【角田裕毅を海外F1解説者が斬る】レッドブルが望むドライバー像を体現。来季への希望につながるか
F1での5年目に突入した角田裕毅は、2025年第3戦からレッドブル・レーシングのドライバーとして新たなチャレンジをスタートした。元ドライバーでその後コメンテーターとしても活躍したハービー・ジョンストン氏が、角田の戦いについて考察する。今回はアゼルバイジャンGPの週末を中心に振り返る。
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角田裕毅にとって、ローレン・メキースは幸運の使者なのではないだろうか。角田はモーターホームにある自分の小部屋に、メキースの写真を隠し持っていて、マシンに乗り込む前には、キスしていたりして。
もちろん、物事は常に白黒はっきりしているわけではなく、ある結果がひとつの理由だけで起こるものでもない。それでも角田のパフォーマンス向上が、レッドブルがファクトリーでも現場でも運営の仕方を変えたことと結びつけて考えるのは自然なことだ。
ミルトン・キーンズの状況は確実に変わった。明らかに良い方向への変化が起きたのだ。マックス・フェルスタッペンが連勝したのは、2024年6月以来のことだったし、レッドブル2台ともがトップ6でフィニッシュしたのは、昨年のオランダGP以来のことだった。
1年以上が経過し、レッドブルが再び頂点に返り咲いたのは、偶然ではない。メキースの采配により、ドライバーたちはRB21をうまく扱えるようになってきた。そしてそのタイミングは若き角田にとってこれ以上なく好都合だった。
私は以前、クリスチャン・ホーナーの退任とメキースの加入が角田に有利に働くと述べた。ホーナーの考え方では、レッドブルが高い競争力を持つ理由は彼自身のおかげだった。そして、物事がうまくいかなくなった時に、自分のやり方が悪いとは一切考えなかった。
今のF1界での傾向では、エンジニアがチーム代表を務めることがプラスになっている。ただし、当然のことながら、チームの財務面、スポンサーやパートナー、F1やFIAとの関係を管理する人物が別に存在しなければならないが。
ファクトリーとレースチームをチーム代表が一手にまとめて管理しているのは、マクラーレン、フェラーリ、ウイリアムズ、アストンマーティン、レーシングブルズ、そしてハースであり、彼らにとってその体制は確実に成果を生んでいる。そして、メキースが率いてからのわずか2カ月余りでレッドブルが進歩を見せた理由のひとつは、彼がファクトリーとレースチームの両方をうまく動かしていることだと思われる。
角田にとってメキースは、角田をよく知り、角田に対して好意を持ち、高く評価し、彼が何を欲し、何を必要としているかを正確に理解しているボスである。メキースのもとで、角田はRB21をうまく扱えるようになってきた。フェルスタッペンのレベルには及ばないにしても、角田は2戦連続で予選Q3に進出し、アゼルバイジャンではレッドブル移籍後の最高リザルトを達成したのだ。
私は過去の経験から、プレッシャーの中で走ること、F1キャリアをかけて走ることがどういうことか分かっている。とてつもなく速いチームメイトがいて、彼には太刀打ちできないと、エンジニアリングチーム全員が考えているなかでレースをすることがどういうことなのかも知っている。
私は、キャリアの中でそうした経験を少なくとも3度はしている。そして、そういうときには簡単に挫折してしまうことも分かっている。しかしバクーで角田は、そうした流れに逆らって泳ぎ、冷静さを保てることを証明した。
レーシングブルズを強引に抜いて5番手に上がり、リアム・ローソンを置き去りにしたいという誘惑はどれほど大きかっただろう。しかしそこには大きなリスクが伴っており、角田はそれを理解していた。
角田は、レッドブルがコンストラクターズ選手権でフェラーリやメルセデスとの差を縮める手助けをするため、無用なリスクを避けた。選手権の結果は、チームメンバーのクリスマスボーナスの額を決定するため、全員にとって重要だ。
角田は、自分のためだけにレースをしているのではなく、チームのため、そしてフェルスタッペンがマクラーレンのふたりとのギャップを縮めるために戦っているということを証明した。
来年、フェルスタッペンのパートナーを決める際に、レッドブルが重視するのは、まさにこのことだ。従って、バクーで角田がしたことは、彼がF1でのキャリアを続けるために、まさに必要なことだった。
1カ月前には、角田の来シーズンの見通しは非常に暗いように思えた。しかし、バクーで見せた調子と姿勢を保てば、彼は自分のキャリアを救うことができるかもしれない。
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筆者ハービー・ジョンストンについて
イギリス出身、陽気なハービーは、皆の人気者だ。いつでも冗談を欠かさず、完璧に道化を演じている。彼は自分自身のことも、世の中のことも、あまり深刻に考えない人間なのだ。
悪名高いイタズラ好きとして恐れられるハービーは、一緒にいる人々を笑顔にする。しかし、モーターレースの世界に長く関わってきた人物であり、長時間をかけて分析することなしに、状況を正しく判断する力を持っている。
ハービーはかつて、速さに定評があったドライバーで、その後、F1解説者としても活躍した。彼は新たな才能を見抜く鋭い目を持っている。F1には多数の若手育成プログラムがあるが、その担当者が気付くよりもはるかに前に、逸材を見出すこともあるぐらいだ。
穏やかな口調でありつつも、きっぱりと意見を述べるハービーは、誰かが自分の見解に反論したとしても気にしない。優しい心の持ち主で、決して大げさな発言や厳しい言葉、辛辣な評価を口にせず、対立の気配があれば、冗談やハグで解決することを好む。だが、自分が目にしたことをありのままに語るべきだという信念を持っており、自分の考えをしっかり示す男だ。