ピアストリ急減速に対する私見。ダウンフォース量の違いが如実に現れた雨の決勝【中野信治のF1分析/第12戦】
シルバーストン・サーキットを舞台に開催された2025年F1第12戦イギリスGPは、決勝が雨となるなかランド・ノリス(マクラーレン)が自身通算8勝目/今季4勝目を飾りました。
今回は劣勢予想を覆したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の予選ポールポジション獲得、決勝でのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)の急減速に対する私見、そして239戦目にして初表彰台を掴んだニコ・ヒュルケンベルグ(キック・ザウバー)について、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。
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まず、予選でのフェルスタッペンのポールラップには痺れました。初日からアンダーステアに苦しんでいたこともあり、正直フェルスタッペンがポールを獲得するとは思っていませんでした。
シルバーストン・サーキットはハイスピードコーナーに加え、低速コーナーがあるのでブレーキングが重要です。そのため、ある程度ダウンフォース量を確保して走らなければタイムが出ないと思われました。ただ、アンダーステアへの対応として、フェルスタッペンのクルマはかなりのダウンフォース量を減らし、コントロールがより難しい状況となるなかで完璧なアタックを決め、マクラーレンを上回りました。まさに衝撃的な1周でしたね。
これは、フェルスタッペンがレッドブルのクルマに乗り続け、知り尽くしたクルマであること。そしてフェルスタッペンのマシンコントロール能力の高さが実現した技ですね。フェルスタッペンはただ単純にクルマのコントロールが上手いだけではなく、クルマの動きを繊細に感じ取ることができるという強みを持っています。
簡単に、『ウインドウの狭いクルマや動きがピーキーなクルマを乗りこなすことができる』とフェルスタッペンを評する人がいますが、その上手さや乗りこなすことができる要因は、フェルスタッペンが繊細なドライビングをできるからです。暴れるクルマを豪快に抑えつけるとは真逆の、究極の繊細なドライビングができるからこそ、フェルスタッペンはレッドブルのクルマ『RB21』を操ることができていると考えています。
決勝レースは雨が降ったり止んだりと、イギリスらしい天候でしたね。シルバーストン・サーキットは路面のミュー(摩擦係数)が低く、雨が降るとかなり滑ります。そのため、雨が降るとよりレーシングラインの作り方、走り方という部分で経験や繊細さが求められるサーキットです。
その上で天候が変わり続け、スタートで履いたインターミディエイトタイヤ(小雨用の浅溝が入ったタイヤ/グリーン)をいつ交換するのか、1周でも判断を誤ると10〜20秒タイムを失ってしまうという状況が多々ありました。ドライバーやチームにとっては非常に難しい判断を迫られる、勇気を試されるコンディション下のレースでしたね。
そんな難しいコンディション下でノリスは冷静な走りを見せてくれました。刻々と変わる天候と予報に備えるようにタイヤのデグラデーション(性能劣化)をコントロールしたことは勝因のひとつにはなったと思います。ただ、もしピアストリに10秒のタイムペナルティがなくてもノリスが勝てたかについては、少し疑問ですね。
とはいえ、レース全体を俯瞰して見ることができていたと感じ、そこはいつものノリスと違うなと感じました。ライバルにミスがあった際に、確実に上を獲りにいけるポジションに居続けたことが、ノリスの母国初優勝に繋がったと見ています。
今回の決勝では、路面が乾きつつあるなかに降雨予報が出たりと、インターミディエイトタイヤで周回を重ねなければならない、インターミディエイトタイヤを保たせることが求められる場面がありました。路面が乾く、水がなくなるにつれて溝の入ったインターミディエイトタイヤは滑り、タイヤ温度が上昇すると同時に、タイヤの内圧が高くなってしまいます。内圧が高くなると、タイヤの設置面が狭くなってさらに滑りやすくなり、タイヤを使ってしまうことに繋がります。
そういった悪循環を脱するには、タイヤに熱を入れすぎずに走ることしかできません。そのため、わざと水たまりが残る場所を選んで入ったり、ブレーキングや立ち上がりの加速など、多少ペースを落としてでもタイヤのスライドを抑えるテクニックが求められます。こういった状況では、ダウンフォースが多いクルマはタイヤのスライドを抑えやすく、逆にフェルスタッペンと(角田)裕毅の乗った今回のレッドブルのような、ダウンフォースの少ないクルマが苦労します。ダウンフォース量の違いが、如実に現れたレースになったと感じますね。