F1 Topic:角田を襲った“ペダルマップ”問題。ピットレーン用モードから戻らず、コース上での適応を強いられる
「すべてが僕にとって不利な展開。トドメは2回目のピットストップをした後に発生したトラブルでした」
角田裕毅(レッドブル)がそう振り返ったトラブルとは、なんだったのか?
トラブルが起きたF1第15戦オランダGPの2回目のピットストップを振り返ろう。シャルル・ルクレール(フェラーリ)とアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)の接触事故によって出された2度目のセーフティカー(SC)。ここでチームは角田に2度目のピットストップを指示する。
53周目に角田のレースエンジニアのリチャード・ウッドが「BOX、BOX」と無線で角田に伝えると、角田は多くのライバル勢と同様にピットロードへ向かう。ピットレーンを通過した角田に、ウッドは「ストラット12」と伝えた。
タイヤ交換をしてピットボックスを離れて、ピットレーンを走行する角田に、ウッドは「ストラット11」と無線で指示を出す。ところが、コースに合流した直後に、スロットルペダルの反応に違和感を覚えた角田は「ストラットは?」と確認する。
ウッドは「11になっているよ」と言った直後に、「いや、ペダルマップが12になっている。ちょっと待ってくれ、確認する」と回答した。
しばらくして、ウッドはこう告げる。
「なぜなのかわからないが、いまピットストップのペダルマップになっている。スロットルがフラットのマップになっているため、40%しかパワーが出ない」
角田が「パワーがない」と症状を伝えると、「40%しか出ていないからだ。そして、これはコース上では設定を変えることができないんだ。SCラン中に、そのペダルマップで何ができるか一緒に考えよう」とウッドは返した。
角田のペダルマップに何が起きたのか? ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)はこう説明した。
「ピットインするとき、ドライバーはペダルマップを変えます。ただ、トラクションコントロールやスタートでホイールスピンさせないようにスロットルを自動制御するローンチスペシャルとしての使用を防止するために、コース上で変えてはいけないことになっているので、ピットアウトした後に元に戻さなくてはならないんです。それがなんらかの原因で元に戻っておらず、ピットレーンを走行する時のモードになったままでした。たしか2019年のモナコGPでもマックス(・フェルスタッペン)が同じような問題に陥ったと思います」
なぜ40%しかスロットルペダルが開かない状態になったのか。折原GMはこう続ける。
「ピットアウト時にスロットルを目一杯踏んで出ていってもリヤが流れすぎないように、ピットレーンでは40%しか開かないモードにしているからです。通常であれば、ピットボックスを出た後、ピットレーン走行中にそれを元に戻しておくのですが、今回なぜ戻らなかったのかは私も確認できていません」
つまり、角田はスロットルペダルをゼロから一気に踏むような低速コーナーの立ち上がりでパワーがついてこないという不具合に見舞われたと考えられる。
通常、このモードでコースを走ることはないため、角田はSCラン中に、ピットレーン用のペダルマップでコースを走るとどうなのかをいろいろと試して、40%のペダルマップを習熟しながら、レースの再開を待っていたと言う。
それでも、折原GMは「これはもう入賞はダメかなあ」と諦めかけていたというくらい、ピットレーン用のペダルマップでレースを走るのは、難しい作業だった。
そういう状況で2度オーバーテイクし、9位に入賞した角田を、ローラン・メキース代表はこう言って讃えた。
「この9位は2ポイント以上の価値がある」