アストンマーティンの最新書類に見えるストロール家のビジネス。息子ランスはトレーナーらへの支払いも含め約19億円の報酬
F1ドライバーの年俸はフォートノックスよりも厳重に管理されているが、アストンマーティンの最新の提出資料により、ランス・ストロールがその努力に対していくらの報酬を受け取っているかある程度明らかになった。
書類の奥深くに埋もれていたが、アストンマーティンは、ストロールのレース活動を運営するゴールデン・イーグル・レーシング社に2024年は1230万ドル(約18億9300万円)を支払ったことが明らかになった。この額は、前年の比較的控えめな560万ドル(約8億6200万円)から増加している。
一見すると、ストロールは120%の昇給を受けたように見える。しかし、彼が緑色のドル札のプールに飛び込む姿を想像する前に、その数字には“サービスの提供”も含まれていることに注目すべきだ。つまり、この一括払い金はストロールのドライビング時間だけでなく、トレーナーや理学療法士、また、その他の雑費にも充てられているということだ。たとえその1230万ドルがすべて手取りの現金ではないとしても、チームオーナーの息子にとっては目立った増加となる。

このめったにない舞台裏を覗くことができたのは、関連当事者の開示という非常に特別なルールがあるからだ。父親がチームオーナー、つまり今回の場合はローレンス・ストロール(法的には『L.S.ストルロヴィチ』と表記)であり、彼が息子の小切手に署名する場合、監査人は多少の明確化を要求する。
この義務的な洞察によって、奇妙な内部ループも明らかになった。アストンマーティンがストロールの会社に数百万ドル(約数億円)を支払う一方で、ゴールデン・イーグル・レーシング社もスポンサー料として50万ドル(約7700万円)をアストンマーティンに送金しているのだ。これは経験豊富なCFO(チーフフィナンシャルオフィサー/最高財務責任者)でさえも思わずまばたきしてしまうような、会計上のウロボロスだ。ドライバーの給料、スポンサー契約、家族の役員会議など、お金は完璧な循環を描いて回っているように見える。そして、それがたまたまランスのデスクにきちんと収まっているのだ。

2度のチャンピオンに輝いたチームメイトのフェルナンド・アロンソは、幹部と親しい関係にないため、同様の暴露ドラマを回避している。彼の給料は謎に包まれているが、さらにゼロが多く、補足説明が減っていると思われる。
1200万ドル(約18億4700万円)と安定した地位だけでは不十分であるかのように、提出書類には、ささやかだが魅力的な特典も記載されている。ストロールとアロンソの両名とも、契約期間中はアストンマーティンの社用車を1台無料で受け取るのだ。それが洗練されたDB12を意味するのか、それとも毎週の『Tesco』での買い物のためもう少し実用的なものを意味するのかは不明だが、いずれにせよ、我々のほとんどが手に入れるような企業のボールペンよりはましなものだろう。
また、このような特典がプレスリリースではなく補足説明に隠されているというのは、イギリスらしい控えめな表現として面白いことだ。

では、1230万ドルの“ドライバーサービス料”は、ストロールをライバルたちと比べてどのような位置に立たせることになるのだろうか? 財政的にはおそらく中団グループだろうが、スポーツ界の強豪と比べるとかなり下だ。
F1の賃金戦争は、ささやき声、ボーナス、カスタムメイドの構造が入り混じる荒野であり、“給料”は基本給から“出勤して笑顔を見せる”というインセンティブまで、あらゆるものを意味する。チームの首脳陣以外、そしておそらく家族の夕食のテーブル以外では、誰もランスが個人的にいくら懐に入れているか正確には知らない。結局のところアストンマーティンがストロールの給与を明らかにしたのは偶然ではなく、会計上の必要性によるものだった。
とはいえ、これはファンにとっても評論家にとっても、契約が持株会社、秘密保持契約、そして時折の家族のつながりの背後に隠れている現代のF1における、奇妙な経済を垣間見る貴重な機会だ。ひとつ確かなことは、F1では縁故主義はポールポジションを保証するものではない。しかし、結果が示唆するよりも確実によい報酬を得られるということだ。