従来型のウイングで走行、ひとつ前の型は“スペアのスペア”に。SQ1敗退もチームは速さを評価【角田裕毅F1第19戦展望】
2025年F1第19戦アメリカGP開幕前日の木曜日にパドックで、角田裕毅(レッドブル)のレースエンジニアを務めるリチャード・ウッドに、週末に角田のマシンに装着されるフロントウイングのスペックについて尋ねた。というのも、前戦シンガポールGPではチームメイトのマックス・フェルスタッペンがアップデートされた最新のフロントウイングを使用していたのに対して、角田は従来型を使用していたからだ。
レッドブルのジャンピエロ・ランビアーゼ (ヘッド・オブ・レーシング)はその理由を「ふたりのスペアを製造する時間的な余裕がなかった」と説明し、「次のアメリカGPまでに間に合えば、ユウキにも新しいフロントウイングが用意されるかもしれない」と語っていた。
しかし、なんらかの理由で、このアメリカGPも角田は従来型のフロントウイングを使用することとなった。新旧のスペックの差について、角田はこう語っている。
「理論上はそれほど大きな差はないのですが、新しい仕様はシンガポールで僕が抱えていた領域で、確実にパフォーマンスアップが期待できるので、決して過小評価はできません」
もちろん、チャンピオンシップの可能性が残っているフェルスタッペンを、チームが優先することは理解できる。またバジェットキャップ制度があるなかで、リソースをフェルスタッペンに集中することも当然だろう。
ただし、ひとつだけ疑問も残る。それは、角田がシンガポールGPとアメリカGPで使用しているフロントウイングがかなり前の旧式だということだ。
レッドブルのフロントウイングについて、ここ数戦のスペックを整理しよう。レッドブルは夏休み前の最後の1戦となったハンガリーGPにフェルスタッペンにだけアップデートされたフロントウイングを投入した。しかし、ハンガリー・スペックのフロントウイングは機能せず、金曜日のフリー走行後にイギリスGPまで使用していた旧式に戻していた。
ハンガリー・スペックの反省を元に、レッドブルは夏休み前後に新しいフロントウイングを設計・製作。それをオランダGPに投入。このときはフェルスタッペンだけでなく、角田も同様のオランダ・スペックのフロントウイングを使用した。
イタリアGPとアゼルバイジャンGPはコース特性が異なることから別のスペックを使用したレッドブルは、シンガポールGPにオランダ・スペックをモディファイしたシンガポール・スペックをフェルスタッペンにだけ用意した。そして、そのシンガポール・スペックを今回のアメリカGPでもフェルスタッペンだけが使用している。これに対して、シンガポールGPとアメリカGPで角田のマシンに装着されているフロントウイングは、もちろんシンガポール・スペックでなければ、そのひとつスペックダウンとなるオランダ・スペックでもなく、イギリスGPまで使用していた旧式だった。
失敗作となったハンガリー・スペックを含めると、角田は3スペックダウンのフロントウイングを使用していることになる。シンガポール・スペックが足りないのは理解できる。しかし、オランダGPで角田も使用したオランダ・スペックはいったいどこへ行ったのか? ウッドはこう説明する。
「シンガポールは市街地なので、スペアのスペアも準備しなければならないんだ」
つまり、角田のオランダ・スペックはフェルスタッペンのスペア(シンガポール・スペック)のスペアに回されていたと考えられる。さらにアメリカGPはスプリント・フォーマットのため、スプリント用のスペアとレース用のスペアが必要なため、状況はシンガポールGPと同じとなり、角田のオランダ・スペックがフェルスタッペンのスペアのスペアに回されたと考えられる。
そのような状況のなかで迎えたアメリカGP初日のスプリント予選。角田は1回目のアタックのターン1で挙動を乱し、14番手に終わる。SQ2進出を賭けて臨んだ2回目のアタック。角田がガレージを出た直後にライバル勢も続々とピットアウトし、アウトラップは大渋滞。そのため、角田がアウトラップを終えて、アタックしようとコントロールラインを通過したときには、すでにチェッカーフラッグが振られてしまった。アタックできずに自己ベストを更新できなかった角田は18番手に沈んだ。
チームメイトのフェルスタッペンがポールポジションを獲得したのとは、あまりに対照的な結果に終わった角田だが、テクニカルディレクターのピエール・ワシェは初日の角田をこう評した。
「スプリント・フォーマットでフリー走行が1回しかなかったので、FP1では2台のマシンで異なるセットアップをテストし、ユウキのセットアップがやや優れていると判明した。そのセットアップは、高速コーナーで発生するボトムアウトを軽減し、低速域での性能を損なうことなくマシン全体のパフォーマンス向上を実現していた。2回目のアタックをやれていれば、間違いなくSQ2に進出できていただけに残念だった。どうしてこうなったのか再検討しなければならない」
アゼルバイジャンGP以降、なかなか思うような結果が残せていない角田だが、状況は少なくとも現場のエンジニアたちは理解している。それをヘルムート・マルコ(モータースポーツアドバイザー)も共有していると信じたい。