「いい経験になった」タイヤを労わりながら、王者を抑え込んだボルトレート。文句なしの自己ベスト6位【ルーキー・フォーカス】
夏休み前の最後1戦となったF1第14戦ハンガリーGPで最も輝いていたルーキーがキック・ザウバーのガブリエル・ボルトレートだったことに異論を挟む余地はないだろう。
予選で7番手を獲得しただけでなく、レースでの6位も自己最高位を更新した。リザルトも然ることながら、ハンガリーGPでのボルトレートはレース内容が秀逸だった。
7番手からスタートしたボルトレートは、スタート直後にランス・ストロール(アストンマーティン)を抜いて6番手に上がると、その後は1ストップを成功させるため、冷静な走りに徹した。ハンガロリンクは抜きところがないため、アグレッシブなマルチストップ作戦よりも、タイヤを労って1ストップを成功させたほうが得られる報酬が大きいと考えたからだ。
ただし、それは周囲が考えるほど容易ではなかった。というのも、3周目から6番手のボルトレートの前には2度ワールドチャンピオンに輝いたフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)がおり、簡単にはオーバーテイクできないからだ。
また、後ろにはリアム・ローソン(レーシングブルズ)とストロールをオーバーテイクしてきた4連覇中の現役チャンピオンであるマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が迫ってきており、少しでもミスすればオーバーテイクされてしまう。まさに、「前門の虎、後門の狼」という状況だった。
並のドライバーであれば、フェルスタッペンを意識するがあまり、タイヤを労わることができずに、1ストップ作戦を途中で変更せざるを得なかったかもしれない。あるいはタイヤを温存しようとするがあまり、フェルスタッペンに付け入る隙を与えてしまいオーバーテイクされていたかもしれない。
しかし、ボルトレートはタイヤを労わりながら、フェルスタッペンを抑え込むという二律背反を乗り越える素晴らしい走りを披露した。
ボルトレートをコース上で抜くことが難しいと判断したレッドブルは、早々に1ストップをあきらめて2ストップに切り替えたほど。さらにボルトレートは、スタート時に履いたミディアムタイヤでアロンソより1周長い40周を走破した。
「2度のワールドチャンピオンと4度のワールドチャンピオンに挟まれてレースをするというのは、大変だったけど滅多にあることじゃないから、いい経験になった」
そう語るボルトレートに、夏休み前までの14戦のなかで自身のベストレースは何かと尋ねると、笑顔で次のように即答した。
「間違いなく、このハンガリーGP。だって、2度のワールドチャンピオンと4度のワールドチャンピオンに挟まれながら、しっかりと自分のレースができたからね。大変だったけど、こんな機会は滅多にあることじゃないから楽しかったし、いい経験になった」
ドライバーズポイントでは64点のアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)と22点のアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)の後塵を拝し、14点にとどまっているボルトレート。しかし、夏休み前の4戦に限れば、アントネッリとハジャーが1点しか挙げられなかったのに対して、ボルトレートは14点を獲得。現在、最も勢いに乗っているルーキーが後半戦でこのベストレースとなったハンガリーGPを上回る走りを披露する可能性は十分考えられる。