身。4歳からカートをはじめ、元F1ドライバー高木虎之介氏のもとで腕を磨き、地方選手権や全日本選手権で活躍。2015年のシーズン途中にFIA-F4選手権にスポット参戦し、4輪デビューを飾る。同年、フォーミュラトヨタ・レーシング・スクール(FTRS)を受講しスカラシップを獲得すると、2016年と2017年はFIA-F4にフル参戦し、連覇を果たした。2018年より全日本F3選手権(現:全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権)に参戦すると、2020年にシリーズタイトルを獲得。また、同年よりスーパーGT GT500クラス、2021年よりSFにフル参戦を開始し、2023年に両シリーズでタイトルを獲得した。2024年より活動拠点を欧州に移し、トヨタのバックアップのもと、F1の登竜門であるFIA F2に参戦している。



(autosport web)

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