ルクレール、ポールから失意の表彰台圏外。フェラーリに欠けている挑戦の姿勢と信頼【F1第14戦決勝の要点】
2025年F1第14戦ハンガリーGPの予選後、マクラーレン勢を抑えてポールポジションを獲得したシャルル・ルクレール(フェラーリ)はこう語っていた。
「スタート直後のターン1が鍵になると思う。もしそれができれば、そこからは何としても抑え切るよ」
迎えた70周の決勝レース。ルクレールは2番手オスカー・ピアストリ(マクラーレン)の猛攻を凌いで、真っ先にターン1に飛び込んでいった。その後はマクラーレンを上回るペースで周回を重ね、4周目にはすでに2秒以上のギャップを築いた。
14周目にはその差は3秒以上に広がる。アンダーカットを狙ったピアストリが、18周目にピットインすると、フェラーリ陣営もすかさず反応して、ルクレールは19周にピットに向かった。両者の差は1.2秒まで縮まったものの、ルクレールはかろうじてピアストリの前でコース復帰することに成功した。ハードタイヤに履き替えてからもルクレールのペースは、ピアストリより速く、23周目に2台のギャップは2秒以上に広がった。
ところが、それまで1分20秒台だったルクレールのペースは、24周目以降1分21秒台に落ちていった。1分20秒台後半をキープするピアストリとの差は、28周目には1.6秒まで縮まった。このタイミングで、ルクレールはこんな無線を投げている。
「レース前に話し合ったような感じになっているよ。アレをやる前に、もう一度話し合わないと」
ルクレールの口にした「アレ」とは、何を指しているのか。ルクレールのペースの推移、そしてその後のルクレールの無線を聞く限り、ハードブレーキングをできるだけ抑えてタイヤを労わることだったと推察される。
フェラーリのレースペースは決して悪くなかった。ただ、相手は今季最強のマクラーレンだ。しかもこの時点で暫定首位のランド・ノリス(マクラーレン)が、1ストップ作戦で逆転を狙っていることが明らかとなった。だったらなおのこと、極力タイヤマネジメントに徹する必要がある。それがチーム側の考えだったのだろう。
しかし、一方のルクレールはそう思っていなかった。立て続けに、こう主張している。
「これを続けていたら、レースを失うよ。もうすでに、すごくタイムロスしてるじゃないか」
この無線に対する担当エンジニア、ブライアン・ボッツィの返答は流れなかったが、おそらくタイヤマネジメントを最優先しろという指示だったと思われる。ルクレールは何とか背後のピアストリを1秒以内まで近づけることは阻止したものの、その間に1ストップ作戦のノリスが30周目にピットイン。ルクレール、ピアストリより0.4〜0.7秒速いペースで周回を重ねる展開になった。
36周目を迎えるころには、見た目上は首位を走るルクレールとの差を、ノリスは17秒まで縮めた。この時点で、2ストップ作戦であり、あと1回ピットに入る必要があるルクレールの勝利の目は消えた。さらに、2度目のタイヤ交換後の51周目には、同じ2ストップのピアストリにも為す術がないままオーバーテイクされた。
「物凄く不満を感じてるよ。どうして僕の言うことを聞いてくれなかったんだ。もっと他のやり方もあったのに。このまま表彰台に上がれたら、奇跡だよ」と、ルクレール。
しかし、62周目には同じ2ストップのジョージ・ラッセル(メルセデス)にもかわされ、ルクレールは4位でチェッカーを受けることが精一杯だった。
もしルクレールの主張をチーム側が認め、攻めの姿勢で走り続けていたら、ルクレールは勝てていただろうか。フリー走行で見せたマクラーレンと遜色のないロングランペース、そしてルクレールのタイヤマネジメント能力を思えば、その可能性が少なかったとは思わない。
挑戦の姿勢とエースドライバーへの信頼。今のフェラーリに決定的に欠けているのは、このふたつではないだろうか。