【老記者コラム】ヨーロッパF1観戦デビューのオススメ。激推しはオレンジアーミー集うオランダGP
1990年代からF1雑誌の編集に携わり、2010年代までヨーロッパまで頻繁に足を運びミドルフォーミュラを取材をしてきた石井功次郎氏による、ヨーロッパF1観戦デビューのオススメをお届けします。
★ ★ ★ ★ ★
海外F1観戦デビューで敷居の低さから言えば、日本から当地まで飛行時間の短い順に中国GP(北京)、シンガポールGP、オーストラリアGP(メルボルン)が挙げられる。いずれも日本との時差はたった1時間なので、身体的なダメージも少ない。
では、自動車レースの本場・ヨーロッパF1観戦デビューはどこのグランプリが良いだろう?
モナコGP(モンテカルロ)は一生に一度は行きたいし、慣れてきたらイタリアGP(モンツァ)やベルギーGP(スパ・フランコルシャン)は外せない。
しかし、“ビギナーフレンドリー”という点を重視して、筆者はヨーロッパF1観戦デビューとしてオランダGP(ザントフォールト)を激推ししたい。地元プロモーターの撤退によりオランダGP開催は2026年まで。2025年の観戦は開催が迫っていて難しいかもしれないが、2026年ならまだ間に合う。
オランダGPの良い点は以下のとおり。
・日本(成田・関西)からオランダの首都アムステルダムへの直行便がある。
・アムステルダム・スキポール空港とアムステルダム市内が距離的に近い。
・現地は公共交通機関が発達しているのでレンタカーを手配する必要が無い。
・アムステルダムは観光名所が多く、日本も含めて世界中の食事が楽しめる。
それでは、それぞれ解説しよう。
日本からの直行便はKLMオランダ航空のみ。中国や台湾、トルコや中東などを経由する割安な航空会社も選択肢に入るが、現地で思い切り楽しむならやはり直行便。新型コロナ禍以前は、成田を10時30分に発ち、アムステルダム・スキポール空港にはまだ明るい現地時間15時00分には着くという、夢のように快適なフライトスケジュールだった。
現在はロシアによるウクライナ侵攻という事情もあって遠回りを余儀なくされ、成田・関西ともに12時半過ぎに発ち、現地到着は19時半過ぎとなっている。しかし直行便なら、トランジット(乗り継ぎ)でダラダラと時間を潰す必要が無い。乗り継ぎでの保安検査(とくに中国ではこれがやっかい)やロストバゲージの不安に見舞われることも無く、日本出国当日に現地ホテルで身体をゆっくり休める直行便はとてもありがたい。
また、スキポール空港はターミナルビルがひとつなので、沖留めの飛行機を使う以外は、バスなどを使わず端から端まで徒歩で移動できるという利点がある、ターミナル内はシェンゲン内外ともにお店が充実しているので、お土産探しや時間潰しで都合が良い。なお、愛煙家の筆者にとって、喫煙ブースがあちこちにあるのもありがたい。
アムステルダム・スキポール空港とアムステルダム中心部の距離感は、日本に例えると羽田空港と東京中心部との距離感と言えば分かりやすいかもしれない。そしてスキポール空港では入国後まず、日本の交通系カードに似た『OVチップカールト(ov-chipkaart)』を手に入れたい。これはアムステルダム市内の地下鉄、トラム、バス、そしてザントフォールト・サーキットへ行くための鉄道にも使える。
オランダGP観戦で基点となるのは、東西南北に公共交通機関が発達してるアムステルダム・スローテルダイク駅。スキポール空港から電車1本で30分弱。同駅から東へ電車で約20分でアムステルダム中央駅。オランダGPの舞台となるザントフォールト・サーキットの最寄りザントフォールト・アン・ジー駅(ザントフォールト海岸駅)まで、西へ電車で30分程度と利便性が高いのである。
スローテルダイク駅からザントフォールト海岸駅までの電車は通常1時間に2,3本程度。これに加えて、オランダGP開催時には『マックス・エクスプレス(Max Express)』と名づけられた増便が運行される。ということで、ホテルの確保はスローテルダイク駅周辺もしくは、そこから枝葉となる公共交通機関を使える場所に狙いを定めたい。鉄道だけでなくトラムやバスも頻繁に発着する当駅は、アムステルダム中心部での観光や食事においても非常に便利である。
