後半戦に固まりがちな若手起用。平川のスムーズなやり取りは「改善の流れを把握している」ことの賜物【ルーキー・フォーカス】
F1は、2025年シーズンからフリー走行1回目における新人ドライバーの起用義務を倍増した。スポーティングレギュレーションによって、いずれのチームも1台につきシーズン中2回、グランプリ出走経験が2戦以下のドライバーにフリー走行1回目(FP1)のシートを与えることを義務付けている。
とはいえ、最近は市街地コースが増え、新人にステアリングを託すことは簡単ではない。スプリント・フォーマットの週末はフリー走行が1回しかないことや、今シーズンは中団グループの争いが厳しかったこともあり、なかなかフリー走行に新人を起用するのが難しかった。そのため、レギュレーションで定められている新人ドライバーの起用がシーズン終盤に固まった。
第20戦メキシコシティGPでは、史上最多となる9名の新人ドライバーがFP1に参加。最終戦アブダビGPでも、メキシコシティGPと同様、9名の新人たちがレギュラードライバーに代わって出走した。
そのなかには、アブダビGP開幕前に2026年のレギュラーシートを獲得したアービッド・リンドブラッドも含まれていた。リンドブラッドは2026年にデビューするレーシングブルズではなく、レッドブルの角田裕毅のマシンに乗り込んでいた。メキシコシティGPでは最新のフロアが搭載されていたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)のマシンに乗り、マシンにダメージを与えることなく、角田を上回る6番手のタイムをマークしたリンドブラッド。このアブダビGPでも安定した走りを披露し、2番手タイムのフェルスタッペンから0.763秒差の15番手タイムをマークした。

レーシングブルズのマシンを走らせたのは、11月の全日本スーパーフォーミュラ選手権の最終戦で大逆転でタイトルを奪取した岩佐歩夢だった。スーパーフォーミュラの新王者として臨んだFP1はリアム・ローソンのマシンをドライブ。本来ローソンが行うメニューをしっかりこなして、ローソンにバトンを渡した。


そのリンドブラッド、岩佐を上回り、9名の新人枠のなかで最速タイムを叩き出したのが、ハースのマシンを走らせた平川亮だった。1チーム4回(1台につき2回ずつ)ある新人ドライバー枠ですべてに起用され、第3戦日本GPでのアルピーヌを含めると、今シーズンの新人ドライバー枠のなかで最多となる年間5回FP1に参加した。
最後のFP1では、今年ずっと抱えていた課題を克服した。
「今年、一番の課題はブレーキでした。鈴鹿でアルピーヌを走らせた1週間後にバーレーンGPでハースのクルマに乗って、全然ブレーキが違ったフィーリングで、バーレーンでは1時間のセッションのなかでそれに対応できませんでした。それに対応しようと、スペインGPやメキシコシティGPのFP1では違うアプローチで臨んだのですが、両方ともうまくいきませんでした。今回は過去2回の走行を元にベストなものを使用したら、コースインしてすぐよくなっていることがわかりました」
そう平川は振り返った。
ハースはエステバン・オコンがブレーキに問題を抱えていて、アブダビGPでいろいろなことを試すと言っていた。平川が使用したブレーキがまさにそうだった。
「違う素材のブレーキを試してみて、ショートランではよかったのですが、ロングランは課題が残りました。その素材はアブダビGP前にもオコン選手が使っていて、やっぱり課題を抱えていたようなので、まだレースに投入するには早いという感じです」
一方、FP1で8番手だったベアマンにはそのような症状は出ていなかった。
「オリー(ベアマンの愛称)はどんなクルマでも乗りこなしちゃうというイメージを持っていて、ブレーキのことは気にしていないんじゃないかと勝手に思っています」(平川)
平川がマークした1分24秒934は、新人枠の中で最速であると同時に、チームメートのオリバー・ベアマンの1分24秒759からわずか0.175秒落ち。この差を平川はどのようにとらえているのだろうか。
「(アタックした)タイムはどちらも完璧ではなかったので、その(ベアマンのベスト)タイムは出せたと思います。ただ、ハードタイヤもミディアムタイヤも(チームメイト)だいたい同じタイムで推移していたことはよかったと思います」

FP1では平川がエンジニアとスムーズにコミュニケーションをとっていたのも印象的だった。
「(秘訣は)特にないです。そもそも僕はWEC(世界耐久選手権)をやっています。それとTPCでハースのスタッフと一緒に仕事をして、エンジニアがどんなフィードバックを必要としているのかがわかっていたことがよかったんだと思います。さらにリザーブで帯同しているので、チームがどこを改善しようとしているのかという流れを把握していたこともそうです」
平川と岩佐の2026年に関する正式な発表は、まだない。角田がレギュラードライバーのシートを失っただけに、最もF1に近い存在となっている平川の動向は岩佐同様、日本の多くのファンが注目していることだろう。
