2025.11.17

【F速プレミアム】
F1を目標に定めるWRC王者カッレ・ロバンペラの新たな挑戦/スペイン人ライターのF1コラム


(c)TOYOTA
 WRCから引退を表明し、2026年はスーパーフォーミュラに参戦するカッレ・ロバンペラ。セバスチャン・ローブやセバスチャン・オジエに並ぶ才能をもつと言われている若者はフォーミュラカーで果たして成功を収めることができるだろうか。スペイン在住のフリーライター、アレックス・ガルシアがロバンペラについて語る。
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 ご存知のとおり、先月カッレ・ロバンペラは2025年シーズン終了後に世界ラリー選手権から引退し、シングルシーターで新たなキャリアをスタートさせ、2026年にスーパーフォーミュラに参戦することを発表した。これはおそらくこの10年間で最大のモータースポーツニュースだろう。

 そして私がこの10年間で最大のモータースポーツニュースだと言うのは、ロバンペラがセバスチャン・ローブやセバスチャン・オジエ以来、WRCで戦う最も才能のあるドライバーであることに誰も疑いを持たないからだ。10年から15年ごとに現れ、多くの人がF1のマックス・フェルスタッペンに期待するのと同じように、スポーツの歴史を書き換える運命にあると思われるドライバーのひとりだ。
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 フィンランド出身のロバンペラが突然引退するというのはすでに信じられない出来事だが、F1を目指すというわかりやすい目標とともに実際に全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦するというのは、前代未聞のことだ。なぜなら、キミ・ライコネン、ロバート・クビサ、そして最近ではヘイキ・コバライネンらF1ドライバーがラリーの世界に飛び込んだことはあるが、その逆はこれまで一度もなかったからだ。2008年と2009年に、ローブはレッドブルとトロロッソ加入を試みたが、スーパーライセンスは拒否され、その夢はあっという間に打ち砕かれた。オジエでさえサーキットレースに短期間出場したことがあるが、それは彼の望みどおりにはならなかった。そしてこの場合、彼の目標は決してF1などではなかった。

 ロバンペラは自身の計画についてかなり率直で、FIA F2に移る前にスーパーフォーミュラで2年間過ごすつもりだと公言している。当然ながら、彼のような実力を持つドライバーがそのシリーズに参戦する理由はただひとつだ。もし彼の目標が耐久レースだけであれば、LMP2のマシンでELMSやALMSに参戦する方が合理的だ。そのため、彼がF1に挑戦したいと考えていることは、もはや秘密ではない。

 ロバンペラが成功できるかどうかはわからないが、2024年に参戦したポルシェ・カレラカップ・ベネルクスでは、優れたスピードと、コース上で他のライバルと戦う素晴らしい能力を示した。実際、運営を指揮していたレッドアント・レーシングのチーム代表で、ベルギー出身の元ドライバーであるマルク・ホーセンスは、ロバンペラがその道を進むことを選択すれば、F1で侮れない存在になると確信していると当時語っていた。

 この話は、もちろんF1パドック内で大きな関心を集めた。当然のことながら、トヨタとのつながりからハースF1チームのメンバーはこのことについて非常に前向きに話をしている。エステバン・オコンは、「カッレははるかに難しい仕事に取り組むことになるだろう。なぜなら、これはまったく異なるスポーツであり、彼はすべてがどのように機能するかをゼロから学ぶことになるからだ」と断言したが、2024年のポルシェ・カレラカップ・ベネルクスでの彼の活躍には非常に感銘を受けたと認めた。

 だがおそらく最も重要なのは、ロバンペラがスーパーフォーミュラ参戦を選択したことについて、オコンが非常に素晴らしいと語っていることだ。理由は単純だ。そしてこれは、2年前に岩佐歩夢が同シリーズに参戦した際に、大きなチャレンジとして私に話してくれたことでもある。つまり、一部のドライバーは日本で長年レースをしていて、彼らはクルマや各地のサーキットを非常によく知っているのだ。彼らは最高レベルでドライブするプロフェッショナルだ。オコンは、F2は容易なものではないと認めているが、カッレ・ロバンペラのようなドライバーにとっては、結局のところ国際舞台に出るよりも日本で学ぶことの方が多いかもしれない。

 もうひとつの興味深い意見は、フェルナンド・アロンソのものだ。彼は2度のF1チャンピオンであるだけでなく、ル・マン24時間レースで2度優勝し、WECでチャンピオンとなり、デイトナ24時間レースでも優勝し、インディ500やダカール・ラリーにも出場している。このスペイン人は競技分野を変え、まったく新しい環境に適応することがどういうことかよく知っている。アロンソはロバンペラのことを、「数多くの課題に直面することになる、信じられないほど才能のあるドライバー」と呼んだ。彼は、ラリーからレーストラックへ移るドライバーを見るのは非常に稀であり、通常はその逆であることを認識していた。

 アストンマーティンのエースによると、ロバンペラの新たなキャリアの鍵となるのはトヨタだという。アロンソは自身も元トヨタのドライバーであるため、トヨタがドライバーをどれだけ大切にするか知っている。「彼はシミュレーターで何日も過ごし、スーパーフォーミュラでデビューする前にできる限りの競技に出場するだろうと確信している」

 アロンソは、カッレ・ロバンペラが今冬のフォーミュラ・リージョナル・オセアニアに参戦する可能性を示唆しているのだろうか? このシリーズはトヨタのエンジンを使用しているので、おそらく無理な話ではないだろう……。そして、ロバンペラにとってはよいトレーニングになるだろう……。もちろん、彼が冬の休暇を諦めることを望むと仮定した場合だが。

 しかしこの物語には、あまり語られることのない、私が興味深いと思った別の要素がある。スペインにはラリーの素晴らしい伝統がある。まさにここは、“エル・マタドール”であるカルロス・サインツの地だ。しかしそれに加え、私が幸運にも広報担当を務めているS-CER、つまりスペイン全国選手権は、長年にわたりヨーロッパ最大のナショナルシリーズのひとつとなっている。そして、スペインのラリーファンがこの競技にどれほど情熱を注いでいるかは簡単にわかる。多くの場合、こうしたラリーファンは、ラリーこそがモータースポーツの最高峰であると主張し、サーキットレースを見下している。

 ファンやジャーナリストに話を聞くと、カッレ・ロバンペラの決断に対する不満は大きく、ラリーの“裏切り者”と呼ばれているほどだった。彼のような若者が、自分自身ではなく父親が選んだ分野に飽きてしまうのはおそらく普通のことだと、長い話をすることもできるだろう。しかし何よりも私が驚いているのは、ラリーファンがこの機会にサーキットレースの新たな冒険に挑戦する仲間を応援しないということだ。結局のところ、ラリーが本当に最高のモータースポーツ分野であるならば、彼はF1に到達してそこで勝利を飾るはずだ。

 そして、モータースポーツのトップクラスが何であるかに関係なく、それは信じられないほどの物語ではないだろうか?

(Alex Garcia/Translation: AKARAG)

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