2025.07.21

「ただの負け犬」「お前が誠実さを語るな」──フェルスタッペンとラッセルの確執はなぜ深まっていったのか/F1コラム


2025年F1第10戦カナダGP 2位マックス・フェルスタッペン(レッドブル)と優勝したジョージ・ラッセル(メルセデス)
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 ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が、F1で起こるさまざまな出来事、サーキットで目にしたエピソード等について、幅広い知見を反映させて記す連載コラム。今回は、マックス・フェルスタッペンとジョージ・ラッセルの確執の歴史を振り返り、なぜそういう関係に陥ったのかについて考察した。

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 ひとりは、しばしば規則のギリギリを攻めるドライビングをするオランダ人ドライバー。もうひとりは、常に規則を守る紳士としてのイメージを大事にするイギリス人ドライバー。ふたりは、最悪の敵同士だ。

 マックス・フェルスタッペンとジョージ・ラッセルの間にある敵意は、2025年F1における最も興味深い側面のひとつである。

マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とジョージ・ラッセル(メルセデス)
2025年F1第10戦カナダGP 決勝後のヒアリングを終えたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とジョージ・ラッセル(メルセデス)

■敵意の始まりは2023年アゼルバイジャンでの接触

 始まりは、2023年アゼルバイジャンGPスプリントレースのスタート直後の出来事だった。ラッセルはターン2でフェルスタッペンに接触した。レース後、ラッセルが「タイヤに最適なグリップがなかった」と弁明したのに対し、フェルスタッペンは次のように返した。

「あの時は誰だって最適なグリップなんてなかったじゃないか。クソッ!」

 フェルスタッペンの怒りに驚き、ラッセルはこう述べた。

「彼があんなに怒っていたのはすごく意外だった。レッドブルに乗ったマックス・フェルスタッペンが相手だって、ただ道を譲るつもりなんてない。僕は戦い、勝つために、ここにいるんだ」

 激しい言葉が交わされたものの、それはありふれたレース中の接触に過ぎないように思われた。しかし、それが後に発展していく確執の始まりだった。ただ、その後しばらくは、その火種が大きくなることはなかった。フェルスタッペンの乗るレッドブルはあまりにも優れていたため、彼がラッセルや他のドライバーと接近戦を繰り広げる機会はほとんどなかったからだ。

2023年F1第4戦アゼルバイジャンGP スプリント後、ジョージ・ラッセル(メルセデス)に抗議するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2023年F1第4戦アゼルバイジャンGP スプリント後、ジョージ・ラッセル(メルセデス)に抗議するマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

■2024年カタール予選:ペナルティ問題で亀裂が決定的に

 次の章が記されたのは、2024年カタールGPの予選だった。Q3でラッセルがアタックラップを開始した時、フェルスタッペンはピットに戻る途中だった。ラッセルはフェルスタッペンに妨害されたと感じ、無線を通して強くそのことを指摘した。スチュワードは両者を呼んで事情を聴取し、フェルスタッペンには1グリッド降格のペナルティが科された。これによって、ラッセルがポールポジションを得ることになり、“善人”ラッセルに対するフェルスタッペンの嫌悪感はさらに強まった。

 フェルスタッペンは、「正直言って、本当にがっかりだ」と語った。「あの会議室には人生で何度も入ったが、あそこまで誰かを貶めようとする奴は見たことがない。すべての敬意を失った」

 ラッセルは“英国紳士”としての姿勢を保とうとした。

「すごく皮肉だと思うよ――というのも、土曜の夜、彼(フェルスタッペン)は、わざと僕にぶつかるって言ったんだ。正確には『あいつを頭から壁にぶつけてやる』と言った。そんなことを前日に言っておきながら、誰かの人間としての誠実さを疑うなんて、皮肉にもほどがあると思う」

 フェルスタッペンはこう応じた。

「彼が何を言おうが気にしない。あいつの話なんかしたくない。ただの負け犬だ」

予選2番手のジョージ・ラッセル(メルセデス)と予選トップのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)
2024年F1第23戦カタールGP 予選2番手のジョージ・ラッセル(メルセデス)と予選トップのマックス・フェルスタッペン(レッドブル)

