ハジャーのスピードセンスと学習曲線。ターン1でインにつかないレッドブルの特性【中野信治のF1分析/第15戦】
サマーブレイク明けとなった2025年F1第15戦オランダGPはオスカー・ピアストリ(マクラーレン)がポール・トゥ・ウインを飾りました。今回は、3位で初表彰台を獲得したF1ルーキーのアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)のスピードセンス、角田裕毅(レッドブル)の8戦ぶりの入賞や、ターン1でインにつかないレッドブルRB21について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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オランダGPの最大のトピックスはハジャーの3位初表彰台獲得でしたね。予選Q3でのアタックから決勝に至るまで、落ち着いた走りを続けてレーシングブルズに表彰台という結果を持ち帰りました。抜きにくいザントフォールト・サーキットの特性を理解し、利用しながら自分よりも速いシャルル・ルクレール(フェラーリ)、ジョージ・ラッセル(メルセデス)を抑え続けた彼の技は素晴らしかったです。この経験を通じてハジャーのラーニングカーブ(学習曲線)もさらに上昇するだろうと、そう感じさせる走りでした。
ハジャーの良さといえば、彼の持つスピードセンス(限界の先を感じ取ることができる能力)です。オランダGPの週末はレーシングブルズのクルマが良く、ハジャーに加えチームメイトのリアム・ローソンもフリー走行から速く、予選でふたりは互角の走りを見せると予想していました。ただ、実際に予選Q3を迎えてみると、ハジャーが4番手。ローソンはハジャーから0.225秒遅れの8番手でした。
一発のタイム出しを実現するスピードセンスがなければ、若手ドライバーといえど伸び代、将来性を感じてもらえないのがF1の世界で、特にトップチームはその傾向が強いです。細かな走りの部分や無線でのエンジニアとのやり取りなどが荒削りだったとしても、そこは経験を積めば成長できます。ただスピードセンスに関しては、ドライバー自身の持ち前の要素であり、F1に至るまでのバックグラウンドの影響が特に大きい部分です。
レースに携わるプロフェッショナルは、若手ドライバーのスピードセンスを見れば、そのドライバーがどれほど伸び代があるかがわかります。ハジャーは今回のオランダGPで、自身のスピードセンスをしっかりと見せ、自分にはもっと速くなる伸び代がある、自分はもっと好成績を残す可能性があるドライバーだ、と証明しました。オランダGPは彼にとって、今後のF1キャリアに向けていい流れを作るきっかけとなったでしょう。
裕毅は12番手から最終的に9位となり、8戦ぶりのポイントを獲得しました。今できることをしっかりとやることができた結果ではないかと感じます。最初のタイヤ交換直後に1回目のセーフティカー(SC)が入ってタイムを失ったり、3回目のSC中にスロットルマップに問題を抱えたりという不運もありました。ただ、そんなネガティブな状況ながら裕毅はしっかりと2ポイントを持ち帰りました。苦戦が続くなかでの入賞は、裕毅にとってすごく意味があることだと思います。
今回フェルスタッペンと裕毅の走りを見てみると、予選・決勝ともにターン1でイン側のクリップに着かず、少しアウト側のラインを走っていました。これは、レッドブルの2025年型マシン『RB21』が、低速コーナーでアンダーステアが出てしまう特性からの判断でしょう。ザントフォールトのターン1はバンク(傾斜)がついています。バンクがあればマシンを路面に押さえつける力がアップするので、アウト側のラインを走ることができます。
コーナーのアウト側を走ると走行距離は長くなりますが、コーナーのRが緩くなりステアリングの舵角が減り、より速くアクセルが踏めるようになります。低速コーナーでアンダーステアが出てしまう今の『RB21』にとっては、インのクリップにつかない方が、戦略的・スピード的にもアドバンテージがあったのでしょうね。
一方、マクラーレンのクルマ『MCL39』はフロントがどんどん入っていく回頭性の良いクルマですので、しっかりとターン1でクリップに着いています。アンダーステアに悩まされないのであれば、最短距離となる方がアドバンテージを得られますからね。
レッドブルRB21にとって、ザントフォールトは難しいコースでしたが、荒れた決勝で2台とも入賞を果たしたことはポジティブです。高速コースのモンツァ・サーキットで開催される次戦イタリアGPに向けて、いい流れを作ったと思います。