F1史に刻まれた期待外れマシン列伝(1)マクラーレン、フェラーリ、ウイリアムズ──名門のつまずきと悲劇
2026年にF1は、バトルを増やし、環境負荷を低減することなどを主目的に、レギュレーションを一新、新世代マシンを導入した。3戦を消化した段階での評価には、エネルギーマネジメントの重要性が高まったことで、予選でも全力でプッシュできない、バトルが人工的、速度差が大きくなり危険が生じるなどの批判的な声も多々あり、第4戦からの規則修正も決まった。
今年のレギュレーションはまだ初期段階であり、確定的な評価は下せない。だが、F1の歴史のなかでは、後年に振り返っても否定的な見方をされるレギュレーションやマシンがいくつかある。今回の特集では、そういうレギュレーションとマシンに焦点を当て、ベテランF1ジャーナリストの柴田久仁夫氏と尾張正博氏に、1999年以前、2000年以降に分けて、ワーストレギュレーションおよびワーストマシンを3つずつ選んでもらった。
今回は柴田氏による1999年以前の『ワーストF1マシン3選』を紹介する。
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僕にとってのワーストマシンは、以下の3台である。
・マクラーレンMP4/7A(1992年)
・フェラーリF92A(1992年)
・ウイリアムズFW16(1994年)
いずれも常勝チームでタイトル獲得を期待されながら、失敗作の烙印を押されたマシンたちだ。

MP4/7Aは、ホンダ製3.5リッターV12エンジンを搭載したマクラーレンのマシンである。アイルトン・セナとゲルハルト・ベルガーを擁し、通算5勝を挙げた。しかしライバルのウイリアムズFW14Bとの性能差は圧倒的で、ドライバー、コンストラクターズの両タイトルを奪われた。

敗因は明らかで、アクティブサスペンションやトラクションコントロールなどハイテク装備の開発で、ウイリアムズに完全に遅れをとったことだ。車体の空力性能ではベネトンにも劣り、ホンダV12は、パワフルではあったがあまりに重量が重かった。前年までダブルタイトル4連覇を果たしていた常勝マクラーレンには大きな挫折となり、ホンダはこの年限りでの第2期F1活動終了を決めた。

フェラーリF92Aは斬新なダブルフロア構造を導入した革新的デザインで、見た目にも美しいマシンだった。ダブルフロアは車体両サイドからディフューザーへより多くの気流を流し空力効率を上げるという、後世につながるF1空力思想の先鞭をつけるものでもあった。

しかしその複雑な構造ゆえに、前後バランスの調整が難しく、チームはセッティングに手こずった。新設計のエンジンもパワー不足の上に、オイル系のトラブルが頻発。「ジル・ビルヌーブの再来」と期待されたジャン・アレジも、2回の3位表彰台が精一杯。フェラーリは前年に続き、この年も無勝利に終わった。

FW16はアイルトン・セナが事故死したことで、悲劇のマシンとして記憶される。エイドリアン・ニューウェイ設計のマシンらしく、極限まで空力効率を追求。しかしアクティブサスなどのハイテク装備が急遽禁止されたことで、その仕様を前提に開発を進められていたFW16は、非常に神経質な挙動を示すマシンになった。
セナの事故原因は、今も確定されていない。再溶接されたステアリングコラムの破断、あるいはニューウェイの主張したリヤタイヤのパンク、そして路面の凹凸でコントロール不能になったなど、様々な仮説が出たが、決定的なものはない。ニューウェイはパトリック・ヘッドらと共に過失致死罪で訴追されたが、その後、無罪になった。ニューウェイは今に至るまで、この事故について多くは語っていない。
