年間計画に沿ってイギリスで新エンジンを投入も、クラッシュのハジャーは消火剤の影響を調査中:ホンダ/HRC密着
2025年F1第12戦イギリスGPに、ホンダ・レーシング(HRC)は新しいパワーユニットを投入してきた。3基目のICEが投入されたのは、マックス・フェルスタッペン(レッドブル)とアイザック・ハジャー(レーシングブルズ)。4基目のICEが投入されたのが、角田裕毅(レッドブル)だ。
今回HRCユーザーのなかでリアム・ローソン(レーシング・ブルズ)に新しいパワーユニットを投入しなかったのは、すでにローソンのICEとターボ、MGU-Hが5基目となっているからだ。また、角田が4基目となっているのは、第7戦エミリア・ロマーニャGPの予選でクラッシュし、レースに向けて緊急で3基目を使用していたためだ。そのイモラでクラッシュしたパワーユニットに関して、ホンダ・レーシング(HRC)の折原伸太郎(トラックサイドゼネラルマネージャー)はこう語る。
「現在も調査しているところですが、リスクをとって使うか、あるいは安全策をとって使用しないかを検討しているところです。モノによっては使えるものとそうでないものがあり、使えるものもダメージがゼロではないので、どういう使い方をするのか、またどういうメンテナンスをして使うのかを話し合っています」
例えば、ICEに若干のダメージが確認された場合、それがピストンなどの場合はレギュレーションで修理や交換ができないため、手をつけることはできない。しかし、シリンダーブロックに若干のへこみがある程度の場合、国際自動車連盟(FIA)の封印を開封することなく、シリンダーブロックのへこんだ部分にウエットカーボンを貼り付けるなどして、補強は可能となる。
今回、角田のパワーユニットがどこにどんなダメージを受けているのかについては明らかにされていないが、パワーユニットすべてが使用できない全損ではなさそうだ。
角田以外のフェルスタッペンとハジャーはここまで予定通りにパワーユニットを使用し続けている。24戦で争われる2025年のF1でイギリスGPはシーズン前半戦の終盤戦という位置付けだ。その舞台であるシルバーストンに早くも3基目を投入した理由を、折原GMはこう説明した。
「シルバーストン・サーキットのパワー感度(エンジンの馬力がラップタイムに影響する割合)が大きいことと、シーズンを見据えたときに、ここで入れるのがバランスがいいのです」
今年のカレンダーのなかでパワー感度が大きいサーキットは日本GP、サウジアラビアGP、エミリア・ロマーニャGP、イギリスGP、ベルギーGP、イタリアGP、アゼルバイジャンGPの6つ。じつは後半戦のアゼルバイジャンGP以降に、パワーサーキットがないことがわかる。
日本GPは3戦目のため1基目のエンジンを使い(その後、バーレーンGPとモナコGPで使用)、サウジアラビアGPで入れた2基目をエミリア・ロマーニャGPでも使用し、その後カナダGPとオーストリアGPで使用すると、イギリスGPにフレッシュエンジンを投入するのは極めて論理的でバランスがいいのである。
そのことは、HRC勢だけでなく、メルセデス勢(マクラーレン2台、メルセデス2台、アストンマーティン2台)、フェラーリ勢(フェラーリ2台、ハース1台、キック・ザウバー2台)の6チーム11人が、シルバーストンに新しいエンジンを投入してきたことでもわかる。
そのフレッシュエンジンを入れたフェルスタッペンが予選でポールポジションを獲得。しかし、日曜日のレースはあいにくの天気となり、HRC勢はフレッシュエンジンのパワーを活かすことができなかった。
そのなかでも折原GMが懸念していたのが、雨のなかでアンドレア・キミ・アントネッリ(メルセデス)に追突した後、コントロールを失ってバリアにクラッシュしたハジャーのパワーユニットだ。クラッシュ自体によるダメージはほとんどなかったが、問題はその際にマーシャルによって吹きかけられた消火剤だ。
「排気と吸気の両側から消火剤が入れられていて、いま調査している最中です。見えている部分の消火剤は除去できますが、どこまで入っているかが不明で、今は影響が読めません」(折原)
エンジンは分解できるところとできない部分がある。もし、燃焼室に消火剤が入っていると分解して除去することができない。今回ハジャーがイギリスGPで使用していたのはフレッシュな3基目。仮にこれが今後使用不可能となった場合、年間計画を見直さなければならなくなる。
なお、昨年まではパワーユニットのメンテナンスは基本的にHRC Sakuraで行うことが多かったが、今年からHRC UKが本格的に稼働し始めたので、ハジャーのパワーユニットはHRC UKに戻して、消火剤によるダメージ度合いを調査するとともに、然るべきメンテナンスを行う予定だという。