いよいよF1デビューのアウディ、機運高まる地元で住民向けイベントを開催。挑戦の理由と優勝への道筋を説明
4月6〜8日にオーストラリアのメルボルンでいよいよデビュー戦を迎えるアウディF1。初年度シーズンの開幕を直前に控え、アウディの本社があるインゴルシュタットに建つ自動車博物館『アウディ・ムゼウム・モビール(アウディ・ミュージアム)』において、地元住民向けのF1レクチャーが行われた。
レクチャーは二部構成になっており、一部では1932年のアウトーウニオン時代のF1への参戦歴や当時の様子が紹介された。その中では最新の技術を用いてカラー映像化された、当時としては貴重なレース映像も披露されるなど、会場を訪れた人々は興味深くその映像に見入っていた。
1939年の第二次世界大戦の勃発により、同年の9月3日が実質的にアウディによる“シルバーアロー”の最後のレースとなったのだが、戦時中には1932年からの歴代のレーシングカーの大半がソビエト連邦共和国に没収された。その多くが破壊され、もしくは行方不明となってしまったというが、幸いにも後に発見されたものも数台あり、レストアされて個人や世界各地のミュージアムに所蔵されている。アウディとしても世界のコレクターたちの尽力に敬意を払っている。
第二部では『Audi Road to Formula 1』をテーマに、アウディがF1へ参入するにあたり、企業体制やデビューまでの道のりやチームやドライバー、パートナー企業の紹介および説明などが行われた。
アウディは、WRC世界ラリー選手権をはじめ、WEC世界耐久選手権、DTMドイツ・ツーリングカー選手権、GT3レース、そしてABB FIAフォーミュラE世界選手権など長年モータースポーツ活動を幅広く行っていたが、現在はそれらから手を引いている。これらの活動をすべて終了してまでもF1参戦を決定するに至った理由には、今季2026年から採用される新レギュレーションにより、アウディとしても精力的に取り組む地球環境保護活動にマッチした100%持続可能なカーボンニュートラル燃料が使用されることや、パワーユニット(PU)の厳格なコストキャップが大きな決め手のひとつとなったようだ。
このドイツメーカーは、WECやル・マン24時間レースで成功を収めたR18 e-tronやダカールラリーを制したRS Q e-tronの電動駆動技術など、過酷なモータースポーツの中で培った技術を応用し、自社でパワーユニットを開発。今季のF1に参戦する全11チームの中で唯一“Made in Germany”を掲げる。ちなみに、メルセデスは同じくドイツのメーカーであるが、F1のパワーユニットをイギリス・ノーサンプトンで製造している。

また、2017年にFIA国際自動車連盟がF1の商業権をアメリカのリバティ・メディアに売却したが、アウディはリバティの積極的なF1のマーケティングやPR活動を高く評価しているようだ。
リバティが行った、ソーシャルメディアやインフルエンサーを活用した現代社会にマッチしたアピールは、F1の認知度を285%向上させることに成功した。とくに若者世代の新たなファンを惹きつけていることは注目に値し、それを活用してアウディも波に乗りたい構えだ。
F1は現在、世界的にもっとも注目されるNBLナショナル・バスケットボール・リーグやサッカーのUEFAチャンピオンズリーグらと比較しても、その数を大きく上回る3億4700万人という莫大な数のファンを抱える。さらに、その中の42%を女性が占めるとあり他のスポーツとはまったく異なるマーケティング効果が期待されているという部分にも、アウディは共感。スポーティで洗練されたデザインの乗用車をより多くの女性の目に留め、販売につなげたいという目的も相まって、リバティ・メディアのF1マーケティング戦略はアウディの企業戦略にマッチしているという。
F1へ参戦するからには『参加することに意義がある』という考えではなく、あくまでも目標は『可能な限り多く表彰台に立つ』ことだといい、アウディは第1ステップとして2026〜2027年は“チャレンジ・フェーズ”として現場で数多くのことを学ぶとしている。
その後、第2ステップでは2029年中にはコンペティティブなコンディションへ発展させ、第3ステップの2030年には優勝を狙うといった、3つのフェーズで段階的に勝利への道を着実に歩むという計画の発表もあった。
レクチャーの終わりには質疑応答の時間も設けられ、参加者からは今後発売予定のミニカーの発売日やグッズに関しての問い合わせのほか、アウディの市場には中国が大きなターゲットであることから中国人ドライバーの起用予定の有無や、地元ならではの地域雇用の促進に関しての質問も挙がった。
現在、ノイブルグ・アン・デア・ドナウにあるアウディスポーツ/アウディ・フォーミュラ・レーシングには、約300名のスタッフが在籍している。このほか、スイスのヒンヴィルにあるサウバー・モータースポーツ/アウディF1チームには約400名が在籍しているということだが、それぞれがF1という非常に専門的に特化した仕事内容とあり、地域住民を優先的に雇用するかどうかの判断が非常に難しく、各社の人事に委ねられるとの説明があった。

以前の記事でも紹介しように、アウディはミュンヘンとベルリンでそれぞれ、VIPゲストやインフルエンサーなどを招いて大々的なF1のプレゼンテーションを実施したが、これまで地元インゴルシュタットではF1への参戦イベントは開催されていなかった。
世界発信を兼ねたミュンヘンやベルリンでのプレゼンテーションのような華やかさは一切なかったものの、アウディのF1での歴史や今後の発展に地元インゴルシュタット市民が誇りと期待を込めて、オーストラリアGPで新たな門出を応援する熱気が伝わってきた。その一方で、地元民も愛して止まなかった数々の栄光を飾ったモータースポーツ活動がすべて終了してしまったことに対し、惜しむ声が多く聞かれたことは言うまでもない。
今回のレクチャーは事前の申し込みのうえ入場無料で開催されたのだが、広報関係者によると早々に予定の客席数を上回る申し込みがあり、残念ながら数多くのお断りをしなければならないほどの盛況ぶりだったという。
まだ開始したばかりのF1への挑戦とあり現時点では今後の催事については未定だというが、アウディ本社やミュージアム関係者は、いつの日か地元インゴルシュタットで市民を招いてのイベントを開催することを期待し、「地元市民に還元することができるとすれば、とても喜ばしい」とコメントをしている。