主張が食い違うマクラーレンとパロウ。契約違反をめぐる裁判が開始、元F1チーム代表らが証人に
マクラーレンと、NTTインディカー・シリーズのチャンピオンであるアレックス・パロウとの契約をめぐる争いが、月曜日にロンドンの高等法院で始まった。パロウの雇用をめぐる主導権争いとして始まったこの一件は、数百万ドル(約数億円)規模の訴訟にまでエスカレートしており、今後ドライバーとチームがシリーズをまたいだ契約を扱う方法に変化をもたらす可能性がある。
争点は何か? 2000万ドル(約29億5700万円)の契約違反をめぐる、マクラーレンとパロウの間の激しい対決、そしてチームの損害賠償請求額が法的に正当なものであるかということだ。
マクラーレンのパロウに対する取り組みは、最初から混乱を極めていた。チームは2022年にチップ・ガナッシ・レーシングからパロウを引き抜こうとしたが、チップ・ガナッシはパロウをもう1年間引き留めるオプションを行使した。調停が続き、パロウは修正された契約条件の下で2023年も同チームに残留することになり、シーズン終了後に退団する自由が与えられた。
これがマクラーレンの2度目のアプローチのきっかけとなった。パロウは2022年10月、自身の知名度を活かすプロモーション契約とともに、2024年から2026年までアロー・マクラーレンに所属する契約を締結した。契約を有利に進めるため、マクラーレンは彼をF1のオペレーションに組み入れ、リザーブドライバーに任命し、F1テスト参加の機会を複数回与えた。40万ドル(約5900万円)の契約金が、芽生えた関係を確定させたのだった。
しかし、マクラーレンの将来の見通しは悪化した。パロウはチップ・ガナッシとともに2023年のインディカーシーズンを席巻し、2度目のタイトルを獲得。彼は最終的にマクラーレンへの移籍ではなくチップ・ガナッシへの残留を選択した。2023年8月には、パロウの弁護士がマクラーレン・レーシングのCEOを務めるザク・ブラウンのチームに対し、パロウがチップ・ガナッシと2026年までの新たな契約を結んだことを伝えた。それはまさに、パロウがパパイヤオレンジを身に付ける予定だった時期と同じだった。
マクラーレンは、パロウの方針転換が莫大な経済的損害を引き起こしたと主張し、速やかに訴訟を起こした。当初の請求額は3000万ドル(約44億3700万円)を超えていたが、その後約2500万ドル(約36億9700万円)に修正された。チームは、スポンサー収入の減少、メーカーのサポートの縮小、代替ドライバーの給与コストの高騰、無駄になった40万ドル(約5900万円)のボーナス、F1テスト関係の経費に関連した損失を主張している。
一方パロウの弁護団はマクラーレンの評価に異議を唱え、それは誇張された憶測にもとづくものだと主張している。彼の弁護団は、この訴訟を壊滅的な経済的損害ではなく、契約上の不履行の訴訟として位置づけ、損害賠償額をはるかに低い額に減額すべきだと裁判官を説得したいと考えている。
双方とも有力者の証言に頼ることになるだろう。『RACER』のマーシャル・プルエット記者の報道によると、アルピーヌF1の元チーム代表であるオットマー・サフナウアーと、ウイリアムズF1の元チーム副代表であるクレア・ウイリアムズが専門家証人として証言する予定で、ドライバーのマネージャーであるジュリアン・ヤコビとベテランのレーシングエグゼクティブのブライアン・マークスが、インディカー側として発言することになるという。
裁判は数週間続くと予想されている。最初の1週間は本件の提示に重点が置かれ、2週間目は専門家の証言に充てられる予定だ。スケジュール上の問題により、判事は第3週に審理を一時停止して他の事件を処理する可能性があり、最終判決はさらに先延ばしになる見込みがある。判決は今年の後半に出るだろうが、最悪のシナリオでは2026年まで延びる可能性がある。
マクラーレンにとって、この訴訟は大きな意味を持つ。この訴訟は、金銭的損失の回復だけでなく、競合するチャンスを巧みに操るスタードライバーを、チームが管理する前例を作ることにも繋がるからだ。一方でパロウにとっては、チップ・ガナッシで成功を続け、経歴にさらに多くの肩書きを加えてきたところで、自身の財政と評判の両方を守ることが重要だ。
「今年中に終わるのはよいことだ」と、パロウは最近『Fox Sports』に語った。
「そして、すべてがどう展開するか、どう進むかは、もちろんわからない」
「法廷に立つのは初めてなので、何が起こるのまったくわからない。でも、久しぶりにこのドラマのないクリスマスを過ごせるのでうれしいよ」
ひとつ明らかなことは、かつて約束と野心の上に築かれた関係が、劇的な形で崩壊したということだろう。高等法院は今後、パロウの心変わりがどれほどの代償を伴うことになるかを判断することになる。