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王者フェルスタッペンの戦い:マシンの進化だけでなく、週末のアプローチの変化で確かな手ごたえ
F1第18戦シンガポールGPでは2位に終わったマックス・フェルスタッペン。優勝には届かなかったが苦手としていたサーキットでの2位はマシンの進化を感じさせた。。F1スイス在住のF1ジャーナリスト、マチアス・ブルナーがシンガポールGPの週末を語る。
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マックス・フェルスタッペンにとって、シンガポールは唯一の「未征服地」である。2025年のカレンダーのうち、彼がまだ勝ったことがないコースはマリーナベイ・ストリート・サーキットだけなのだ。今年もまた、マックスはシンガポールGPをジョージ・ラッセルに次ぐ2位で終えた。ここでの2位フィニッシュは、2018年、2024年に続いて3度目だった。
先日28歳になったばかりのフェルスタッペンは、最高の気分でシンガポールに到着した。モンツァでポールから優勝し、バクーでも同じことを成し遂げただけでなく、グリーンヘル(緑の地獄)の異名を取るニュルブルクリンクで、GT3マシンでのデビュー戦も制していたからだ。
■regist■それでもなお、彼はシンガポールでの勝利の可能性については悲観的だった。「過去数年間、僕らはこのサーキットを苦手としてきた。タイトなターンが多く、路面はバンピーで、縁石に乗った時のクルマの挙動にいつも苦しめられてきたからだ」
しかし、このところレッドブル・レーシングは、RB21を確実に進化させてきた。また、グランプリの週末への取り組み方も変えている。
マックスは言う。「最近では、金曜の走り始めのかなり早い段階から、いいパフォーマンスを引き出せている。それはシンガポールでも同様だった。クルマの初期セットアップがいい感じで、その後は細かい部分のファインチューニングに専念できるんだ。そうした部分では、間違いなく良くなってきた」
レッドブルのチームボス、ローレン・メキースは、こう語っている。「アプローチを少し変えたんだ。シミュレーションへの依存度を減らし、エンジニアたちの判断を重視している。これが進むべき正しい道だ」
ポールポジションこそラッセルに譲ったものの、フェルスタッペンは予選2位の好位置を得た。ここ何年か、シンガポールでは苦戦が続いていたことを考えれば満足できる結果だった。だが、彼は同時にある出来事に怒ってもいた。マックスが勝負をかけた最後のアタックラップの最終盤で、ほかでもないランド・ノリスが彼の前方でスロー走行をしていたのだ。
それが妨害行為とは見なされないのは明らかだったが、マックスは確実にその影響を受けたと言っている。「ダーティエアの影響を受けないようにするには、前のクルマとの間に3秒のギャップが必要なんだ。僕はグリップを失うのをはっきりと感じた。このことはしっかり憶えておくよ」
そして、彼は日曜のレースでその借りを返した。完璧なドライブをしたラッセルには手も足も出なかったものの、ノリスを最後まで背後に抑え込んで、2位でフィニッシュを迎えたのである。
ウィナーのラッセルは、レースのスタートをこう振り返った。「直前にミラーをチェックしたところ、マックスがスタートタイヤにソフトを選んでいるのが見えた。グリッドからの発進ではソフトの方がグリップが高い。僕はちょっと心配になった。ここではオーバーテイクがどれほど難しいか、誰もがよく知っている。もしスタート直後にマックスに前に出られてしまったら、そのまま彼が勝つだろうなと思った」
だが、ラッセルは付け入る隙のないスタートを決めた。フェルスタッペンは言う。「結局のところ、目論見どおりにはならなかった。それに加えて、決して楽なレースではなかったしね。そう考えると、2位なら上出来だよ」
「クルマの挙動が昨日までとは違って、あまり良くなかった。ちょっと不思議な現象で、よく調べ直す必要がある。最大の問題はアップシフトとダウンシフトだった。システムの動作が少しおかしくて、ブレーキングでクルマが強く押されてしまうんだ。こういうストリートサーキットでは、絶対に起きてほしくないことだ」
レース後のマックスは、見るからに疲れ切っていた。そんな過酷な戦いの末に、彼はF1で通算121回目のポディウムフィニッシュを手にしたのである。