【F1第11戦予選の要点】新人ボルトレートが8番手。健闘を支えたキック・ザウバーのマシン改良方針
第10戦カナダGPを終えた時点で、キック・ザウバーは今季一度も予選Q3に進出できずにいた唯一のチームだった。その壁を11戦目にして打ち破ったのは、チームのエースである37歳のニコ・ヒュルケンベルグではなく、20歳の新人ガブリエル・ボルトレートだった。
第11戦オーストリアGPの予選Q1を8番手で通過したボルトレートは、続くQ2で5番手につけると、最終Q3ではアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)に0.065秒まで迫り、8番グリッドを掴み取った。
ボルトレートの大健闘を支えた最大の要因は、いうまでもなくキック・ザウバーの2025年型マシン『C45』の戦闘力が上がったことだ。
チームは2戦前、第9戦スペインGPで、再設計されたフロアやエンジンカバー、フロントウイングなど、今季初めてかつ大規模なアップデートを投入した。その成果は明らかで、予選では最終セクターのタイムロスで16番手に沈んだヒュルケンベルグが、レースになるとアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)、ルイス・ハミルトン(フェラーリ)コース上で抜き去って、5位入賞を果たした。
そして今回、チームはフロアの改良版と新設計のリアウイングを持ち込んだ。このアップデートも当たりだったようで、ボルトレートは初日のフリー走行1回目(FP1)でいきなり6番手タイムを出すと、 FP2で8番手、予選前のFP3で10番手と速さを見せた。
ところが奇妙なことに、チームメイトのヒュルケンベルグはこのアップデートにまったく適応できなかった。3回のフリー走行は、いずれもトップ10圏外。さらに予選はQ1最下位の20番手で終えた。
ヒュルケンベルグは初日終了時点で「いろいろなセットアップを試したが、グリップもバランスも不安定だった」と、語っていた。その症状が、予選までに改善できずに終わったということか。対照的にボルトレートは「周回するたびに、マシンがどんどん馴染んでいった」と、コメントそのままに絶好調だった。
シーズン序盤の『C45』は空力的にかなりナーバスで、ドライビングしやすいマシンでは決してなかった。そのため、チームはダウンフォースを増してピークパフォーマンスを上げるより、安定した挙動を重視する改良に舵を切った。
スペイン、カナダとヒュルケンベルグが果たした連続入賞は、ヒュルケンベルグの巧さはもちろんだが、同時にこの改良によってロングランペースが上がったことが大きかった。
ボルトレートはFIA F3、FIA F2をいずれも1年で制覇し、F1に駆け上がってきた。今年のルーキーのなかではカナダGPで表彰台登壇を果たしたアントネッリや、チームメイトを凌駕する走りを見せるハジャーの陰に隠れがちだったが、地元ブラジルでは“アイルトン・セナ2世”と評され、期待される大型新人だ。
そんな本来の実力に見合ったマシンを、ボルトレートはようやく手に入れつつあるようだ。