アストンマーティンのニューウェイ、パワーユニット問題強調の狙いは、FIAの特例措置か。救済制度『ADUO』の適用を促す意図
アストンマーティンとチーム代表エイドリアン・ニューウェイは、パワーユニット(PU)パートナーのホンダが現在直面している苦境を可能な限りドラマチックに演出しているようだ。その狙いは、2026年に新たに導入されたパワーユニット性能均衡化システム『ADUO/Additional Development Upgrade Opportunities(追加開発アップグレードの機会)』の適用をFIAに促すためなのではないかという説がささやかれている。
2026年、F1に新たな技術レギュレーションが導入され、マシンもパワーユニットも一新された。現在はパワーユニットに関しても予算上限が定められており、テストベンチの使用時間にも制限がある。そのなかで、大きく出遅れたマニュファクチャラーがいた場合、競争力を取り戻すための機会を与えるため、『ADUO』システムが導入された。
FIAは、6戦ごとに各マニュファクチャラーの状況を分析し、『ADUO』の適用が認められたマニュファクチャラーは、規則で認められた以上のアップグレードが可能になり、テストベンチの使用時間も延長される。
ニューウェイ率いるアストンマーティンは、FIAが、可能であれば規定より早く、直ちに『ADUO』をホンダに適用するよう説得するため、ホンダの抱えている問題を公にしているとの見方が出てきている。

デザイナーであるニューウェイは、公の場で発言することを嫌い、インタビューや記者会見に参加することもほとんどなかった。そのニューウェイがオーストラリアGPの週末に、あらゆる機会を利用して自身の主張を展開したことに、誰もが驚いた。
メルボルンで、プラクティスの前にニューウェイは、「我々のシャシーは5番目に速い」として、パワーユニットについては、ICE(内燃機関)の出力不足を示唆するとともに、エンジンの振動の問題についても詳しく明かした。また、振動がドライバーの健康状態に影響するとまで発言している。
さらにニューウェイは、事実と整合しない発言も行った。FIA公式記者会見において「ワークス契約を結んだ時点で、アストンマーティンはホンダ側の経験不足を認識していたのか」と質問がなされた時、ニューウェイは、こう答えた。
「いや、認識していなかった。私たちがその事実を本当に知ったのは、昨年11月のことだ。「ローレンス(・ストロール/オーナー)、アンディ・コーウェル(チーフストラテジーオフィサー)、そして私の3人で東京に行き、彼らが当初目標としていた出力を開幕戦までに達成できないのではないかという噂について話し合った。その際に、再始動した時に以前のスタッフの多くが戻ってきていないという事実が明らかになった」

ホンダは、2021年限りでF1活動を終了、2026年に活動を再開した。そのため、2026年に向けて、F1プロジェクトをゼロから再構築せざるを得なかったことは、公然の事実だった。
ホンダのF1部門は2022年夏までにほぼ完全に解体されていた。前世代パワーユニットの最終ホモロゲーションが完了した後、プログラムに残ったのはレッドブルとレーシングブルズが使用するPUのメンテナンス担当技術者だけであり、それ以外の人員は電気自動車開発等へ移された。
その後2023年5月、ホンダがアストンマーティンとのパートナーとしてF1に残ることを発表すると、プログラムの管理陣は旧メンバーの再招集を試みた。市販車部門の責任者たちが貴重なF1経験を持つエンジニアを失うことを望まないなか、2021年までホンダF1のテクニカルディレクターを務めた田辺豊治氏の協力により優秀なエンジニアをひとりずつ呼び戻すという状況が続き、ホンダがライバルと同じペースで開発を進められる体制になったのは、それから約1年後のことだと考えられている。
アストンマーティンの代表団が毎月のようにHRC Sakuraを訪問していたことを考えると、チームが状況を把握したのが昨年の11月だったという主張は理解しがたい。パドックでは、『ADUO』の早期適用など、何らかの優遇措置を得るために、ニューウェイが問題をあえて誇張しているという見方が出てきている。

だが、FIAの特例に、他マニュファクチャラーが同意する可能性は低いだろう。あるチーム代表はメルボルンで次のように語った。
「2015年と2016年、ホンダが苦しんでいた時、我々は彼らに協力することで合意した。その後、彼らは4年連続でチャンピオンを獲得した。だから同じことはもうしない。2028年や2029年に彼らがタイトルを取る手助けなどしたくはないからだ」
「ルールは全員に同じように適用される。だから我々は、他より効率的であり続ける必要がある」