2025.11.07

冷却に厳しいメキシコは排出口増設で対応。異なるタイヤ戦略の角田はリフト&コーストで車体温度を管理:ホンダ/HRC密着


2025年F1第20戦メキシコシティGP 角田裕毅(レッドブル)
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 北米大陸2連戦に向けて、ホンダ・レーシング(HRC)はパワーユニット(PU)にある対策を施した。それは、第18戦シンガポールGPのレース中にアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)のパワーユニットに搭載されているセンサーに異常な値が検知され、フェイルセーフ・モードで走らなければならなかった問題に対するものだ。

 シンガポールGP後、HRCは問題が起きたハジャーのパワーユニットをHRC Sakuraに戻して解析を行った。HRCの折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー/GM)はこう説明する。

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HRC Sakuraから送られてきたパワーユニットを現場でメンテナンスするHRCの吉野誠メカニック

「解析をして、原因はある程度わかりましたので、その対策をしてこのイベントに臨んでいます。誤解しないために言えば、センサーが壊れたのではなくて、センサーが異常な値を出しているのが問題でした。それが何かということは教えられませんが、考えうる対策はしています。予防措置として、ほかのクルマに搭載されるパワーユニットでも一部行っています」

 そのハジャーは、第19戦アメリカGPの予選でクラッシュ。ノーズからバリアに突っ込んだ後、リヤ部分もバリアに衝突した。

 ガレージに戻ってきたマシンをチェックした折原GMは、次のように語る。

「あの当たり方だと横からパワーユニットに衝撃が入力されているので、エンジンに大きな力が入る可能性もあり、チェックが必要です。今回、ローソンの場合は交換しましたけど、予選後だから交換できない。信頼性に懸案があれば、予選後でも同じスペックであれば交換はできますが、我々が確認した範囲では大丈夫だという判断を下しました」

 その判断に狂いはなく、ハジャーのマシンに搭載されたパワーユニットは日曜日のレースを問題なく走り切った。ただし、このレース中にERS(エネルギー回生システム)で回生した電気エネルギーを放出することを停止するアンチデプロイを行うシーンがホンダRBPT勢に見られた。

「通常であれば、アンチデプロイはエネルギーが足りないときに行うのですが、今回はそうではなく、別の目的で使用しました」

 その目的とは、車体側の部品を守るためだ。今回がそうだとは断定できないが、たとえばブレーキに負荷がかかりすぎている場合には、アンチデプロイを行ってストレート区間でのスピードを落とすことでブレーキを労ることができるというわけだ。

 とはいえ、今回のアンチデプロイは車体側に何か深刻な問題があったわけではなく、後続とのギャップを確認したうえでリスクを最小限に抑える目的で行ったものだと折原GMは説明した。

アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)
2025年F1第19戦アメリカGP アイザック・ハジャー(レーシングブルズ)

 アメリカGPから2週連続での開催となった第20戦メキシコシティGPでは、レッドブルがエンジンカウルをアップデートした。

「メキシコシティは24戦中、最も高地で行われます。空気の密度が低い分、冷却効率が悪くなり、クーリングが厳しくなります。ですから、今回レッドブルはメキシコ・スペシャルを持ってきました。それがうまく機能するかどうかをフリー走行で確認したい」

 そう語っていた折原GM。金曜日のフリー走行では3枚ルーバーでスタートしたが、土曜日からは日曜日の高温を想定して、3枚ルーバーの前方に、追加の排出口を設けていた。

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メキシコシティGP金曜日の時点では、RB21にはルーバーが3枚設けられた
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土曜日以降は高温対策のため、ルーバーの前方に追加の排出口を設けた

 さらに集団のなかで走ることが少なくないレースでは、パワーユニットだけでなく、車体の冷却が厳しい状態となる。角田裕毅(レッドブル)に対して、レース序盤からレースエンジニアのリチャード・ウッドから次のような指示が出されていた。

ウッド (→角田):「君がレースをしているのはわかっているけど、ターン1、4、12で、さらに50m手前でリフトオフする必要がある」

ウッド (→角田):「ユウキ、APUの冷却が必要だ。可能な限り、リフトオフが必要だ。それからターン4、5、6で3速を使用してほしい」

 ターン1、4、12はいずれもストレートエンドにあるコーナー。つまり、ストレートエンドで通常より50m手前でリフト&コーストをしてほしいという指示だ。リフト&コースト(Lift and Coast)とは、アクセルから足を離し(lift)、惰性でクルマを走らせる(coast)ことだ。また、 APUとはAuxiliary Power Unit(補助動力装置)だと思われ、パワーユニットのエンジン以外の補器類を指す。3速で走れという指示は、通常よりもギヤレシオを高くして回転数を抑える狙いがあり、エンジンはもちろん、ギヤボックスの温度管理も行っていた。

 この指示について、折原GMは序盤からオーバーヒート気味だったというわけではなく、角田のタイヤ戦略が周囲のライバルと異なっていたことも関係していたという。

「冷却に影響が出るのは2秒を切ったあたり。1.5秒から1秒以内あたりです。もちろん、そのくらい接近して、抜けるのであれば、リフト&コーストはせずにオーバーテイクしてもらっていいのですが、抜けない状態で何周も1.5秒から1秒以内あたりで走行していると車体を含めた冷却系が厳しくなるので、リフト&コーストしてもらうことになります」

 角田がスタート時に履いていたタイヤはミディアムでだったの対して、前後のドライバーたちはソフトタイヤ。ライバルより第1スティントを長く走るであろう角田は、闇雲に前車に接近するよりも、集団の中でリフト&コーストを行いながら、車体全体の温度をマネージメントしていたのである。その証拠に、ウッドは「いい仕事をしている」と評価していた。つまり、レース序盤の角田のペースは決して遅くなく、エンジニアの指示に従ったものだった。

 懸命なマネージメントで車体とパワーユニットの温度管理をしていた角田だが、ピットストップでの作業トラブルによって、ポイントを失ってしまった。このとき、折原GMは別の心配をしていた。

「外気温などの条件によって異なりますが、今週のメキシコシティGPだと、5秒ペナルティでも前もって停止することがわかっていれば、冷却ファンをあてます。ですから、10秒以上止まっていた裕毅のエンジンはかなり厳しい状況に置かれていたことになります」

 残念ながら、入賞はならなかった角田だが、メキシコシティGPでは日曜日の朝にRA272を走らせた。レース前の準備の合間を縫ってイベントを覗きに行った折原GMは、本田技研工業の三部敏宏社長から激励を受けていた。

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メキシコシティGPを訪問した本田技研工業の三部敏宏社長から激励を受けるHRCの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャー

「F1に視察に来ていただいたときには、いつも激励していただき、本当に感謝しています」(折原)

 レース後、ガレージ裏でホンダのスタッフがミーティングをしていると、通りかかったローラン・メキース代表が労いの言葉をかけていた。残り4戦、最高のフィナーレをレッドブル・ファミリーと迎えてほしい。

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レッドブルのメキース代表も、折原GMに労いの言葉をかけていた


(Text:Masahiro Owari)

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