なお、ザントフォールト海岸駅からザントフォールト・サーキットの正門までは徒歩で20分弱。筆者は特に急ぐ用事もなかったので、天気が良い日はいつも浜辺まで出てサーキットヘのんびり歩いたもの。西の対岸はるか遠くにはイギリスの風力発電施設が見えた。
現地でレンタカー不要というのは非常に大きなメリット。そもそも総額数万円の費用が発生しない。レンタカー会社のカウンターで長蛇の列に並ぶ必要も無く、自分の順番が回ってきた際に「コレだけの追加費用を払えばワンランク上のクルマを用意できる。保険に入っている? 入っていないとヤバイよ」という無駄話に付き合わされることもない。
また、現地でレンタカーを使っていると常に駐車場探しに苦労する。ホテルの狭い有料地下駐車場からマニュアル車で急峻な坂道発進なんてとても神経を遣う。運良く無料駐車場を路上に確保できても、ヨーロッパでは車上荒らしに遭うのなんて珍しくもない。これの後処理も面倒だ。
現地の交通規則に疎い筆者など、イタリア・ミラノで時間帯通行規制違反に問われたり、ハンガリー・ブダペストやドイツ・ハイデルベルクで車両速度違反に問われたり、金銭的なダメージはもちろんその後処理にも苦労した。つまらないことで楽しいはずの観光旅行を無駄にしたくない。
さらに言えば、自分のミスで交通事故を起こさなくとも、相手のミスで交通事故に遭遇したら、それだけで無駄な時間と手間が発生する。つまり、レンタカーは自由に自分の行きたい場所へ行けるメリットがある一方、それなりのデメリットも内包している。だから私は、海外自動車レース取材でも、レンタカーを使わないにこしたことは無いといつも考えていた。
アムステルダムは観光都市として有名。レンブラント・ファン・レインをはじめとする、オランダ人画家の作品が展示されているアムステルダム国立美術館。『ひまわり』や『種を蒔く人』で有名なフィンセント・ファン・ゴッホ美術館。ナチスの迫害から逃れたアンネ・フランクの家(博物館)。F1でも馴染み深いハイネケンのエクスペリエンスで、ビールを楽しむのも良い。個人的には猫の博物館『KattenKabinet』と運河に船を浮かべた猫の保護施設『De Poezenboot』がツボだった。
また、観光都市ゆえにアムステルダムは世界各国の食事が楽しめる。個人的に当地で日本料理屋のお気に入りは、日本人従業員が庶民的な料理を提供し、なぜか日本のテレビ番組(夏の高校野球など)を店内で放映している『おらんだや』、日本の職人さんが正統派と思える料理を提供してくれる寿司メインの『あきつ』が両巨頭である。オランダは日本と似た気候なので、日本と似た野菜が提供されるというメリットもある。
日本人従業員が居ないはずなのにあちこちラーメン屋の水準が高かったり、駅のキオスクでおにぎりが売られていたりという点でも、個人的にアルムテルダムの評価は高い。夜遅くなってからの外出などの無茶はせず、観光客を狙ったスリ/置き引きにさえ注意していれば、少なくとも昼間のアムステルダム市内は警察官があちこちで目を光らせているので安心して良い。
現在、ユーロ円は170円を超えるほどで、ヨーロッパはどこへ行ってもこの円安に悩まされる。ドル円、ポンド円もしばらく為替の円安は続くだろう。であれば、「日本からの直行便がある」「現地でレンタカーを手配しなくても良い」という2点だけでも、オランダGPは欧州F1観戦デビューにおいては筆頭候補とお薦めしたいのである。
しかも、2026年はマックス・フェルスタッペンがレッドブルF1で戦う最後のシーズンとなるかもしれない。ホンダ/HRCのパワーユニットを搭載していないレッドブル・レーシングとはいえ、観客席とコースの近い“トラディショナルサーキット”で、熱狂的な“オレンジアーミー”とともに地元ドライバー“マックス”を応援する最後のチャンスをおおいに楽しんではいかがだろう?