レッドブル代表を前向きに引き受けたメキース。質問集中でもホーナーと従業員への気遣いを見せる【代表のコメント裏事情】
クリスチャン・ホーナーがレッドブルのチーム代表の座を解任されて、最初に迎えるグランプリとなったF1第13戦ベルギーGPの国際自動車連盟(FIA)の記者会見では、新しくレッドブルのチーム代表に就任したローラン・メキース代表に質問が集中した。
この会見でメキースは、「レッドブルが発表する数時間前に、オリバー(・ミンツラフ/スポーツおよびイベントプログラム責任者)とヘルムート(・マルコ/レッドブルのモータースポーツコンサルタント)から電話があって、レッドブルのチーム代表を打診された」と明かした。ただし、メキースは即答せず、「数時間、考えさせてほしい」と言って電話を切ったという。
その後、こう自問自答したという。
「待てよ。レッドブルだ。あのエネルギー、あのスピリット、あのレースに対する姿勢──あの集団がお前のことを必要としているんだぞ」
メキースに迷いはなかった。
「もちろん、光栄です。喜んで引き受けます」と答えたという。
ただし、この会見でメキースは、ある人物に気を遣っていた。それは前任のホーナーだ。
「電話を受けたとき、当然ながら最初に浮かぶのはクリスチャンのことだった。彼は私にこの2年間、とても温かいサポートをしてくれた。彼がオリバーとヘルムートと共に、レッドブルファミリーに戻ってくるよう努力してくれたことは忘れない。その彼の代わりを務めるというのは、さまざまなな感情が交錯したことは言うまでもないだろう」
この発言はメキースの本音であると同時に、メキースを取り巻く状況が影響していると考えられる。ホーナーの解任は、オーストリアにあるチームの親会社の上層部がチームの未来を考えて決断したものだが、イギリス・ミルトンキーンズにあるチームのファクトリーに務める従業員には、ホーナーによって採用され、20年間ホーナーの下で仕事してきた人は少なくない。新しくチーム代表となったメキースがホーナーに関する質問で気を使ったのは、残された従業員の心情を逆撫でしたくなかったからだろう。
ホーナーの後を継ぐプレッシャーを感じているか、という質問に対する答えに、そのことが強く感じられた。
「クリスチャンは、私が代表になることが発表されてから、最初にテキストを送ってきて、最初に電話をかけてくれた人物だ。昨日もやり取りをした。このような状況のなかでもサポートしてくれるなんて、本当に感謝している。彼のような偉大な人物は簡単には出てこないし、私に彼の代わりは務まらない。私の仕事はレッドブル・レーシングのCEOとチーム代表。そのことに集中したい」
ロブ・マーシャル(元チーフエンジニアリングオフィサー)がマクラーレンへ移籍して以降、エイドリアン・ニューウェイ(元チーフテクニカルオフィサー)、ジョナサン・ウィートリー(元スポーティングディレクター)ら複数の幹部がチームを離れた。そのほかにも、数年前までレッドブルにいたが今ではライバルチームで仕事をしている人が数多くいる。ホーナー解任で、今度はホーナー派が離脱するようにことになければ、レッドブルは一気に弱体化することになる。
FIAの会見だけでなく、ベルギーGPの週末に行われた会見でのメキースの発言は、記者からの質問に対する答えであると同時に、ファクトリーの従業員へのメッセージにも聞こえた。