 フェルスタッペンは、カタールGPでセカンドグリッドから素晴らしいスタートを決めて首位に立ち、勝利を挙げた。一方でラッセルは、ポールポジションを得たものの、最終的に4位でフィニッシュした。

■ディナーでの出来事が示すふたりの距離

 数週間後、ラッセルとフェルスタッペンの間にある敵意を、同僚ドライバーたちは目の当たりにすることになった。F1ドライバーたちが集まる恒例のプライベートディナーが開かれ、ラッセルは一番最後に到着した。その時に空いていた椅子はひとつだけ。フェルスタッペンの隣だった。しかしラッセルはそこには座らず、椅子を持って、テーブルの反対側の、当時のチームメイト、ルイス・ハミルトンの隣、そしてフェルスタッペンから最も遠い場所へと移動したのだ。

 ランド・ノリスは、この気まずい瞬間についてInstagramで絵文字を使いながら、こうコメントした。

「2024年のディナー。みんなが考えているあのふたりは、できるだけ離れて座ってたよ」

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■2025年スペインGP:故意の接触

 今シーズンがオーストラリアで開幕した時、フェルスタッペンはラッセルとの関係が冬の間に改善したかどうかを尋ねられて、こう答えた。

「いや――いまだに衝撃的なほど悪いままだ」

 そしてその関係はさらに悪化した。スペインGPで、苛立っていたフェルスタッペンがラッセルのメルセデスに接触した、あのインシデントによってだ。

 セーフティカー後のリスタートで、ハードタイヤを履かされたフェルスタッペンはポジションを落とした。ラッセルからコース外に押し出されるような形になった後、ポジションを保ってコースに復帰したフェルスタッペンは、ペナルティを恐れたチームから、ラッセルを前に出すよう指示された。強い不満を抱いたフェルスタッペンは、いったんスローダウンしてラッセルを先行させる素振りを見せたすぐ後に加速して接触、その後、後ろに下がった。この件についてフェルスタッペンには10秒のタイムペナルティとペナルティポイント3を科された。

「ぶつけられた。彼が何を考えていたのか分からない。でも、それがマックスのレースのやり方なんだ」と、ラッセルはレース後に語った。

 レース直後、フェルスタッペンは、接触について一切言及しなかった。スチュワードを含むすべての者が、この接触は故意になされたと判断した。翌日、気持ちを落ち着かせたフェルスタッペンはInstagramにこう書いた。

「正しいことではなかった――あってはならないことだった」

■性格の違いと契約問題が敵対関係を深める

 なぜ、世界で最も優れたレーシングドライバーのうちのふたりが、最悪の敵同士にになってしまっているのか?

 まず考えられるひとつの理由は、ふたりの性格が大きく異なることだ。フェルスタッペンは、ラッセルの“清廉潔白なナイスガイ”というイメージに苛立ちを覚えているようだ。一方で、グランプリ・ドライバーズ・アソシエーションの委員でもあるラッセルは、フェルスタッペンのアグレッシブな走りをどうしても受け入れられない。

 しかしそれだけではなく、ラッセルにはプレッシャーがかかっているという側面もある。メルセデスとの現契約は今シーズン限りで終了するにもかかわらず、チーム代表のトト・ウォルフは、契約延長を積極的に進めずにいる。そしてウォルフは長年にわたりフェルスタッペンにアプローチをし、「遅かれ早かれ我々は一緒に働くことになるだろう」という発言までした。

 好きではない人間に自分のシートを奪われるかもしれないという可能性は、ラッセルにとって簡単に受け入れられることではないだろう。

 ラッセルとフェルスタッペンが互いに抱く敵意は、今のところ、アイルトン・セナとアラン・プロストのレベルには達していないが、将来、そこまで発展する可能性はありそうだ。

マックス・フェルスタッペン(メルセデス)とジョージ・ラッセル(メルセデス)
2025年F1サウジアラビアGP 予選後記者会見でのマックス・フェルスタッペン(メルセデス)とジョージ・ラッセル(メルセデス)


(Text : Peter Nygaard)

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