2012.12.19

【F速コラム】
2012チャンピオン特集:セナ、シューマッハーを凌駕 記録が物語るベッテルの凄さ


(c)LAT

 1987年といえば、日本では鈴鹿F1初回開催年。いわゆる“F1元年”なのだが、それから四半世紀を経た2012年、F1元年生まれのセバスチャン・ベッテルが25歳にして3度目のF1ドライバーズチャンピオン獲得を果たした。史上最年少での3冠目であり、3連覇達成という観点でも史上最年少だ。
 1987年7月3日生まれのベッテルは、2012年11月25日、同年最終戦ブラジルGPでフェルナンド・アロンソとの戦いに終止符を打ち、3年連続3度目の戴冠を果たした。25歳5カ月弱という若さだが、これを過去の代表的なチャンピオンたちと比較してみよう。時代がかけ離れ過ぎると比較しても意味がないので、ここ四半世紀、つまりベッテルが生まれた頃以降の代表的王者、アラン・プロスト、アイルトン・セナ、ミハエル・シューマッハー、そしてアロンソに関して比べてみたい。25歳の誕生日を迎えた年、それぞれがどんな“状況”にあったのか……?

■プロスト:1980年、マクラーレンからF1デビュー(翌年ルノーへ)
■セナ:1985年、F1デビュー2年目で初優勝(この年からロータス)
■シューマッハー:1994年、F1デビュー4年目で初タイトル獲得(ベネトン)
■アロンソ:2006年、F1デビュー6年目、2年連続2度目の戴冠(ルノー)
■ベッテル:2012年、F1デビュー6年目、3年連続3度目の戴冠(レッドブル)

 プロスト新人、セナ初優勝、シューマッハー初王者、アロンソ2連覇、そしてベッテル3連覇。世代が若くなるにつれて25歳時の栄達の度合いが進むという、実に分かりやすい結果となった……ということは、ベッテルの25歳という年齢での3年連続戴冠はF1ドライバー若年化傾向が進んだ結果に過ぎない、と見ることもできるわけだ。年齢面の若さだけをとらえて讃えるのは間違いかもしれない。
 そこで、今度は「F1デビューから6年目」という尺度で比較してみたい。デビューがシーズン途中だったり、デビュー後に実戦登場がない年もあるアロンソ(02年)のようなパターンも存在するため、参戦何年目というくくり方は難しいのだが、ここでは決勝デビュー年を1年目として、その5年後のシーズンを6年目と統一解釈した。すると……。

■プロスト:1985年、初タイトル獲得(前年からマクラーレンに復帰)
■セナ:1989年、この年は戴冠ならずも、前年に初王座獲得済み(88年からマクラーレン)
■シューマッハー:1996年、フェラーリ移籍初年度。この年は戴冠ならずも、94〜95年に2年連続戴冠(当時ベネトン)
■アロンソ:2006年、2年連続2度目の戴冠(ルノー)
■ベッテル:2012年、3年連続3度目の戴冠(レッドブル)

 年齢ベースでの比較よりも“差”は詰まった印象だが、それでも6年目で3冠というのは、やはり偉業であることが分かる。今後、時代がどう動いたとしても、さすがにデビュー6年でこれ以上の数の王冠を積み重ねることは未来永劫、不可能と言ってもいいだろう。

 1950年発祥とされるF1世界選手権において、3回以上の戴冠歴を有するものは、ベッテルを含めて9人いる(下記)。少なくはない印象で、強い者は強い、ということか?

<7回>
ミハエル・シューマッハー(94-95、00-04年)

<5回>
ファン・マヌエル・ファンジオ(51、54-57年)

<4回>
アラン・プロスト(85-86、89、93年)

<3回>
ジャック・ブラバム(59-60、66年)
ジャッキー・スチュワート(69、71、73年)
ニキ・ラウダ(75、77、84年)
ネルソン・ピケSr.(81、83、87年)
アイルトン・セナ(88、90-91年)
セバスチャン・ベッテル(10-12年)


 次に9人それぞれの3冠目獲得年の年齢(獲得年の誕生日を迎えた年齢)と、当時F1デビュー何年目であったかを見てみよう。およその世代順で、カッコ内は3回目の王座獲得年の年齢/参戦年数。

ファンジオ(44歳/6年目)
ブラバム(40歳/12年目)
スチュワート(34歳/9年目)
ラウダ(35歳/14年目)
ピケ(35歳/10年目)
プロスト(34歳/10年目)
セナ(31歳/8年目)
シューマッハー(31歳/10年目)
ベッテル(25歳/6年目)

 時代背景が違い過ぎるファンジオとブラバムをさておけば、34〜35歳で経験年数10年前後というのが過去の3冠達成時の目安で、セナとシューマッハーの31歳というのはかなり若い部類だった(ちなみに31歳同士の比較では、厳密に言うと達成時点ではセナの方がわずかに若い)。アロンソが今年3冠目を獲得していれば31歳/12年目で、やはり“セナシュー”の範疇(彼には07年と10年もチャンスがあったが)。ベッテルの25歳/6年目という若さ/早さの尋常ならざる凄さが、あらためて浮き彫りになってくる。

 3冠獲得者が9人いるのに対し、3連覇経験者は3人しかいない。強い者は強いはずだが、長期連続王座となると極端に難しくなるのがF1の伝統とも言えようか。ただ、ベッテル以前の2名は4連覇のファンジオと5連覇のシューマッハーで、3の壁を超すと一気に超長期政権となるのも特徴。その意味でも来季、2013年のベッテルには大注目だ。
 3連覇達成時の年齢/参戦年数を見てみると、ファンジオは45歳/7年目、シューマッハーは33歳/12年目。ファンジオに関してはやはり時代的に比較不可能だが、シューマッハーと比べても25歳/6年目は異常なほどの超早期達成と評せよう。また、初戴冠からの3連覇達成はベッテルが史上初。

 なんとも惜しいのはアロンソである。07、10、12年と最終戦での逸冠が多い彼だが、07年にタイトルを獲得できていれば26歳/7年目での3冠&3連覇(初戴冠から)と、まさにベッテル級だった。そうなれば、時代の動き方も少し変わっていて、その後のベッテル台頭が遅れていた可能性も? またシューマッハーに関しても、フェラーリ初年度の96年に王座を獲得していれば27歳/6年目での3冠&3連覇(初戴冠から)となっていた。

 最強のレコードブレーカー、セバスチャン・ベッテル。このままいけばシューマッハーの7冠を超えることも夢ではないだろう。その彼が、日本が鈴鹿F1初回開催に沸いていた頃は生後4カ月の赤ん坊だったとは……! とにもかくにも凄い男が出てきたものである。

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