入賞を争える実力が結果に繋がらず。ハジャーは“たられば”だらけ、ローソンはあらぬ批判で散々な週末に/レーシングブルズコラム
レーシングブルズはF1第17戦アゼルバイジャンGPの好走から一転、3戦連続でノーポイントのレースとなった。それも競争力が足りないことが原因ではなく、競争力を結果に結びつけられない不完全燃焼のレースが続いてしまった。
第19戦アメリカGPではアイザック・ハジャーが予選で大きなクラッシュを喫し、流れが完全に悪い方向に行ってしまった。
「予選でアタックできなかったのは残念だった。金曜に速さがなくていろいろと試した結果、それがどう改善できていたのか確認したかったんだけどね。そうはいっても、オースティンでは最高の競争力があったとは言い難かったし、全体的にライドには苦しんだ。そういった技術的な理解をあまり深められないまま終わってしまったんだ」
バンピーかつ高速コーナーでの縁石の乗り越えが必要なサーキット・オブ・ジ・アメリカズでは、脚回りのセッティングをFP1で決め切れず、スプリントでは苦戦を強いられた。そこからセッティング変更を施して臨んだ予選でのいきなりのクラッシュだった。

第15戦オランダGPからハジャーのマシンに続いていたパワーユニット(PU)の細かなトラブルについても、対策をして臨んだもののFP1では再び発生してしまった。チーフエンジニアのマティア・スピニは、アメリカGPに向けた対策をこう説明していた。
「かなり複雑な問題で、ベンチテストでは再現が難しい問題だ。しかし原因となっている事象はわかっているし、それを解決するために今週末に向けてはPU側だけでなく車体側も含めて様々な変更を施してきた。解決できていると自信を持っているよ」
ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーは、アメリカGPのトラブルについては「前回とは別の問題だろうと考えていて、詳細は言えませんが原因はわかっていますので、それに対してもすでに対応をして直っています。あのPU固有の問題です」と、車体側のパーツや運用に問題があったことを示唆している。

リアム・ローソンは競争力があったものの、レース全体に渡ってフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)に抑え込まれて本来の走りをできないまま11位でレースを終えた。そして毎年得意としているはずのメキシコシティGPでも予想外の苦戦を強いられた。
「今年はタイヤアロケーションが違うしここはトラックエボリューションが大きいだけに、フリー走行でどのタイヤを使うかがクリティカルになる。C2(ハード)タイヤがどんな反応を示すのか、かなりのクエスチョンマークだしね。もしオースティンのような状況だったら、僕らはもっとスマートにやる必要がある」
ハジャーはメキシコシティGPのレース週末を迎えるにあたってそう語っていたが、その言葉通りFP2にハードを温存して2台でハードタイヤとソフトタイヤのロングラン比較を行い、ハードが厳しいことは確実に把握してミディアム〜ソフトの1ストップ作戦を選択した。
8番グリッドからターン1〜3ではポジションをキープしたものの、ターン6でアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)のアウト側に並びかけようとして押し出され、インに飛び込んで来た角田裕毅(レッドブル)に先行を許してしまった。さらにオスカー・ピアストリ(マクラーレン)とエステバン・オコン(ハース)にも抜かれ、一気に11位まで後退。これがハジャーにとって、大きな運命の分かれ目になってしまった。
「戦略的には問題なかったと思うけど、僕は1周目にミスを犯してしまった。あれがなければ、これがああだったら、っていうタラレバだらけのレースだったよ」
しかしQ3に進出したハジャーは新品のソフトタイヤが残っておらず、第2スティントも新品ソフトを持つ角田裕毅やガブリエウ・ボルトレート(キック・ザウバー)に対して劣勢に立たされ、先にデグラデーションが進んで抜かれてしまった。
8番手からスタートして1周目でそのポジションを守っていれば、多少のデグラデーションはあっても入賞圏に留まることは可能だったかもしれない。すべてが噛み合わないレースだった。
「ポイントが獲れなかったことにフラストレーションを感じる。キツかったよ。僕らは新品タイヤが無かったし、その差が痛かった。タイヤがどんどんタレていって後続勢がペース的に有利な状況ではどうすることもできない」

ローソンはターン1でカルロス・サインツ(ウイリアムズ)にぶつけられ、ダメージがフロアの広範囲に及んでいたためリタイアを余儀なくされた。
「とてもいいスタートが切れて、アウト側にスペースがあったからそこに飛び込んだ。多くのマシンが滑っていたからカルロスに対して充分にスペースを残したんだけど、彼はシケインをカットしようと思ったのかまったくこちらを見ずに左に急に進路変更してきたんだ。最悪だよ。あれでマシンの側面が完全にダメージを負ってしまってリタイアせざるを得なくなってしまったんだ」
ローソンは無謀な動きを見せたサインツに対して厳しい目を向けた。ローソンとしてはそれ以上にやれることはなかった。
「意図的にやったわけではないということはわかるけど、周りを確認せずにシケインをカットしようとするべきじゃない。かなりハードにヒットして、右側のフロア全体とフロントウイングを壊し、僕のレースをあっという間に終わりにしたんだ」

しかも一度ピットに戻ってフロントウイングを交換し走れるか確認しようとコースへ戻ったところ、ターン1のコース上でふたりのマーシャルに出くわしあわやという場面を味わうことになってしまった。
スタート直後ということで次に集団がやってくるまで1分以上あるため、マーシャルがコース上のデブリを拾う作業がレースコントロールからの指示の下で行われたが、ローソンがピットインしていることが見落とされていたのだ。そのためレースコントロールが想定していない、本来マシンが通過するはずのないタイミングでローソンのマシンがターン1にやってくることになってしまった。
本来はマーシャルがコースサイドに出る場合はバーチャルセーフティカー(VSC)、コース上に出る場合はセーフティカーを出すというのがF1のレース運営手順であり、ダブルイエローで注意が促されているとはいえマーシャルがコース上に出ているわけがないのがF1の運営だ。
「自分の目を疑ったよ。ピットインしてターン1に入っていったら、ふたりのマーシャルがコースを走って渡っていたんだ。もう少しで彼らを轢いてしまうところだった。もちろんものすごく危険だったし、どうしてライブトラックにマーシャルが立ち入ることになったのかまったく理解できない。どこかにミスコミュニケーションがあったんだろうけど、あんなことは今まで一度も経験したことがないし、見たこともない。本当に許容不可能だよ」

地元メキシコの自動車団体がマーシャルを擁護するだけでなく、本来はFIAのレースディレクターに向けるべき責任追及の矛先をローソンに向けた声明を出したせいで、ローソンにとってはあらぬ批判を受けることになってしまったが、完全なる被害者だ。
しかしローソンもサインツとの接触でレースを失ったことに変わりはなく、レーシングブルズは入賞を争う力がありながらもそれを結果に繋げられないレースが3戦続いてしまった。
ウイリアムズとのコンストラクターズランキング5位争いどころか、7位のアストンマーティンとは3点差、今回大量得点のハースとは10点差、そしてザウバーとも12点差でランキング9位まで転落の可能性も充分にあり得る僅差となりつつある。ランキング6位堅守のため、ここでいま一度気を引き締め直す必要がある。
