“ステップバック”で表彰台復帰のメルセデス、一方のウイリアムズも25年型開発“完全終了”へ
ジョージ・ラッセル(メルセデス)が先週末開催のハンガリーGPで3位に入り、メルセデスは今季2025年のヨーロッパ・ラウンドで初の表彰台を獲得した。しかしその背景には、欧州ラウンドの初戦となったエミリア・ロマーニャGPで投入されたアップデート版のリヤサスペンションを「撤去する」という苦渋の決断が隠されていた。
一方のウイリアムズも車両規定の大変革を控える2026年を念頭に、将来のタイトル獲得に向けた長期的な視点から現行マシンの開発を「完全に停止」し、それによってF1コンストラクターズ選手権5位の座を失う覚悟も示している。
ラッセルが勝利を挙げ、アンドレア・キミ・アントネッリもポディウムを獲得したカナダGPを経て、チーム代表のトト・ウォルフはこのモントリオールでの結果が、発展型リヤサスペンションを「長くマシンに装着したままにしていたことにつながった」と分析。しかし従来型のリヤサスペンション構成に戻して挑んだブダペストの週末で得られたパフォーマンスは、マシンが「以前の構成の方が予測しやすいことを示している」と、北米の総合モータースポーツサイト『racer.com』が報じている。
「(5月のイモラで)メカニカルアップグレードで問題を解決しようとした。それで問題が解決したかどうか正確には分からないが、マシンに別の問題が入り込んできた。それが不安定さを引き起こし、ドライバーの自信を完全に失わせてしまった。その原因を解明するのに数レースほど掛かってしまったんだ」と説明したウォルフ。
「モントリオールでの勝利にも少し惑わされたが、もしかしたら『それほど悪くないかもしれない』と思い、最終的にそれを解消する必要があるという結論に達するのが遅れてしまった。だが、それが解消されたいま、マシンは安定した状態に戻っているようだ」
現行規定によるグラウンドエフェクト車両は、あらゆる速度域でフロアと路面のクリアランスを最適に保ち、安定したダウンフォースを確保することが欠かせない。そのため各陣営はリヤサスペンションに工夫を凝らし、荷重の掛かる高速域のみならず、空力で抑えの効かない低速域でも車高を保つべく、リヤの車高上昇を抑制する『アンチリフト機構』の採用を進めてきた。
しかし従来の機構にアップデートとして組み込む際、シミュレーションツールと現実世界との相関性が欠如し、マシン特性に予想外の大きな影響を与えるこの状況は「懸念すべきものだ」とウォルフも認める。
「アップグレードはパフォーマンス向上のために行われ、マシン各部について多くのシミュレーションと分析を実施している。しかし、それらがまったくの的外れで、アナログの世界に戻ってマシンに実装し、それがどう機能するか。もし機能しない場合、本来どう機能するかを確認する必要がある」と続けたウォルフ代表。
「これはF1に関わる誰にとっても難しい点だと思う。デジタル世界が示すものと、現実世界との相関性をどうやって実現するのか? これがこれまでも課題となってきたが、今回がまさにその最新の例だ」
同じくリヤサスペンション変更の影響について説明したトラックサイドエンジニアのアンドリュー・ショブリンは、この問題こそメルセデスが2026年型マシンの開発をより深く理解するために活用できると述べた。
「新型サスペンションを実装するのは、マシンをより速く走らせるためだ。しかし今回は明らかに何かが間違っていた」と応じたショブリン。
「ドライバーたちは、サスペンションを変えることで明らかに良くなったと感じていた。しかし高速コーナーでの安定性、とくに進入時にかなりの速度を出さなければならないコーナーでは、彼らはマシンを思うようにプッシュする自信が得られなかったんだ」
「我々はつねにマシンのペースを向上させるための工夫をしてきた。しかし、今回はそれができなかった。現在行われている作業の多くは、この問題の原因を正確に理解すること。これは明白な問題ではなく、そうでなければ、そもそもこの問題は発生しなかったはずだ。しかし、そこから多くの学びが得られるだろう。その一部は今季の我々にも利益をもたらすし、さらに重要なのは、それが将来にとって有益になるということなんだ」
一方、シーズン序盤からトップ5フィニッシュを3回記録し、ジェッダからモナコまで4戦連続でダブルポイントを獲得してコンストラクターズランキングで5位につけているウイリアムズは、ベルギーで導入されたアップグレードが2025年型の開発作業としては最後になると、代表のジェームス・ボウルズが明言した。
「そう、すべてをシャットダウンした。もう決定事項だ。もちろん、株主との合意に基づいて決定されたものだよ」と続けたボウルズ。
「現状のコンストラクターズ5位という結果は本当にうれしい。我々自身、パートナー、そしてチームに関わるすべての人々にとって素晴らしい要素だと思う。しかし、このチームの目標はワールドチャンピオンシップ獲得なんだ」
そのボウルズは、ウイリアムズが今季型のマシン開発に注力する範囲を限定しているにも関わらず、現在の位置をキープしているのは「チームが初期のパフォーマンスレベルをうまく活用した点にある」と指摘する。
「確かにシーズンを振り返ると、期待に応えられた部分もあった。私に言わせれば、2025年型マシンは5番手からおそらく8番手程度(の性能)で、周囲のライバルとは非常に近しいと思う。だから、その決定は1月には下されていた」
「ベルギーGPでのアップデートは当初、必ず実行できるという保証さえなかった。オフの1月、2月、そして3月に少しだけ風洞内で行った調整の一部に過ぎない。それだけなんだ」
「だから、これ以上何もするつもりはない。もしその結果、チャンピオンシップで6位か7位になったとしても、それはそれで構わないよ」