抜かせてから差し返す攻防。鈴鹿で見えた新規則の課題と50Gのベアマンのクラッシュ【中野信治のF1分析/日本GP特別編2】
鈴鹿サーキットで開催された2026年F1第3戦日本GP。3月29日(日)に行われた決勝ではアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)が2戦連続、自身2度目のポール・トゥ・ウインで締めくくりました。
今回は、鈴鹿で増えたオーバーテイクの攻防、オリバー・ベアマン(ハース)のアクシデント、そしてF1開催がない4月について、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点で決勝日を振り返ります。
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大幅な技術規則変更を経て迎えた最初のF1日本GPは、以前よりもたくさんのオーバーテイクを見ることができました。鈴鹿サーキットは2025年までの大柄なF1マシン(注:2026年マシンより幅が100mm広く、ホイールベースは200mm長い)にとってはコース幅が狭く、高速コーナーが多いこともあり、タイム差が2〜3秒あってもオーバーテイクが難しいコースでした。
そのため『小さく、軽く、機敏に』をコンセプトに技術規則変更が行われた2026年のF1マシンで、どれほどオーバーテイクは増えるのかは、興味深いところでした。決勝では例年よりもオーバーテイクの回数が多く、抜きつ抜かれつの攻防を何度も観れるのは、私を含む観戦者にとってはポジティブな部分でした。
オーバーテイクが増えた最大の要因は、オーバーテイクモード(前走車の1秒以内に入ると使える0.5MJの追加電気エネルギー)の戦略的な駆け引きでした。スプーンカーブ(ターン14)立ち上がりからオーバーテイクモードで電気エネルギーの残量が無くなるまで使用し、最終のシケインへのブレーキングでインを刺す。ただ、シケインで前に出てしまうと、今度はホームストレートで逆にオーバーテイクモードを使用されて、抜き返されてしまうというシーンがたびたび観られました。
こういう状況になると、ドライバーの腕やテクニックではポジションを守ることはできません。電気エネルギーの残量がゼロになり、スーパークリッピング状態(内燃機関の出力で充電すること/出力が回生に回されるので車速は通常時よりも落ちる)になるとどうしようもなくなります。
オーバーテイクを仕掛けたいドライバーは、相手がスーパークリッピング状態に陥るタイミングでしっかりと自分がオーバーテイクモードを使えるようにエネルギーマネジメント(電気エネルギー残量を残しておく)するのが鉄則です。逆に、オーバーテイクを狙われるドライバーは、一度抜かれてからエネルギーマネジメントで抜き返す、というシンプルな対応でポジションを守るのが実は最も効果的な防衛策でした。電気エネルギーを使えば、使った分どこかで『使えない&充電するタイミング』が生まれます。
電気エネルギーを使うには、そもそも電気エネルギーを蓄えなければいけません。エネルギーマネジメントに関しては、もっと細かなテクニックを積み重ねて、ライバルよりも早く、より多く充電することも可能です。ほんの一瞬でも長い時間電気エネルギーを使ってオーバーテイクしたり、もしくはポジションを守るという駆け引きは、今後も見られるでしょうね。やはり今季の勝負の鍵はエネルギーマネジメントですが、それがすべてではありません。

たとえば、決勝序盤にオスカー・ピアストリ(マクラーレン)が首位、4周目にジョージ・ラッセル(メルセデス)が2番手に浮上し、そこからメルセデス・パワーユニット(PU)の2台が接近戦を演じました。同じメルセデスPUを使い、電気エネルギーの使い方にしてお互いの事情を分かった上でのバトルとなるなか、ピアストリは冷静にラッセルを抑え続けることが叶いました。あのピアストリのディフェンスぶりは非常に上手いと感じて見ていました。
ピアストリは、エネルギーマネジメントを活用してラッセルを抑えつつ、彼に必要以上にタイヤを使わせることで、徐々にラッセルの勢いを削ぎ、ファーストスティント(スタートから最初のタイヤ交換まで/ピアストリの場合は19周目まで)の間首位を守り切りました。エネルギーマネジメントは駆け引きの中で重要です。ただそれだけではなく、前半にピアストリが見せたようなブロックラインや相手にタイヤを使わせる走りといった、これまでのF1と変わらないテクニックを組み合わせた新しい戦い方が求められます。なかでも、ピアストリはいち早く新しい戦い方に順応していたので、今後の戦いぶりが楽しみな存在です。