ピットレーンから表彰台。衝撃のフェルスタッペン復活劇に、ライバルは敬意と疑問【トップチーム密着】
インテルラゴス・サーキットことアウトドローモ・ホセ・カルロス・パーチェのバンピーな路面とやや涼しいコンディションによって、今年のF1第21戦サンパウロGPはどのチームも予選でタイヤを機能させることに悩まされた。それはトップチームも例外ではなく、最も苦しんだのがレッドブルだった。
スプリントで4位に終わったマックス・フェルスタッペンとレッドブルは、予選に向けたセットアップ変更で、なんと前戦メキシコシティGPから投入された最新のフロアの使用を断念し、第18戦アメリカGPまで使用していた1世代前のフロアに交換した。
このフロア変更と同時に、レッドブルは車高とサスペンションのセットアップの変更を行った。しかも、そのセットアップはリスクをとって、スプリントまでのものから大きく異なるドラスティックな変更だった。バンプによるハンドリング悪化を解消するために車高を上げ、グリップ不足を補うためにサスペンションを軟らかくしたと思われる。
ところが、その変更によって、マシンの状態はさらに悪化。フェルスタッペンは予選16番手に終わり、Q1で敗退した。フェルスタッペンがQ1落ちするのは、これまでの11シーズンで今回が7回目。最近では2021年のロシアGP以来、4年ぶりのことだった。ただし、過去6回はいずれもパワーユニット交換によってグリッドペナルティが確定していたなかでのQ1敗退だったのに対して、Q2以降に進出する意味がなかったことによる戦略的な敗退だった。
これに対して、今回のサンパウロGPのQ1敗退は、予選の時点ではパワーユニットを交換する予定がないなかでのQ1敗退。フェルスタッペンが実力でQ1落ちするのは、これがF1人生初だった。

これに対して、ドライバーズ選手権でタイトルを争うマクラーレン勢はランド・ノリスがポールポジションで、オスカー・ピアストリが4番手。失うものがなくなったレッドブルは、ピットレーンスタートを覚悟したうえで、予選前にフェルスタッペンのマシンに施した誤ったセットアップを再調整した。同時にグリッドペナルティを消化するために、パワーユニットのエレメントをすべて交換し、新品を投入した。
これらの変更によって、フェルスタッペンのマシンは生き返り、日曜日のレースでピットレーンからスタートし、途中パンクに見舞われて最後尾に転落したものの、最終的に3位でフィニッシュ。優勝したノリスとの差はわずか10秒余りだった。

この結果に、ライバルであるマクラーレンのアンドレア・ステラ代表は、フェルスタッペンのドライビングを讃えつつ、レッドブルが行ったパワーユニット交換には疑問を呈した。
「率直に言って、今回のパワーユニット交換はルールの精神に反していると思う。もし性能向上を目的に交換したのなら、それはコスト計算に含めるべきだからだ」
信頼性のトラブルに伴う交換はコストキャップ対象外とされる一方、性能向上のための交換は対象となるというのが、ステラの主張だ。しかし、ベルギーGPやイタリアGPなどパワーサーキットで新エンジンを投入するのは、現在のルールになってからの慣例であり、昨年のサンパウロGPでもレッドブルはフェルスタッペンに6基目となるエンジン(ICE)を投入しており、グリッドペナルティは受けたが、レギュレーション違反にはなっていない。
次戦ラスベガスGPはストレートが長く、パワー感度が高い。サンパウロGPでノリスがポール・トゥ・ウインと完勝し、ノリスとフェルスタッペンの差は49点に広がった。残りは3戦。通常であれば、49点は安全圏内だ。だが、ステラにとって、それがまだ十分なギャップとは感じられないほど、サンパウロGPでのフェルスタッペンの復活劇は、衝撃的だったようだ。

